第48話 慣れない枠組み
昼の酒場街には、開け放たれた店先から食器の音と客たちの話し声が漏れていた。
焼いた肉や煮込みの匂いが、軒先まで流れてくる。
壁の外に積まれた木箱や樽。
そこに肘をついたりしてるのは、デコルテを大きく開いたドレスのお姉さんたち。
煙草を片手に、暇そうにお喋りしていた。
カイラが目を細めて、「ほうほう」といった具合に頷いてる。
いったい、何に納得してるんだ。
うわっ。
後ろからじりじり押される。
立ち位置を思い出す。
……リナかっ。
要は「年長者、いけ」ってことなんだろう。
いいけど、押されると逆に、なんか…!
ぱっと前に出たのはミルだ。
「こんにちわっ。
治癒術士のミルと申します。
お話、よろしいですか?☆」
その声に、雑談を止めるお姉さんたち。
ミルのコーディネートを、下から舐めるように見ていく。
「あらあら。上も下も見せちゃって」
「これじゃ、お客を取られちゃうかもね。アハハ」
お姉さんたちの“ポロリしそうなほど”ではないけど……
まぁ、確かに。
「そうですか?!
ミルも、皆さんくらい、色っぽさ出てるです?!♥」
いかん。話が進まないな。
うっ。
また、背中を小突かれた。
仕方なく、そろーりと間に入り込む。
「あのー、ギルドの仕事で来てまして。
怪盗の噂って、聞いてます?」
お互いの顔を見合わす。
「あーそれね。
ここ数日、よく話題に出てるわよ。
見た瞬間、煙みたいに消えちゃうとか」
「あたいは、屋根から屋根へ飛んでたって聞いたわよ」
冒険者のスキルなら、出来そうではある。
「昨日は職人街に出たんですって」
「え? 荷揚げ場って聞いたけど」
当てにならないなぁ……。
「お金持ちからしか盗まない義賊なんだって」
「そうなの?! 誰が盗まれたの?」
「それは……聞いてない」
はは。作り話っぽーい。
「そういえば、女には優しいらしいわよ」
「ほんと? だったら会いたいわー」
「あたしもー。心を盗んでくれないかしらーん」
お喋りに戻ってしまった。
次、行くか……。
宿の主人に声をかける。
「ええ? またか。さっきも、冒険者が来たよ」
「え? そうなんですか?」
「ほら、そこにまだ」
振り向くと、ロウエンとハルトがいた。
他にもパーティらしき冒険者を連れている。
「おお、ユーヤ。
ひっさしぶりじゃーん。
リナちゃんも」
ハルトのウィンクをさらりと微笑みで返すリナ。
「ロウエンさんも久しぶりですね。
また、一緒にやってるんですか?」
奥からロウエンが並び立つ。
「今は臨時じゃない。
うちのパーティに入ってもらったんだ」
「〈前進の旗〉がいなくなったしなー。
腰を据えたほうが、男の渋み出るっしょ」
ノリの軽さが邪魔してる、とは言わないでおこう。
それはそれとして、店の主人が同じことを聞かれたってことは……。
「俺たち、怪盗の噂について、聞いて回ってるんだけど、そっちも?」
顔を見合わせる。
ロウエンが小さなため息をついた。
「ああ、そうだ。
お互い、〈共援団〉に入ったようだな」
大袈裟に頭をフラフラさせているハルト。
「たまんねぇぜー。
すでに話を聞かれたってのが、もう二件もあったんだ」
確かに、「酒場街の担当」としか聞いてない。
何組も投入されてるのなら……。
リナがメモをぺらり。
「確かに、どのパーティがどの店の聴取をする。
そういう割り振りは無いわね」
とは言え。
「しょうがないんじゃないか?
まだクラン員全体を把握出来てない、とか」
「それもそうだ、な」
小さく笑い、ロウエンは首をコキッと鳴らした。
とりあえずは、現場でなんとか、息を合わせていくしかないかもな。




