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第50話 解像度を上げる輪郭

 陽の落ちた鐘楼からは、灯り始めた宿や商館、軒を連ねる家々の屋根が見渡せる。

 その向こうを城壁が囲み、門の先には、暮れ色に沈む農園地帯がどこまでも続いていた。


 隣にいるのは、黒マントに身を包んだ祈祷師。

 リディアは眼を軒並みに滑らせながら、柔らかく微笑む。


「この教会の雑用係みたいなものね」


 彼女の普段の仕事、“堂守”について、教えてくれていた。


 今日はバラバラになって、夜警に加わっている。

 土地勘のあるベテランと組む形だ。


 ママみのあるリディアはとても接しやすく、当たりを引いたと言えるだろう。


 そこへ木を叩く靴音。

 誰かが上ってくるようだ。


 肩に担ぐ魔導銃、腰に備えた呪符……

 魔弾士と呪術師か。


 っていうか、魔弾士のほうはエミルじゃないか。


「リディア、ユーヤ。伝達だ」


「はい、お疲れ様です」


「お疲れ様。


二人とも……マントは、どうしたの?」


 呪術師のほうが、通達書をぱっと差し出す。

 俺が受け取ると、リディアのほうに向かった。


「マントを外すんだ。

代わりの外套は持ってきた」


「バルト……どういうことなの?」


 問いながらも素直に黒マントを外す。

 ぴったりフィットした衣装が、ふくよかなラインを露にした。


 こういう露出は慣れてきたけど、さすがに妙齢女性の、となると、ぎくりとする。


 エミルたちは現役時代、Aランクの冒険者だったらしい。

 アルディンたちもそうだったけど、高位の装備ってのは、ぱっと見が軽いみたいだな。


 こんなペラくて、本当に丈夫なのか?

 久しぶりに、UIを開いてみるか。

 

 彼らの装備のパラーメータは、と。

 ……やっぱり、強いわ。

 


 彼女の着替えが落ち着いた頃合いで、エミルが口を開く。


「さっき、今日の分の情報整理が終わった」


 資料も合わせて、読んでみる。

 昨日は伝聞情報ばかりだったけど、一気に目撃情報が増えたみたいだ。


「怪盗の外見については、宛てにならない噂ばかりだった。


という理由で共有しなかったらしいんだが……」


 そこで、バルトが呆れ顔で街を見下ろす。


「あったんだよ。“黒マント”が。


上下金ピカや、真っ裸なんて話に紛れて、な」


「あら、張り切っちゃったのが、裏目に出たみたい。恥ずかしいわ」


 長男は成人してるって話だったけど、いじいじしちゃってる。

 チャーミングなお姉さんだ。


 ため息で返すエミル。

「まったくだ。ただ、調査方針は固まりつつある」


「夜警そのものは継続。ただ——」


 バルトが踵を返す。

「何を探すかについては、仕切り直しだ」


 二人の足音が、狭い階段からのエコーを強めていく。


 俺とリディアは肩の力が抜けてしまった。

 夜の帳を眺めながら、雑談の花が咲き続けた。



 結局、何も起こらず、明くる日は一日休み。

 昼頃に目覚めた俺は、調味料の買い出しに出ていた。


 おや……あそこにいるのは、リオだ。

 聞き込みの仕事中みたいだ。


「お、ユーヤ。今日は休みかー?」


「ああ、お疲れ」


 って……隣にいる女性に見覚えがあるような。


「ユーヤさん。お久しぶりですね」


「ああっ、フィルナさん。久しぶりですねー」


「ええ。その節は、お世話になりました」


「いえいえ、ご丁寧にどうもどうも」


 お辞儀のし合い。

 フィルナの丁寧さに、妙なジャパニズムが出てしまった。


 一緒に聴取してるってことは、フィルナも共援団入りか。


「調子はどうですか?」


「質問内容が『三日以上前に、直接、怪盗を見たかどうか』に固定されましたので」


「はっきりしてて、楽なもんだぜ。あとは、数打つだけだ」


 リオなら、ガンガン聞いて回れそうだな。


 これで、確度の高い情報が集まれば、進展するだろう。

 今晩の夜警で捕まれば、この町も落ち着きを取り戻せる。


 二人を軽く労って、俺は買い物に戻った。


 捕り物に参加したいなんて、野次馬根性はないからな。

 ゆっくり休んでる間に、よろしくお願いします。

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