第51話 集束する物語
昨晩はどうやら、捜索対象は現れなかったらしい。
俺たちは今日も夜警担当。
他、二組のパーティと共に、脇で、少し待たされている。
それ以外は、指示を受けて、みんな出て行ってしまった。
やがて、奥から、ベルトムや補佐たちが出てくる。
「よし、集まってくれ。
お前さんらは、会館周辺の警戒じゃ」
なるほど。
目の前だから、情報整理が終わってからでいいのか。
「噂が独り歩きする前の、実際の目撃情報がまとまりました」
配られる資料。
「なんの冗談か、本当に“黒マント”じゃったわ」
しかも、怪盗とは名ばかりで、実害が出ていないようだ。
「屋根から屋根に飛ぶ、というのも共通しておる。
身軽な奴じゃの」
「格闘家、暗殺者、弓使いってところか」
「中でも、暗殺者が抜いてる」
「この三パーティは全部、暗殺者がいるな」
「会館が本命なんですか?」
補佐が地図を指す。
「日によって、目撃された場所が違いました。周期的には」
「ここ、じゃな」
配置を聞き、三つのパーティが建物を出る。
それぞれの方向へ歩き出した。
「カイラ。俺が待機する場所はわかっているね?」
「ええ。ご主人様の元に、ちゃーんとネズミを持ってきてあげるわ」
そう言って、猫のようなポーズをする。
「咥えて、ね」
冗談だよな。
打ち合わせでは、応援を呼んで……
と、言葉を返す間もなく、カイラは消えた。
「もう、カイラったら」
リナと苦笑いを浮かべる。
拳を握るレックスが、細かく頷く。
「だ、大丈夫です。
地上から、僕がどこまでも追い続けますからっ」
確かに、レックスが追ってれば……
ずっと叫んでるから、いつかは囲めそうだ。
突如、降ってきたのは、女性の情けない声だ。
「ぎゃふっ!!」
見上げる。
見回す。
なんの物音もしない。
そこにザっと、降り立ったのはカイラだった。
小脇に、若い女性を抱えている。
どさっと下ろされた女性のそばに、ミルがしゃがんだ。
「“黒マント”、ですね☆」
倍速のような展開。
「ユ、ユーヤ」
リナの声に、俺は慌てて、レックスと二人で縛る。
「にゃぉ~ん」
カイラの声に反応したのか。
横道の奥から、鈴の音が聴こえた。
会館の中で、取り囲む中。
当の黒マントの女性が呻く。
「気が付いたかの」
手を縛られたままの彼女が、目をパチクリさせた。
「た、たたた、泰然の詩人……っ」
「なんじゃ、わしを知っておるのか。
ひとまず、名前を聞かせてもらえんかのぅ」
口をもごもごとさせている。
「…………ノエル……です」
あんまり、お喋りは得意じゃなさそうだ。
補佐の一人が、柔らかいトーンで語る。
「現在、ポートリースでは怪盗の噂が広まっています。
ただし、実際に盗難の被害は出ていません」
「じゃから、牢に入ってもらおうなんぞとは思っておらん。
とは言え、ウロチョロされると、の」
ま、噂はいつまで経っても消えないよなぁ。
「なぜ、夜の軒をあちこち飛んでおったんじゃ?」
「あ……え、と……」
二十歳くらいに見えるけど……
ドギマギとしてる様子のせいで幼く見えてくる。
「〈灯継の詩団〉の……黒マント……」
そう言って、自らのマントを見せる。
「べべべ、ベルトムさん……会いたくて」
復帰組の一人が声をあげた。
「なるほどな。
この子の親は俺たちくらいだろ。
ベルトムさんの語り草でも聞いたか」
ノエルがかくかくっと頷く。
「普通に声をかけりゃいいのにな」
「ちげぇねぇ」
それが、出来なくて……
ストーキング、だったんだろうな。
少し考えたベルトム。
「今、このクランは立ち上げたばかりでの。
人手不足なんじゃ」
補佐に縛りを解かれ、ちょこんと正座しているノエル。
ちら、ちらとベルトムを見る。
「どうじゃ、ノエルや。
わしを手伝ってくれんかの。
合間に話も聞かせてやれるじゃろ」
「あ……う……」
鳥みたいに、頭がそっちこっちに動く。
やがて、ベルトムの手元を見ながら、細かく頷いた。
「お、おねが、しましゅ」
「よし、怪盗騒ぎも、これで終いじゃの。フッホッホ」
復帰組と、若手たちが手を取り合う。
深刻な被害も無く、結果的に、まとまりが生まれていた。
妙な話だけど……
〈共援団〉にとっては、面白いイベントだったようにも思える、な。




