第58話 初めてのお出かけ
第5章 旋法
ポートリースを出て四日目。
隣町グレイヴァへ向かう街道。
雪がチラチラと降っている。
……ちょっと涼しいだけ、なんだよなぁ。
冒険者装備の効果だろうか。
時折、この世界がゲームっぽい世界だというのを突き付けられる。
リナと出会ったあの日から、半年くらい経っただろうか。
これまで何人かの転移者と色々と話をした。
カイラにも……そろそろ聞いてみようか。
「カイラって……転移者だったり、する?」
「何よ今更。そうよ」
「転移前のことって…」
「覚えてないわ」
なんか、答えるの嫌そう。
でも、やっぱりそうだ。
転移者はパーソナルな記憶がかなり曖昧になってるらしい。
思い出せる親や友達がいないから、帰る方法を探す人は少ないそうだ。
共通してるのは、現代的な生活への憧憬も無いこと。
そういう意味じゃ、プレイヤーの選別に作為は感じる。
でもまぁ、俺も今、楽しいからなぁ。
このままでいいやって、思っちゃう。
わからんもんはわからんしな!
……わからんと言えば、俺の右手をちょっと伸ばしたところにある、この〈自動戦闘〉のボタン。
転移者の誰に聞いても、UIにそんなものは無い、という答えだった。
俺だけが持っている理由……なんてわかりようもない。
ただ、いい加減、感じることはある。
リナと出会ったあの日、彼女の動きが急に変わったこと。
音旗隊の他のみんなだって、言葉や表情と、実際の動きに食い違いがある。
言葉通りなら、自動で戦闘してる……ってことだよな。
俺以外だけど。
俺以外と言えば……
〈前進の旗〉でファットバッタの討伐に行った時も、
〈共援団〉で盗賊団の討伐に行った時も、
急に動きが良くなったよな。
まさか、あれも?
……と、言っても、検証のしようもない、か。
なんにせよ、この仮説が正しければ、便利は便利だ。
うっかりOFFにしないよう、気を付けておこう。
それにしても……
転移者が吟遊詩人になったら、誰でも楽器弾けちゃうとはなぁ。
触ったこともないリュートをなぜか弾けたのは、そういうことだったんだな。
元々、ギターとかピアノとか弾いてた記憶はあるけど、関係なかったとは……。
「——ヤ」
ん?
「ユーヤ! 聞いてる?」
リナがプンスコしてた。
「ああ、ごめん。なに?」
「雲が暗くなってきた。
陽が落ち始めたかもしれないわ」
「そっか。グレイヴァまでは、まだあるのか?」
「えーとね」
メモぺら。
「一応、このペースなら、今日中に着けるけど、夜にはなっちゃうかも」
「そっか。……カイラ、別に急がなくていいんだよな?」
なんか、間があるな。
さっきの質問で気を悪くしたか?
振り向いたカイラはいつものスン顔。
いや、わからんっ。
唐突に、ズカズカ寄ってきた。
吐息をかけてくる。
「問題ないわ。
それより、火を囲んで、お互いの肌を密着させて、体を暖め合いましょう。
そうしたら、あなたの汗と、私の汗が滲み出て」
そんな寒くないくせに。
レックスが鯉口を押さえる。
「じゃあ、良さそうな場所、探してきます!」
「ミルも行くですー♪」
二人は道先へ駆け、両脇の森の間を覗きこむ。
意気込んだ割には、レックスは恐る恐るで、全然探せて無さそうだ。
ミルはミルで、度々ポーズを決めるのに忙しそうだ。
リナがその様子に微笑む。
「あ」
と、こちらを向いた。
「なに?」
「ちょっと寒いから、今日はスープがいいなぁ」
リクエスト来ました。
「……そうだな。ちょっと辛味のあるやつにしようか」
その瞬間。
カイラの顔が目の前に。
ちょ、急に出てきたら、キスしちゃうだろ!!
慌てて、足を止めた。
彼女は目を見開いて、充血させている。
「激辛で」
「……味変、出来るようにしとくよ」
カイラは再び、前を向いた。
良かった。
機嫌は治ったみたいだ。
リナが「ふふ」と笑い、並んで歩く。
なんか、最近、ちょっと近い気がする。
……俺が日本でどんな生活をしていたのかは、わからない。
でも、きっと、この冒険のほうが楽しい。
少なくとも今は、それでいい。




