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第47話 慣れない取り組み

 朝の宿屋の廊下には、階下から食器の触れ合う音と、朝食の匂いが漂ってきていた。

 客室の扉もぽつぽつと開き始め、人の気配が宿全体に戻りつつある。


 ——コンコン。


 止められなかったあくびが、ノックした腕を浮かせたままにする。


「ふぁ……」


 そこへ、ドアの向こうからくぐもった声。


「あ、ごめん!

もうちょっと待ってー」


 慌てるような物音は聴こえない。


 リナは最近、メイクを始めたみたいだし、時間がかかるのかもな。

 軽く、ストレッチでもしていようかな。


 そして、ゆっくりとドアが開いた。


 リナは俯きながらチラチラとこちらを見つつ、廊下のあちこちへ目を投げる。


 ……お。

 ローブじゃない。


 アウターをフード付きのベストに替えたみたいだ。

 このブラウス、袖がこんなにふんわりしてるタイプだったんだな。

 

 ふむ。

 新しいコーディネートを鏡で確認してたのかも。


 おっと。

 目が合った。


「あ、そのベスト。


こないだの依頼で出た…?」


「え!

う、うん!


どう、かな」


「ああ。軽やかになって……


似合ってると思うよ」


「ほんと? えへへー」


 良かった。

 こんな感じで良いみたいだ。



 朝の通りには店を開ける商人や仕事へ向かう人々が行き交い、町はすでに動き始めていた。

 軒先では戸板が外され、荷車の車輪が石畳を鳴らしていく。


 先を歩くリナは機嫌良さそうに、足を弾ませている。

 陽光に照らされたオレンジの髪が、ふわりと天使の輪を広げていた。


 ブラウスの袖が見えるようになったこともあって、明るさが増してる……

 いや、上半身だけじゃない?


 あれ?!


 キュロット履いてた気がするんだけど……

 スカートになってるな。


 いや、でも、すでに見た気もする。

 いつの間に……?


 っていうか、けっこう短い。

 ローブじゃなくなって、肌色が目立つようになったな。


 とは言え、素敵な軽さだな、と思う。


 どうも、この世界はデコルテ出してる人が多いし、冒険者の中には足を出してる女性も多い。

 なんだか、露出に慣れちゃった感じがある。


 そもそも、ミルがほぼアイドル衣装だし、な。


 時折振り向くリナに、咳払いをして誤魔化す。

 しばらくして見えたのは、看板が変わったばかりのクラン会館。


 昨晩の依頼は、どうなったんだろうか。



 ギルドホールで待っていた、カイラ、ミル、レックスと時間を潰した後。

 昼のクラン会館には、多くのクランメンバーが集まっていた。


 朝にここで見たのは『本日正午 会館にて集合』の通知。

 さすがに全員はいないか。


「50人くらい、いますかねー★」


 見渡すミルに、リナが反応する。

  

「そうだね。あとは、泊りがけの依頼とか、別の町に出掛けてるとか」


 まぁ、全てのパーティが、毎朝必ず、通知をチェックしに来るかと言うと……

 ちょっと怪しい。


 現れたベルトムが、ホールのどよめきを治める。


「容れ物が出来たばかりじゃと言うのに、面倒な仕事が来たわい」


 一枚の羊皮紙を取り出す。


「巷にある噂が広がっておる。


『怪盗が出た』、なんてバカバカしいもんがの」


 フンと鼻を鳴らす音や、フッと息を吐く音、「ああ…」と思い出す声。


「ただ、噂の拡がりは進んでおる。


それに組合の代表なんかからも要望が上がっておっての」


 羊皮紙をしまい、ベルトムは白髪を撫でつけた。


「ギルドから捕縛の依頼じゃ。


なんもわかっておらんから、情報収集からじゃ」


「ベルトムさん。夜の見回りはどうするんだい?」


「このあと、衛兵長とも打ち合わせをしてくる。


やる方向で動いてくれ」


 その後、各パーティに様々な役割が分担されていった。



 会館を出て、レックスが前のめりになる。


「ユーヤさん。僕たちは何をするんですか?」


「ああ。俺たちは住民への聞き込みだ」


「担当は酒場街よ」


 補足するリナ。

 カイラが寄って、その肩に指をつつーっと滑らす。

「ひゃっ?!」


「いいわね。

酔わせて、洗いざらい吐かせましょう」


 それは、さすがに情報の確度が危ぶまれる。


「普通に…聞こうね」


 とととーっと、前に出たのはミルだ。

「みなさん、ご安心くださいっ。


怪盗さんは、ミルに会うために、すぐ出てきてくれますよ♥」


「そうなると、話が早いね」


 大きく頷くミルの向こう。


 ポートリースの街並みは、昼食を食べたあとの人混みを濃くしつつあった。


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