第55話 クランに馴染む
昨日、俺が“こ洒落た舞曲”を奏でた公会堂には、今夜は長机がずらりと並び、料理と酒が所狭しと載せられている。
百人以上の冒険者の笑い声と喋り声が重なり、広いはずの大広間まで狭く感じるほどの賑わいだった。
〈共援団〉の宴会は、他の町からの新参組も、復帰組も若手も混じり合い、雑然とした模様を見せている。
突然、肩を掴まれて、ジョッキの中身がこぼれそうになった。
「うおっと!」
髭を蓄えたおっさんが、無理やりジョッキをぶつける。
「エミルたちを無事連れ帰った立役者! 飲んでるか?」
「そんな大げさな。しかも宴会まで」
「はは! 気にすんな。口実にして飲みたいだけさ」
結成祝いも兼ねて、ってことだったな。
彼は乾杯そのものが目的だったように、すぐにふらりと別のテーブルへ離れた。
そういえば、いつの間にか、みんな居ないな。
なんだよ、気になるじゃないか。
俺はブドウを一房握って、宴席の間をすり抜けてみる。
女冒険者ばかりが集まった一角。
その中に、長い黒髪が混じっていた。
頬杖をついた女が、呆れたように笑う。
「それでさ。怪我して休んでた三日間、毎日、見舞いに来たのよ」
向かいでは、カイラが妙に前のめりになっていた。
「弱ったところへ通い詰めて、逃げられなくしたのね」
「違うわよ。果物剥いて、食事作って帰っただけ」
「……それだけ?」
「それで惚れたんだってば」
カイラの鼻から、ふす、と荒い息が漏れた。
「三日も二人きりだったのでしょう?
寝台へ押し倒されたりは」
「病人相手にするわけないでしょ」
別の女が、ジョッキを置いて笑う。
「うちは私から言ったわよ。
いつまで経っても、あいつ煮え切らないから」
カイラの動きが止まった。
「……自分から?」
「待ってたって、進まないもの」
「拒絶されたら、首を絞めて既成事実を……」
「諦めるわよ」
「…………そう」
こ、恋バナ?!
……カイラだけは相変わらず物騒なこと言ってるな。
けどまぁ、共通の話題で盛り上がれてるなら、何よりか。
邪魔をしないよう、そのままテーブルの脇を通り過ぎた。
目端に入った、少し離れたテーブル。
ミルが復帰組のおっさんおばさんたちに囲まれていた。
「ミルちゃん、これ食べるかい?」
「いただくのですっ♪」
「こっちも美味いぞ」
「そちらもいただくのですっ★」
「おいおい、食わせすぎだって」
「大丈夫ですっ。ミルのお腹には、まだ幸せの入る場所がありますからっ♡」
両手に料理を持って、にこにこと頬張るミル。
おばさんの一人が口元を拭いてやり、おっさんがまた皿から何かを取り分けている。
……完全に可愛がられてる。
さすがに、あの愛嬌は年上キラーだな。
その時、少し離れたところから、野太い声が上がった。
「よっしゃあ! 次、誰だ!」
「まだいけるぞ! かかってこい!」
なんだなんだ。
声のしたほうへ目を向ける。
いくつかのテーブルを寄せた一角で、男連中が輪を作っていた。
その真ん中。
「よ、よ、よーし! ぼ、僕もやります!」
レックスが震える拳を握り締めていた。
「おお! 侍が来たぞ!」
「いいねぇ! 相手してやる!」
「ひっ……! よ、よろしくお願いします!」
……威勢がいいんだか悪いんだか。
けど、相手の腕、太さやばくない?
あれもひとつの「可愛がられてる」、か。
さて、リナもどこかにいるはず。
首を伸ばしてみると、隅の方にオレンジ髪が揺らめいていた。
隣にいるのは、ラナだ。
へー。
いつの間に、あんな仲良く。
それぞれが他の冒険者と交流している。
なんだか、感慨深いものがあるなぁ。
そして、少し寂しい。
俺もどこかのテーブルに……
なんて、周りの様子を伺ってると、奥から声が響いた。
ベルトムだ。
「盛り上がっとるとこ、悪いんじゃがの。
酔いつぶれる前に、聞いてくれんか」
あ、そういえば、連絡事項もあるとか、だったな。
匙の金属音や、喉ぼとけの上下音を残しながらも、全員がクラン長に注目する。
「最近、旧街道のほうで盗賊被害が出ておる」
「おう。それ聞いたぞ。ダースのほうだってな」
「あっちは、色々近道だからなぁ」
「そうじゃ。どうやら、あの古砦に構えておるようだの」
行ったことはないけど、名前は知ってる。
たまにゴブリンが住み着いたりして、掃討依頼が出るとか。
浅いざわめきの中、エミルが声を上げた。
「盗賊の規模は?」
「百人ほどらしいが、実際はどうかの」
主に復帰組が目を細め、それぞれにひそひそとやり始める。
「当日は先行偵察を出すんだろ?」
「もちろんじゃ。細かな段取りはこれから組むがの」
討伐依頼を請けた前提での質疑。
そして、ベルトムの語りからして、どうやら、そうらしい。
確認も無く、当然のこととして進行していく。
スケジュールと編成を大雑把に共有し、ベルトムは盃を上げた。
「以上。〈共援団〉の存在意義を示す、良い機会じゃ。
期待しとるぞ!」
冒険者たちは、勝鬨のごとく、酒を煽り始めた。
だから、すぐに分かった。
ケイが俺と同じ顔をしてること。
人間と……戦う。
多分、彼女もまだ経験してないんだろう。
この感覚、転移者ならでは、なんだろうなぁ。
ちょっとした動悸を感じながら、熱量の高い夜が更けていった。




