第62話 彷徨う男
あれから数日。
俺たちはグレイヴァで〈ブレイカーズ〉のみんなと食事をしたり、
休みの日はそれぞれバラバラに過ごしながら、
〈サキュバスの館〉の攻略を進めていった。
特に、リナとラナは二人して宿に籠っていることが多かった。
なんか、変な想像をしてしまう。
などと、かなり気楽な雰囲気でのダンジョン攻略。
……進行度はどれくらいなんだろうか。
なんて、油断していたら——
俺の足元の床が消えた。
「へ?」
目の前が、真っ暗になった。
落下の恐怖に、身を縮める。
そして、階下の床に叩きつけられた。
「いてて……」
と漏れたものの、そんなに痛くはない。
「おーい」
声を真上に投げてみた。
穴はなかった。
「ま、待て待て待て……!!」
俺は戦闘能力皆無なんだぞ?!
こんな時に魔物に出くわしたら……
「あ、俺、死んだかも」
この世界で、死んだらどうなるのかな。
日本に帰ったりして。
だって、ゲームだもん。
……ゲームだろ?
現実逃避に傾いた脳裏。
リナたちの、リオたちの、ベルトムたちの顔が思い浮かぶ。
ゲームじゃない。
ゲームっぽいシステムがある、リアルだ。
「なんとかして、合流しないと」
とは言え、動くべきか、待つべきか……
ぱっと見は、暗い部屋。
レンガの壁に囲まれた閉所。
かなり怖い。
救いは、光源も無いのに、多少の明るさがあることだ。
こういうとこはゲーム……
「あ、そうか……」
そもそも、俺じゃなくても、バッファーは一人で戦えないはずだ。
分断したら、即終了みたいな罠はゲーム的じゃない。
ってことは、戦闘しないで合流できるようになってるはず。
いや、わからんけど!
そう思わないと、足が進まない……っ。
手当たり次第に触り、道が開けていく。
それに任せて、進んでいった。
やがて、躍り出た空間には、音旗隊がいた。
「みんな!」
「ユーヤ!」
「良かったですぅ!」
でも、再会を喜ぶ暇はない。
どうやら、戦闘中だ。
相手は……女の形はしているけど、肌は紫がかった暗い色。
頭からは黒い角が伸び、耳は長く尖っている。
背中には大きなコウモリみたいな翼。
「けっこう、数がいるな」
腰から伸びた細い尻尾の先は、槍先みたいに尖っている。
目は赤く、白目の部分まで黒い。
手足の先には黒い爪。
「なんていうか、すごいな」
感心しつつも、指は動かす。
同じ轍は踏まないぜ!
すると、禍々しいその姿は次第に人間の肌のように滑らかになっていく。
そして、その美しい女性が俺の瞳を真っ直ぐ見つめていた。
なんだよ。そんなところにいたのか。
——俺の可愛い彼女。
横を振り向くと、人間どもが俺の彼女たちに傷を付けてやがる。
「ふざけやがって。
ハニーたち!
俺の演奏で盛り上がれ!」
リュートから放たれるデスメタルのメロディ。
彼女たちに響く間もなく……
俺の彼女が焼かれてしまった。
「おのれ……おのれー!!」
……おのれ??
俺は何に怒っているんだ??
リナが心配そうに近付いてきた。
「ごめんね。
サキュバスとの戦い方、教えておくの忘れてた」
ああ、あれ、サキュバスだったのか。
「人間に変身した状態で、男性を見つめると魅了できるの」
そこに、奥からレックスの声。
警戒態勢を解いて刀を納める。
「変身した個体と目を合わせなければ、かからないんですよ」
音旗隊に大きなダメージは無いようだ。
「へー……そうだったのか」
安堵したせいか、気の抜けた返事になってしまった。
とりあえず、バフ効果がないことで、味方の迷惑にもならなかったのは不幸中の幸いだったな。
それにしても……ちょっと、面白い体験だったな。




