第44話 町民と繋がる午後の祭り
中央広場は、人で詰まっていた。
荷車の脇に麻袋が積まれ、その横で串を焼いている。
立ったまま食べてるやつと、しゃがみ込んでるやつが混ざってる。
「……進まないな」
声と匂いが、あちこちから重なっていた。
人波の向こうには、催し物の舞台。
リズムの無い小太鼓の音。
開放弦はわずかにピッチが変わった。
チューニングしてるみたいだ。
「演奏は、これからか」
そのまま進みいくと、人の壁に塞がれてしまった。
何かの行列みたいだ。
先は、総合案内所。
リナが少し引きつった顔で、こっちを見る。
「確か……ミルって」
「ああ。様子を見るか」
俺たちは足早に、行列を追い抜いて行く。
天幕の下、ちょうど、次の人を案内するところみたいだ。
ミルは椅子に座ったまま、ぱぁっと顔を輝かせる。
両手を胸の前で合わせると、期待に満ちた笑顔で身を乗り出した。
「はいっ、お任せくださいですっ!
今日はみなさんに、楽しいをたくさんプレゼントする日なのですよっ♥」
指を一本立てる。
「まずは中央広場ですっ!
収穫したお野菜や果物、それから色んな屋台さんが、ずらーっと並んでるのです!
焼きたてさんもありますし、
お家まで連れて帰れる保存食さんや加工品さんもありますから、
お腹が空いてても、あとで食べたくなっても安心なのですよっ♡」
今度は二本目の指。
「それから舞台ですっ★
もうすぐ音楽隊さんが演奏してくださいますし、
子どもたちも、とーっても頑張って準備してるのですっ。
まだ始まってないのですけど、
そのぶん最初から見られるチャンスなのですよっ♪」
嬉しそうに両手を広げる。
「西側では農家さんたちが、今年いちばん自慢の収穫物さんを並べてるのですっ❀
お時間が合えば、『これはこうやって育ったんですよー』って、
お話まで聞けちゃうかもしれませんっ☆」
今度は右手を東へ向けるように振る。
「東側は遊び場なのですっ♪
投げ輪さんとか、簡単に遊べるものがいっぱいですっ。
お子さんはもちろん、
大人の人も意外と夢中になっちゃうかもしれないですねぇ♡」
ふふっと笑ってから、小さく頷く。
「もし、ご飯をたーくさん楽しみたいのでしたら、南側の通りがおすすめですっ!
屋台さんがもっともっと増えますから、
『どれにしようかなぁ』って迷うところまで含めて、お祭りなのですよっ♥」
胸の前で手を組み、こくこく頷く。
「それから街門さんの近くと、農園さんのほうにも、小さなお店があるのですっ❀
こちらは人が少し落ち着いてますから、
のんびり見たい方には、とってもぴったりなのですよっ♪」
最後に姿勢を正し、膝の上で手を揃える。
「今日はたくさんの方が遊びに来てくださってますので、
立ち止まってお話ししてる方や、
お荷物を運んでる荷車さんには気を付けてくださいねっ☆」
にこっと満面の笑みを浮かべる。
「それとっ、お祭りさんは時間によって『今だけ』がいっぱいなのですっ✿
さっきまでやってたことが終わってたり、
今から始まったりもしますので、
『あれっ?』って思ったら、ぜひまたミルに聞いてくださいっ♡
何度でもご案内しちゃいますからねっ♪」
ひとりに対しての説明が、手厚すぎる……。
これじゃ、いつまで経っても、列が減らない。
「とは言っても、あの子の親切心だからなぁ」
リナと顔を見合わせる。
「そうだね……でも、このままってわけにも」
少し考えた彼女。
口元を引き締める。
「うん。私も入る」
「え? あ…」
案内所の裏へ向かうリナ。
振り返りながら手を振る。
「巡回の報告と、事情説明、お願いね!」
「……ああ。わかった!」
奥から椅子を引っ張り出したリナ。
「私も案内、やるね」
「リナさん! よろしくですぅ♥」
列が二股に分かれる。
さ、俺は俺で、本部に行かなきゃな。
夕方。
人混みはまばらになり、各所で片付けが進んでいる。
中央広場に来ると、総合案内所も畳まれつつあった。
書類をまとめるミルの元へ、一組の家族が。
深々と頭を下げられ、ミルも大きなお辞儀を返す。
「お嬢さんが詳しく教えてくれたおかげで、たっくさん、楽しめましたよ」
母親の優しい笑顔。
後ろでは、兄弟がふざけ合っている。
手には、形の変わった野菜。
ミルは大きな笑顔で応える。
いつもより、くしゃっと、不格好に見えるのは、気のせいだろうか。
みんなと合流して、酒場にやってきた。
今日はいつものギルドホールじゃない。
辺りで人気の、大きな酒場だ。
ちょっと奮発した打ち上げ。
良い酒と、良い音楽を目当てに来た。
みんなの顔が少し赤くなってきた頃。
「お! ベルトムさん! 待ってました!」
さっきまで、三人組が小気味良い曲を奏でていた。
その空間に、一人の老人が座る。
「リュート一本……か」
俺はテーブルに肘をつき、どれほどのもんか、と耳を傾けた。
次の瞬間。
最初の一音で分かった。
……違う。
トニック。
ただそれだけの和音なのに、音が崩れない。
低音が土台を作り、その上に中音、高音が自然に積み上がる。
一音も競っていない。
……ボイシングが綺麗すぎる。
俺がこれまで、どれだけ雑に弾いていたかを思い知らされた。
演奏が終わり、客からの歓声が飛ぶ。
俺は、ただ拍手するしかなかった。
すっかり酔いは醒め、音を思い出す。
視界の端に、足が入り込んだ。
「お前さんも、弾くんだろう?」
顔を上げると、先の吟遊詩人だ。
「たまにいるのさ。音の波…浮かずに、潜るやつがな」
「す、すいません。興を削ぐような態度に、見えましたか」
だが、彼は笑い飛ばした。
「いやいや。どう聴くのも、人の自由さ」
俺はリナたちのことを尻目に、彼と向き合った。
「俺はユーヤと言います。転移者で、吟遊詩人をやってます」
「ほぉ。転移者で。珍しいのぅ。
わしはベルトムだ。しがない“流し”よ」
この人と、俺で、何が違うのか、知りたい。
「あ、あの」
「さて、良い出会いもあった。
今日は終いよ。
帰るとするわぃ」
背中に手を伸ばしかけるが、不躾さを自制する。
「夜更かしは肌に悪いからのぅ。フッホッホ」
変わった笑いと共に、ベルトムは賑わいを後にした。
……他の町になんて、行ってられないじゃん。
ポートリースには、まだまだ色んな出会いが残っているんだから。




