第56話 音旗隊の盗賊討伐
ダース砦からは、金属のぶつかる音と怒号が、風に乗って断続的に届いてくる。
丘の中腹に設けた予備隊の待機地点では、ベルトムを中心に各パーティが息を潜め、戦況を見守っていた。
正門前では、若手中心の引き付け隊が盗賊たちを相手に押し合いを続けているようだ。
もう、人死にも出てるのかな。
……ケイのことが気がかりだ。
俺はまだ、楽器を弾くだけだからマシだ。
でも、彼女は人間相手に弓を引いているのか。
いや、もはや引けなくたっていい。
俺たちにとって、“殺人”は簡単に受け入れられることじゃない。
〈ブレイカーズ〉——。
名前を決めるのにもひと悶着あったようだけど……
仲の良いパーティだ。
きっとフォローしてくれるだろう。
〈音旗隊〉には、まだ出番はない。
伝令が駆け戻る。
「正面隊、門前まで前進!
敵を押し込んでいます!」
「……熱くなっとるの。
大丈夫じゃろうか」
口髭をさらりと撫でるベルトム。
心配そうに、薄い吐息を漏らすのが聴こえた。
カイラは暇つぶしのように、体を捻じっている。
「殺れそうなら、殺る。
戦いの本能はそうやって、足を前に出させるのよ」
鍔を押さえる親指に、力を籠め直すレックス。
「で、でも……
まだ砦内にはかなりの数が、いるはずですよね」
こっちは包囲戦術だから……
一点に反撃されたら、まずいか。
木立の影から、声が飛ぶ。
「で、伝令ですっ」
「おお、ノエルか。
どうじゃ裏手隊は」
マントを脱いで軽くなった姿。
さすがにカイラよりは普通だ。
ささっと、ベルトムの傍へ寄る。
「これより、崖の登攀に入ります。みたいです」
「なんと。冷静な男ではあったが……
慎重が過ぎるのぅ」
確か、エミルが指揮してるんだっけ。
リナがメモを読み直す。
「裏手隊が侵入。
壁上の制圧と、正門の操作の確保……か。
早くしないと」
「高みから、門に群がる虫を見下ろす。
良い的ね」
いつの間にかダガーを抜いていたカイラ。
地面をザクザクと刺している。
その時だった。
砦の上が、急に騒がしくなった。
城壁のあちこちへ盗賊が駆け上がり、矢と魔法が正門前へ集中して降り注ぐ。
嫌な予感がした、その直後。
閉ざされていた正門が勢いよく開き、盗賊たちが鬨の声を上げながら一斉に打って出た。
押していたはずの正面隊と、勢いよくぶつかる。
「敵、正門を開放!」
「見えておるわ!」
ちょっと待て。
やばくないか?
「正面隊、重傷者が、出ている、と!」
「どれほどじゃ?」
「わ、わかりません!
持ちこたえてみせる、としか!」
ベルトムは呆れて額を押さえる。
明らかに焦った顔だ。
傍らのミルがすっく、と立ち上がった。
「今こそ、お役に立てる時っ★
ミルが皆さんの傷を治しますっ!」
慌てて、リナが彼女のスカートを摘まむ。
「ちょ、ちょっと待って、ミル!」
そして、みんなが俺を見た。
判断を委ねてる、とは違うと思う。
多分、みんなは行こうとしてる。
『あとでベルトムに上手い事よろしく』――
そういう顔だ。
ベルトムのほうを振り返る。
「増援を出すべきか……
じゃが、突入時の手が……」
全体のことを考えるので、手一杯みたいだ。
もしかしたら、作戦を崩したら、もっとひどいことになるかもしれない。
でも、このまま放っといたら、正面隊は……。
〈前進の旗〉から抜けて、流れのままに入ったクラン。
〈共援団〉も、最初から上手くいったわけじゃない。
でも、段々と繋がってきた。
俺たちも。
……倒れていく仲間があそこにいるんだ。
失いたくない!
俺は意を決し、アイテムボックスからリュートを取り出した。
頷いてみせる。
「行こう!」
〈音旗隊〉の——
本気を見せてやるんだ!




