↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
54/90

第54話 暮らしに慣れる

 昼を少し回った通りには、中央広場へ向かう人波に混じって、荷馬車がゆっくりと行き交っている。

 軒を連ねる店先からは呼び込みの声が飛び、宿屋街を離れるほど往来も賑やかになっていった。


 俺の手元には、銀で出来た冒険者証。

 指先にひやりと冷たく、見た目よりも、しっとりと重い。


「もう、Cランクって、さすがに早すぎじゃないか……?」


 隣を歩くリナが、俺の手元をちら、と見る。

「確かに、期間的には早いけど……結局、あっちの都合だしね」


 高いランクの依頼を請けられるなら、請けて欲しいってやつか。


「エミルさんの推薦で、ギルド側が良しとしたんだから、いいんじゃない?」


「ああ…これで、カイラの請けたい依頼も請けられそうだしな。まぁいっか」


 中央広場に入ると、リナが首を伸ばした。


「あの脇道だね。あんまり、入ったことないかも」


「俺も」


 商会通りの裏っていうと、現代で言う商工会議所みたいなのがありそう。

 ……なんとなく。


「でも、ほんとに良かった?


あたしも付いてきちゃって」


「練習の伴奏するだけだから、別に大丈夫だろ」


 俺がこの仕事を請けたから、みんな急に休みになったわけだし。


「ま、本番なら、ドレスコードがあるかもな」


「ド、ドレス……かぁ」


 おや、にんまりしてる。

 若い頃から冒険者してりゃ、なかなか着る機会は無いよねぇ。


「お、これだ。第一公会堂」


 石造りの二階建ての建物が、周囲の店より少し奥まって建っていた。



 中から人の気配のする扉。

 ギィ、と開ける。


「こんにちわ。ギルドの依頼で来ました。


吟遊詩人のユーヤです」


 髪をきっちりとまとめた、姿勢のいい細身の女性が近付いてきた。


「初めまして。舞踏教師のミシャと申します。


どうぞお入りください」


 と、手招く動きが止まる。


「そちらの方は……」


「あ、彼女はただの付き添いです。


舞踏を見てみたいとかで」


「す、すみません! リナ、と申します。


いいでしょうか?」


 慌てて頭を下げる。


「ええ、もちろん、構いませんよ」


 ミシャの笑顔は柔らかかったが、俺の視線はその奥に捕らわれていた。

 どうやら、リナも気付いたらしく、止まっている。


「レ……レックス……?」


 そこには、きっちりと整えられたシャツとベスト、そしてリボンタイという……

 無骨な彼からは想像の付かない姿の男がいた。


「どうかされましたか?」


 まさか、ダンスの趣味があるとは思わなかったけど……


「い、いえ」


 いちいちツッコむのも野暮ってもんだよな。



 女性たちが一斉に裾を広げ、向かい合う相手へ礼をする。

 色とりどりのドレスが、花みたいに揺れた。


 どうやら、本番を想定したドレスでの稽古らしい。


「わあ……きれい」


 隣から漏れた声に、俺は少しだけ振り向く。

 リナは、こっちに気付かないまま、舞踏の列を見つめていた。


 俺は宮廷で流れそうな曲調で、なんとなくリュートを鳴らした。

 いくつか注文は入ったが、稽古する分にはこんなもんで良いようだ。


 それにしても……


 レックス、上手いな。


 ステップが正確だ。

 演奏とのズレもない。

 お相手さんが安心してる感じが伝わってくる。

 

 パッションは……あんまり感じないけど。


 なにげに、残心とか綺麗だからなぁ。

 型通りに動くのは、得意なのかもしれない。



 稽古が終わり、リュートをしまう。

 レックスが少し照れ臭そうに、近付いてきた。


「まさか、臨時の奏者さんがユーヤさんとは」


「にしては、俺と目が合っても、落ち着いてたな」


 そこへ、彼の後ろから、ドレスの影が出てきた。

 良いところのお嬢さんという風合い。


「今日のお相手のティナさんです。


……ご迷惑をおかけするわけに、いかなかったので」


「ティナ・ラウゼンと申します。


先ほどの演奏、とても踊りやすかったです」


 ふわりと礼をされ、慌ててつられた。


「ああ、いえ、こちらも見てて楽しかったというか」


 ……ん?

 リナが何も言わない。


 ティナのことを見つめているようだけど……


「……?」


 ティナが首をかしげる。

 そりゃ、そうなるよね。


「リナ? どうした?」


「へ? ううん! なんでもない!


ティナさん、とってもお綺麗ですね」


 女子同士の褒め・謙遜トークが始まった。

 こういうのって、入りづらいんだよな。


 レックスの“まさかの日常”だったけど……


 あのステップが、戦いの足さばきに活かされて——るのかどうかは知らない。

 ただ、オフが充実してるのがわかって、なんだか安心したな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。