第60話 初めてのダンジョン
ギルドの扉をくぐって、最初に目に入ってきたのは通りの景色ではなかった。
〈ブレイカーズ〉の面々だった。
「おお?!」
俺たちは想像してなかった遭遇に、一歩引いた。
しかし、向こうはそれほど驚いてないみたいだ。
リオが「よっ」と手を上げた。
「ユーヤたちがグレイヴァに行くって、たまたま聞いてさ」
「え?」
途端に、ディルが割り込む。
「待て。それだと、まるで追いかけてきたみたいじゃないか。違うぞ」
ああ、だよな。
「我々には我々の用があり、お前たちとは一切、関係ない」
ケイが呆れる様にため息をつく。
「もう。その張り合い、面倒だから。
いい加減やめたら?」
「ぐ…」
ラナはディルの食い下がりが無いのを確認し、空気を落ち着かせる。
「弓使いの装備と仕事。
あとは伐採師の技術を目当てに来ました」
「伐採師の」
ガルドが後ろで照れる。
「うちの実家が木こりやってまして。
まぁついでに学べたら、くらいですけど」
にししと笑うリオ。
「まーそんなわけで、どうせなら今行こうぜ。ってな」
「ダンジョン、どうせ何日か、かかるんでしょ?」
「ああ。そうらしい。
時間が合う時は一緒に飯でも食うか」
リナがラナに近付く。
「ねぇ、そしたら、こっちでも……良い?」
「もちろん」
ほんと、仲良くなったね、そこ。
森の奥、木々が不自然に途切れた先に、その館は建っていた。
黒ずんだ外壁に、いくつもの細長い窓。
急勾配の屋根が重なる二階建ての洋館は、周囲の森に埋もれるようにひっそりとしている。
正面には石段が伸び、その先に両開きの大扉。
人の住む気配はない。
なのに、今にも扉が開いて誰かが出迎えそうな、不気味なほど整った佇まいだった。
血の気が引いてるのはレックスだ。
「無理無理無理無理無理無理、無理ですよぉ……」
「まぁ、見た目は綺麗だけど、ダンジョンってわかってるもんなぁ」
苦笑いしてしまうが、背中をさすってやろう。
リナが心配そうに首をかしげる。
「レックスって、サキュバスと戦ったこと、無いの?」
「あ、ありますけど……」
あるんかぃ!
カイラがすっと歩き出す。
「それなら、さくっと済ませましょう。
多分、なんてことないわよ」
ぱっと躍り出たミルがレックスに、にぱっと笑った。
「ミルが、勇気の出るおまじないかけてあげるですっ♡」
指で空中にハートの軌跡を描く。
彼のおでこにちょんっと触った。
「どうですか?」の笑みで覗き込んでいるが……
レックスに変化は無さそうだ。
でも。
「い、行きます!」
蟹股になって、のしのし歩き出した。
……エンジンかかるのが、遅いだけなんだよね。
大扉の結界を抜けると、吹き抜けの玄関ホールが広がっていた。
正面には二階へ続く幅広い階段。
ただし、完全に崩れ落ちている。
左も崩落して塞がれていた。
右には回廊が伸び、壁際には燭台や彫像、金縁の大きな肖像画が等間隔に並んでいる。
赤い絨毯も、磨かれた手すりも、長く放置された館とは思えないほど綺麗なまま。
その柔らかい感触を踏みながら、回廊を進むと……
嫌でも目に入ったのは禍々しい石像。
等間隔に並んでいる。
「おお。ガーゴイル像……すげぇ」
まじまじ眺めていると、タタッ、と数歩駆ける音。
レックスが前に出ていた。
「どれなんですかねぇ……」
キョロキョロしている。
が、とっくに抜刀して、重心を落としていた。
すぐさま、風の刃が乱舞。
レックスの周囲のガーゴイル像を刻む。
隣では杖を構えたリナ。
また「えーと、えーと」をしている。
ゴトゴトっと破片が落ちると、残ったガーゴイル像が鳴き声を上げた。
そうか! 定番じゃん!
飛び立とうと、翼を広げる。
同時に、肌が石のそれから、生物のそれへと変容していく。
しかし、飛び立つことなく、血しぶきをあげた。
黒い影が舞い戻る。
「もう。また、レックスが喚く前に斬っちゃったわ」
「シルフハリケーン!」
リナの声が回廊に響いた。
レックスは無傷で、ミルに仕事は無かった。
……ガーゴイルって、格下なのかな。
いや、ていうか、俺、もっと集中しないと。
リュート、アイテムボックスから出してすらいないじゃないか。
まぁ、でもダンジョン……こういうことね。




