第52話 命綱の手探り
ポートリースの街門を背に、倉庫地帯が目端を流れていく。
最近はもう、歩きながら、その日の任務を共有する流れだ。
「行先は、グレウィー丘陵だ」
ミルがステッキを高く上げる。
鳥の急降下のような軌跡を描いた。
「グリフォンの生息地ですね。
あの背中に、いつか乗せてもらえないでしょうか♧」
召喚士なら、ワンチャン?
知らんけど。
レックスが縮こまる。
「鉤爪の力は相当なもんです。
僕はなんとか、助けてもらえましたけど」
その横に、スッと寄るカイラ。
「奴らの急降下は確かに速いけど、あたしのほうが速いわよ。
特訓、する?」
レックスは真剣に考えだした。
まぁ、意外と、効果あるかもしれないしな。
リナが呆れたように笑う。
「もう、着くまでに一回、野営を挟むくらい遠いんだから」
さらに、メモをぺらり。
「うん、思い出した。
急降下は鋭いけど、始めたら一直線。
落ち着いて避ける、よ」
みんな、討伐経験があるのか。
これなら、安心だな。
って、違う違う。
「今回は、討伐じゃないよ」
俺の言葉に、リナは「あ…」とテヘペロした。
「エミルのパーティ、〈夕凪〉が卵の間引き依頼を請けたんだ。
でも、帰還想定を過ぎてる」
気を取り直したリナが、補足を繋ぐ。
「若手組の中で、交流があるほうだから、ってベルトムさんが回してきたの」
とととっ、と前に出たミルが振り返る。
胸の前でステッキをぎゅっと持つ。
「ミルたちの助けを待っているんですね?!
これは頑張らないと、ですね★」
捜索、をね?
とは言え、頼もしい。
ポートリースには、まだまだ彼らが必要だもんな。
野営を経て、グレウィー丘陵。
グリフォンの縄張りに足を踏み入れた。
現在……
レックスが喚いている。
グリフォンたちの攻撃を捌き続けて。
空に戻る前の羽を、カイラが捉える。
愉悦に浸りながら。
適宜飛ぶ、回復魔法。
いつも通り、演出が過ぎるミル。
自由な飛行を許さないのは、風魔法。
相変わらず、リナはあたふたしている。
なんで、こんなことになったんだろう。
最初の一匹と交戦を始めたら、奴らの目を搔い潜る作戦は消えた。
だって、追加が来ても、勝てちゃうんだもん。
キャンプの時の打ち合わせは、なんだったんだ。
……ま、いいけどさ。
やがて、飛来するグリフォンはいなくなった。
素材を剥ぎ取りつつ、巣のある断崖のほうを見渡す。
「倒せたのはいいけど……」
俺の言葉に、レックスも手を止める。
「確かに、派手な戦闘をしたのに、出てきませんね」
ミルが明らかにしゅんとしている。
「ミル、念のために、広域で回復してみたんですけど……」
淡々と、羽をむしるカイラは手を止めない。
「動けない理由は怪我とは限らないわ」
「じゃあ、どうしてです?」
「わからないわ。わからないってことだけは、わかってる」
「諦めるには、早いってことだな」
俺の言葉にミルは頷き、再び手を動かし始めた。
少し考えていたリナが顔をあげる。
「ねぇ、ここは二手に分かれない?」
「というと?」
「拠点を構える班と、捜索班に分けるの」
確かに、暗くなる前に動いたほうがいいか。
向いてるのは……
「カイラ、レックス。二人は捜索を始めてくれ」
眼を滑らせると、崖の麓に巨岩を見つけた。
「あの傍に、拠点を置くよ。
無理せず、戻ってこいよ?」
二人は手早く片付け、断崖へ向かった。
少し、楽観的に考えすぎていたかもしれない。
あまりに、みんなが頼もしかったから。
でも、エミルたちが何かの瀬戸際だったとしたら……
俺たちが急ぐことで、何か変わるかもしれない。
太陽は、もう傾き始めている。
暗くなれば、音を出し続けることにだって、意味があるかもしれない。
無事でいてくれ……。




