第43話 町民と関わる午前の祭
街門を抜けると、農園の脇道に人が溢れていた。
普段は荷車しか通らない道に、屋台と旗が並んでいる。
「思ったより賑やかだな」
「収穫祭だよ。みんな外に出てくる日」
リナはしっかりと目を配っている。
ギルドから請けた、名ばかりの巡回任務。
と、思ってるのは俺だけなのか。
いや、この子が特別真面目なんだと思う。
実際、見かける冒険者に゛はしゃいでる感”が否めない。
「ねぇ、あそこ」
リナの声に、視線を上げる。
小屋の近くに人だかりが出来ていた。
今日、初の異常——
というほどでもないけど、何があったのかは気になる。
俺たちは騒ぎの中へ入ることにした。
大の大人たちに囲まれているのは、小さな子供。
そして、寄り添っていたのはカイラだった。
なんだか、イライラしてそう。
周りの声には、どうにも重さがある。
「困ったねぇ」
「今日の寝床くらいは、どうにでもなる」
「問題は、明日も明後日も面倒を見る覚悟があるかだ」
「教会に預ける手もある」
「本人は、どうしたいんだろうね」
迷子……いや、捨て子か?
回り込んで、カイラの隣に近付く。
「カイラ、これはいったい……」
「この子が、ここで泣いていたのよ。
大人の都合で生まれて、大人の都合で一人にされたのね」
それで、周りの大人に呼びかけた、と。
リナがむむ、と唸っている。
難しい顔をしていた。
「シャツは綺麗だし、ベストも着てる。
帽子まで被って……
捨てる子に、こんな格好」
言われてみれば、祭りを楽しみに来た、と言われるほうがしっくりくる。
周りにも、違和感が広がる。
そこへ、輪の外から声が差し込んだ。
「あのー、ここらへんで男の子、見ませんでしたか?」
人だかりが割れ、現れた女性のシルエットに、子供が駆け寄った。
「ママ~!!」
「あらあら」
大人たちは呆気に取られる。
「母親、か?」
「捨て子……じゃねぇの?」
「はぁ…勘違い、だろ」
三々五々、「人騒がせな」などと散っていく、深刻だった空気。
とは言え、あんなに自分事のように話し合っていたんだ。
真剣に、なんとかしようとしていたんだな。
カイラは、顔こそスン、としていた。
ただ、肩の力は抜けてる。
「行くわ」
一瞬だけ、頬が柔らかくなったように見えた。
はー、まったく。
……ま、君が満足なら、いいけどさ。
倉庫街まで足を延ばす。
「人の出入りがいつもより激しいな」
「売買が盛んな日だもの」
貸し出しをしてるとかも、あるのかな?
この先には、厩舎や、キャラバンの停留地なんかがあるから。
のはずなんだけど——
見えてきたのは、たくさんの白いモコモコと煙。
群れで走ってくる、羊だった。
「待てこらあああ!」
「みなさーん。避けて避けてー!」
倉庫前の荷積み場に広く散開していく、毛むくじゃらたち。
どうやら、脱走したらしい。
家畜業者と冒険者たちが縦横無尽に追い掛け回す。
混沌とした絵が出来上がった。
しかも——
レックスもいた。
「ま、待ってくださあああああい!!」
トラブルではあるが、なんとなく呑気な風景。
「あーあ」
不謹慎ながら、乾いた笑いが漏れてしまう。
レックスの悲鳴が、未だ右から左へ。
「こ、こ、来ないでくださあああああい!!」
ん?
「なんかさ。レックス、いつの間にか、逃げる側になってないか?」
「ほんとだ。羊に追われてる……ね」
リナも呆れ顔を浮かべざるを得ないようだ。
しかし、すぐに背筋を伸ばす。
「ちょっと待って。
追われてるなら、そのまま引き連れるんじゃ……」
「……あー……羊って、周りの動きに引きずられやすいんだっけ」
そして、声を投げる。
「レックス! そのまま、羊の柵の中に逃げ込め!」
「ふぇ?! あ、ユーヤさん! リナさん! う、うわっ!」
「理由はあと! 言われた通りに!」
「わ、わ、わかりましたあああああ!」
レックスの軌跡をなぞるように、羊たちが柵の中へ収まっていく。
ハーメルンの笛吹きも真っ青の求心力だな。
俺たちも、漏れてる個体を追い立てる。
なんとか協力して、全部押し込むことが出来た。
ゲートが閉じられる。
「ふぃー、手伝い、ありがとな!」
家畜業者が、冒険者たちや俺たちに、チーズの欠片をくばってくれた。
チーズ、美味し。
……あれ?
なんか忘れてるような。
柵の中、中央。
白いモコモコが集まっている。
埋もれるレックスの手が、時折、出てきた。
「……ま、トラブルは落着、か」
「そ、そうだね。行きましょうか。あはは…」
踵を返した俺たちの後ろ。
くぐもった声が届いたけど、何を言ってるかは聴き取れなかった。




