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第53話 人生の手探り

 断崖の麓。

 巨岩の傍は、もうすっかり日が届いていない。


 視界を覆う森も、木々の隙間は完全に闇だ。

 リナとミルは焚火の傍で休ませてる。


 俺は、揺らめく明かりを背に、リュートを弾き続けていた。


「ユーヤさん!」


 レックスが駆けてきた。


 ミルがジタバタしている。

「遅いから、心配しましたよー!」


「す、すいません。暗くなって、やっと見つけたんです」


 焚火を処理しながら、リナが声を投げてくる。

「どういうこと?」


「あっちに穴があって、中から明かりのようなものが漏れてるんです」


「わかった。じゃあ……」


 カイラが戻ってきた時、誰もいないのはまずいよな。

 

「俺が一人でカイラを待って」


「いえいえ!

カイラさんも、同じタイミングで。


今はあっちで見張ってます」


「そうか……そういうことなら」


 リナが寄ってくる。

「片付けはあとで戻ってきましょう」


 俺たちは顔を見合わせると、レックスの後ろを追った。



 カイラと合流し、洞窟の中へ入る。


 明かりが強くなると共に、俺たちの気は抜けていくことになる。

 聴こえてきたのが、穏やかな談笑だったからだ。


 やがて、瞳に映ったのは、なんでもない冒険者のキャンプだった。


 彼らが俺たちに気付くと、バルトが呆れるように笑った。


「なんだ? もう捜索を寄越したのか。


ギルドも心配性だな」


「まぁ、そう言うな。

冒険者を大事にしてるってことだろ」


 そう言い、エミルが腰を下ろすよう促す。


「わざわざ済まなかったな。


結論から言うと、何も問題はない」


「では、どうして脱出しなかったんですか?」


 ガレスを見やったリディアが、少し困ったように微笑んだ。


「膝に古傷があってね。


少し痛みが出るって言うから、様子を見ていたのよ」


 アリアがふっと笑う。


「全部、言わせないでよ。


あんたたちと違って、若くないんだから」


 確かに、無理をして“いざって時に動けない”じゃ話にならない。

 この慎重さが、生きて引退を迎えた彼らが持つ、経験値、か。



 足をさするガレス。

「実際、脚をやって、引退した奴もいた。

剣一筋だったのに……」


「大変そうだったわね。稼ぐあても無かったから」

 リディアのため息。


 レックスは正座して聞いていた。

「そんな中、みなさんは揃って引退できたんですよね」


 最初に反応したのはアリアだ。

「みんな家庭持ちだったから、生計を整えるのが大変でねぇ」


 バルトを見やる。


「この人だけは独り身だったから、気楽だったみたいだけど」


「今だから言うけどな。


当時は、胸にぽっかり、穴が開いたみたいだったよ」


 彼らの言葉に、何を思いついたのか、リナがメモを取り出していた。

 何を書くでもなく、考えている。


「とか言って、ひとりに決めないのはあんたでしょー」


 アリアのツッコミに、笑い合う大人たち。

 


 そこで、カイラが珍しく、少し怪訝な顔をしている。

「パーティが続いた理由、聞いてもいいかしら」


 ちょっと、失礼かもなー。


「そりゃあ、みんな強いからだろ」


 当たり前のようにフォローしたけど、彼らは首を傾げている。


 あれ? 別に変なこと言ってないだろ。


 リディアがピンと来てなさそうに微笑む。

「ちょっと違うかもねぇ。

なんて言えばいいのかしら」


「そうだな……上手く言葉に出来ないが……」


 エミルが柔らかく言葉を乗せた。

 

「……戦いってのは一瞬だ。


俺たちが一緒に過ごす時間に比べたら、な」


 …………。


「だから、そうじゃないんだよ」


 まぁ……確かに。


 ん?


 カイラが、ずっとこっちを見てる。


 くっ、見続けてくるから、こっちが目を逸らす羽目にっ。


 もう一回、チラ見してみた。


 なに、その、よくわかんない表情。

 見たことないけど、なんか落ち着いてる、な。


 なんにしても、エミルたちが無事でよかった。


 そのまま——


 含蓄のあるんだか、ないんだかよくわからない話。

 冒険者と関係ない話。

 過去の恋バナなどなど。


 俺のアイテムボックスから、酒が出てくるのに時間はかからなかった。


 グレウィー丘陵の断崖。

 足元の洞穴から漏れる光。


 酒場のそれと、変わらない明るさを夜更けに放っていた。

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