第49話 寄り集まる人と報せ
夕方。
クラン会館には黒ずくめの連中がいた。
一様に黒マントを羽織っているのは、皺の目立つ先輩方だ。
「久々の仕事が、捕り物かぁ」
「〈灯継の詩団〉、復活だな!」
リナがメモをめくる。
「〈灯継の詩団〉……うん。
ベルトムさんの、昔のクランね」
うずうずしてるのはレックスだ。
「揃いの黒外套ですかぁ。
キマッてますねぇ」
現れたベルトムが、ざわめきを収める。
「タンスの奥から引っ張り出したのか。
しょうがないのぅ」
意匠を見せ合い、「へへ」と笑顔を交わす。
「わしらにとって、この町は庭みたいなもんじゃ。
夜警もお手のもんじゃろ」
「そういうことか。なら任せな!」
「腕が鳴るわね」
「無駄に歳食ってないからのぅ。
軽々なこともすまい」
ベルトムが合図をすると、補佐するひとりが大きな地図を貼りだした。
「集めた情報は整理してから届ける。
とりあえず、配置だけは決めておいたぞ」
「高台での見張り、衛兵の検問補填…」
「店の見回りと、巡回ね」
「パーティが揃って残ってるとこは、主要施設か」
さすがベテランたち。
担当を確認した者から、颯爽と出て行った。
人混みから黒が減ったクラン会館。
脇に避けていた、若い冒険者たちが並ぶ。
カウンターに記録を届けては、会館を出て行った。
少し時は経ち、空の赤みは遠くにぼんやり消えゆく。
残りの仕事は伝達だけ。
リナと二人だけで戻ってくると——
ベルトムや補佐に、ため息交じりの顔で迎えられた。
真贋疑わしい情報ばかりが、積み上がっただけだったらしい。
「音旗隊ですね。
大倉庫に複数のパーティが配置されてます」
「魔弾士のエミルってのがいる。
そこらは奴が仕切っておる」
渡された通達書には、具体的な捜索対象は載っていない。
ま、しょうがないよな。
「わかりました。届けてきます」
踵を返す横で、リナが唸る。
「持ち帰るような報告が、あるといいけど」
「そうだな」
まだ、何を探していいかわからない。
ベテランの洞察力に期待、か。
倉庫街に到着すると、辺りにはまだ人が……
ぽつり。ぽつり。
お仕事お疲れ様です、ってところか。
大通りから、横道に入る。
「ひぁっ!!」
ビクン、と飛び退くリナ。
視線の先は、倉庫の壁。
と、思いきや、黒い塊がある。
例の黒マントだ。
影の中で、しっかりカモフラ率が上がっている。
「おいおい。騒ぐな。こっちゃ潜伏してんだぞ」
ムスりとした顔が、フードの中から覗いた。
「す、すいません。伝達です。
エミルさんの場所、わかりますか?」
「ああ、大倉庫の正面。
管理小屋を間借りしてる」
会釈をしつつ、足早に離れた。
そろりとノックする。
「エミルさん、いますか? 伝達です」
「ああ。入ってくれ」
中は暗い。
カーテンの隙間から差し込む夜明かり。
それに照らされる、イケオジの顔だけが浮かび上がっていた。
渡した羊皮紙を、小さなランタンで照らす。
「……そうか」
コメント少ないタイプみたいだ。
「……こっちは異常なし。お疲れさん」
と、言われた傍から、異常が起こった。
男の叫び声。
「か、怪盗だぁー! 怪盗が出たぞー!!」
三人で一斉に飛び出して駆ける。
未だ続く、人を呼ぶ声のほうへ。
「こっちは……」
俺の耳は、エミルの呟く声をギリギリ拾った。
声の主が俺たちに気付く。
「おい! あんたら、冒険者か!
あそこに、あそこに」
彼の視線の先には、動かぬ影。
自分のことだと思っていないのか、奥に振り返ったりしている。
そこへ、駆け寄る足音。
横を向くと、脱ぎ去った黒マントがひらりと落ちた。
軽装騎士の中年女性だ。
「一日で終わったわね!」
前に出ようとする彼女を、エミルの腕が遮った。
「待て、アリア」
「え? ……ええ」
暗がりから、ゆっくりと進み出る影。
フードを上げる。
立派な顎に、綺麗な兜。
「なによ。ガレスだったの。
そういえば、ここ担当だったわね」
手には槍。
槍騎士か。
無口なタイプらしい。
誤解されやすそうだ。
みんなして、肩から力が抜ける。
叫んでいた男はバツが悪そうだ。
「そんな横道に潜んでてよぉ。怪盗だと思うだろー」
どうも、ポートリースの住民は今——
何を見ても怪盗だと思う状態みたいだ。




