第65話 ドキッとする催し
第6章 解法
ポートリースに戻って、数日後。
俺たちはいつも通り、依頼を請けて、町を出た。
変わったことと言えば、Bランクの依頼になったことだ。
まぁ、あとは俺の演奏にバフが乗るようになったことかな。
でもそれは、「変わった」というより、「戻った」が近い。
戦闘中も、キャンプ中も、演奏に俺自身がノるようになった。
みんなも、前より心地良いと言ってくれている。
とは言え……
「だ、だだだ、大丈夫ですかね」
「食べられ役はあなたよ」
「頑張って治すですよっ♡」
「さすがに食べられちゃったら……」
いつも通りだ。
いや……小さなことで言えば、ミルの機嫌がいつもより良さそう。
いつもにこやかではあるんだけど、今日はまるで「ルンルン♪」と聴こえてくるようだ。
良いことがあったなら、共有してもらおうかな。
幸せのお裾分けを目当てに、少しそばに寄ってみた。
「ルン♪ ルン♪」
あ、口で言ってた。
「ミル、なんか、良いことでもあった?」
俺の一言にキュッと足を止める。
ぱぁっと強まる笑顔。
「見てくださいっ。こんなに可愛くなりましたっ♥」
ステッキを見せつけてきた。
自慢げで得意げな顔。
ん?
「あ」
デザインが微妙に変わってる……
「ほんとだ。前より、華やかになったね」
「そうなんです!
グレイヴァで良い木材が手に入ったので♪」
並んで歩き始める。
「そっか。木工の勉強をしたんだったね。
金属の部分は?」
「もちろん、自分で作ったですよっ☆」
そういえば、この子は"自分のグッズを量産する”器用な子だった。
おーおー。
鼻が伸びてる。
まさか、物理的に伸びて……
さすがに、それはないか。
「魔法石も以前の物より、質の良い物を買ったので、治癒の力も上がったですー♪」
それにしても、この魔法少女のマジカルステッキみたいなデザイン。
アイドルのような衣装。
異世界人であるミルが自分で思いついたんだろうか。
それとも、そういう文化はすでにあるもの……なのか?
「その衣装に似合ってるね。
服もミルが作ったのか?」
「いえ。お裁縫は、とってもお上手なお友達がいるので」
おや。
いつもの広がるような笑顔じゃない。
噛みしめるような、自分自身が幸せを味わうような笑顔だ。
珍しい。
「そうなんだ。ポートリースにいるの?」
ぶんぶんと首を振る。
「ユイちゃんは町から町へ旅をしているので、もうずーっと会っていません」
微笑んでいるけど、少し寂しそう、かな。
「旅をしているなら、いつかまた、会えるかもね」
「……はいっ✿」
朝日に負けない笑顔が、戻ってきた。
数日後の休日。
食材の買い物に出ると、中央広場に人だかりが出来ていた。
「あれは……催し物用の舞台があるところだよな」
群衆の頭越しに、軽快な音楽が響いてくる。
弦と笛、それに手太鼓。
音だけなら、この世界じゃ珍しくもない編成だ。
でも、曲がおかしい。
短いフレーズを繰り返しながら、きっちり拍を刻んで、ここぞってところで一気に盛り上げてくる。
なんというか——こっちの楽器で、ポップスをやってるみたいな。
俺もたまに、リュートでロックっぽく弾くことはあるけど……
現代的なリズムを、まさかバンドで聴けるとは。
転移者同士で組んでるのかもしれない。
……お、俺も、セッションしたいかも。
気付いたら、人の輪の外縁まで駆け寄っていた。
聴衆が楽しむ邪魔をしないよう、かき分けて入っていく。
っていうか、歌も歌ってる。
いや、それよりまず、演奏者を。
やがて、ひとりのリュート弾きの姿が見えてくる。
「あれ?」
和顔じゃない。
転移者って、日本人以外にもいるのか?
そんなの、聞いたことないけど。
バンドの全員、掘りが深い。
むしろ、日本人は、中央で歌っている女性だけだった。
歌って踊って、まさにアイドル。
ミルとは方向が違う。
観客全員に、魅力的な仕草をきちんと見せていく。
溢れる汗までも、輝きに誤認させる。
完成された偶像が、そこにはあった。
ブレイクの瞬間、観衆のコールが入った。
「「ユイちゃん!」」
?!
ミルの……お友達……か。
奇妙な偶然に唖然としながらも、俺の足はきっちりとリズムを踏んでいた。




