第64話 ドキッとする日常
夜の冒険者ギルドは、昼間とは違う賑わいに包まれていた。
太い梁から吊られたランプが飴色の壁や床を照らしている。
奥の酒場からは料理の匂いと、酒杯を鳴らす音が漂ってくる。
仕事を終えた冒険者たちが卓を囲み、笑い声や今日の成果を語る声。
昼間は人だかりのできていた依頼掲示板も、今はすっかり静かだ。
フィエナは肩透かしのような、安堵のような、緩い息を吐いていた。
「まさか……計四日で攻略しちゃうなんて」
カイラが顎をくいっと上げる。
「だから、『大丈夫』って言ったでしょう?」
いや、言ってないだろ。
呆れて笑うしかない、受付のお姉さん。
足元から木箱を持ち上げ、カウンターに置いた。
「なんにしても、無事で良かったわ。
これ、報酬ね」
「乗ってた袋は金貨で……
こりゃまた、でかい箱だな」
「服だもの」
「これが目当ての?」
カイラはゆっくり顔を歪めた。
「クックック……」
おーおー、怪しい笑い。
「何が入ってるです?」
ミルの質問に、すっと表情を戻す。
「クイーンのドロップしたあれ。
あれも一緒にお披露目しましょ」
ギクッ!っと、肩を震わせたのはリナだ。
「ほ、ほんとに……?」
「魔法使い用の装備をあなたが着ないでどうするのよ」
女性陣だけでワーキャーしてたから、デザインを見てないんだよなぁ。
俯くリナの赤い耳は、ホールの赤みのある明かりの中でもはっきりとわかった。
翌日。
宿を出ると、朝のひんやりした空気に、木の匂いが混じっていた。
通りではもう荷車が行き交い、遠くからは材木を打つ乾いた音が響いてくる。
軒先では店を開ける者が戸板を外し、仕事へ向かう人々が足早に行き過ぎていた。
グレイヴァの一日は、もうとっくに始まっているらしい。
明るいところでのお披露目、ということで。
リナとカイラが出てくるのを、残りの三人で待っていた。
やがて、扉から出てきたのはカイラだ。
相変わらず、真っ黒ではあるけど——
胸元が大胆に開いた黒いドレスに、深いスリット。
そこから覗く脚が黒いストッキングに包まれている。
長い黒髪と赤い目も相まって、扇情的だ。
夜の社交場が似合いそう。
全身タイツに比べると、肌の露出が増えただけじゃなくて……
なんかこう、ちゃんと考え始めたって感じがする。
……エロについて。
なにやってんだ。
ともかく、これが欲しかったんだねぇ。
まぁ、パラメータがちゃんと高いから、ツッコミようも無いんだけどさ。
「素敵ですぅ! さすがにセクシーさでは負けちゃうかもしれないですっ♥」
きゃっきゃするミルの隣で、レックスは目線を逃がしていた。
レックス……お互い、頑張って慣れような。
続いて、気恥ずかしそうに出てきたのはリナだ。
か……肩出してる。
再会した頃は、いかにも魔法使いなコートを着ていたのに。
「変わるもんだねぇ」
「……」
しまった。ミスった気がする。
でも何を言っても、コンプラ的にアウトになるだろ?!
えーい! 正直に言うか!
「リナが肩出すなんて、ドキッとしちゃったよ」
「え? ほんと?」
「え?! あ、ああ」
あれ?
悪くない感触だ。
っていうか……うーん。
リナってもっと、華奢なイメージがあったんだけど。
なんか、なんだろう。
そこへカイラが近付いてきて、耳打ちを始めた。
「あの魔導化粧、どうやら、バストアップするらしいわ」
まじか。
「あたしのほうが晒してるのに、この子のほうが気になるのね」
「いやいや。カイラも十分、目のやり場に困ってるから」
意に介さず、顔を背けてブツブツ言い始めた。
「やはり、ギャップとやらを作らないとならないのかしら……」
研究熱心なことで。
それにしても——
Bランクの、しかも高難度のボスを、明確なピンチにも陥らずに一発討伐、か。
俺がバフをかけられるようになったと言っても、普通のパーティじゃ当たり前だ。
〈自動戦闘〉が働いてたとしても、名前からして、能力値は上がらないだろう。
考えてみれば、仲間と噛み合わないのに、Bランクにまでなってたんだよな。
もしかして、彼らの能力値はすでにA相当……?
一瞬、そんなことを考えたけど。
やめやめ。
そんなの、どうだっていいじゃないか。
無理せず出来る範囲で冒険する。
きつそうなら、やらない。
スタンスはこれまでと一緒だ。
女の子のちょっと大胆な格好にドキッとする。
たまにそんな日が混じる、のんびりした冒険者生活。
けっこう、リア充かもしれない。




