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第41話 自分の居場所と、その居場所

 〈前進の旗〉に入って、どれくらい経っただろう。

 このベッドの寝心地にも慣れてきた。


 だけど、今日はまだ寝る気になれない。

 机上のランタンは未だ役目を全うしている。


 天井には、さっき外した弦の細い影。

 ゆらゆらと揺らめいている。


 宿舎のどこかの部屋からは、時折、笑い声が届いている。


 俺はタクミの言葉を思い出していた。


『バフのかけられない吟遊詩人を連れてても、な』


 色んなところで、上手くいかなかった俺たち。

 寄り集まって、たまたま戦えてる。


 だから、クランのみんなに受け入れてもらえているんだろう。

 今じゃ、仲間意識みたいなものも芽生えてる——


 気がする。


 でも……


「〈灰裂域〉……」


 リナの話じゃ、Aランクパーティでも、単独突入はリスキー。

 そんな厳しい戦地に行ったら……


「どうだろう、な」

 寝返りをうつ。


 応急処置で張り替えた弦だけが、真新しい輝きを放っている。


「……全部、張り替えるか」


 ついでに、磨こうと思い、メンテ道具を一式引っ張り出す。


 ボディには傷一つない。

 今のパーティで、俺が脅威に晒されていない証だ。


 ……アルディンについていくと、ここに、亀裂が入るかもしれない。


 俺たちの空気にも。


 一息吐く。

「折角、全張り替えだし」


 ちゃんと磨いておかないとな。


 夜の喧騒は落ち着き始めていた。



 翌日。

 ギルドのホールへ入る。


 カイラたちは、いつものテーブルへ向かう。

 俺とリナは掲示板のほうへ。


 テーブル間をすり抜けるリナの背中。


「リナ。ちょっと待った」


 足が止まる。

 でも、すぐに振り向かない。


 少し、肩が上がったように見えた。


「どうしたの? ユーヤ」


 振り向いたリナは、優しく微笑んでくれた。



 依頼を受けずに、テーブルに着いた。


 周りからは、装備を整える金属音や衣擦れ。

 任務の話や、朝から呑んだりと、雑然とした音声が聴こえる。 


「あれあれ? ユーヤさん、何か心配事ですか?」


 ミルに気を遣わせてしまった。

 顔に出てたかな。


「ああ。ちょっと、みんなに聞きたいことがあって」


 あまり戸惑ってなさそうだ。

 みんな、思うところがあるんだろう。


「〈前進の旗〉が灰裂域に挑戦する方針を出しただろ?


どう、思ってるのかな…って」


 投げてみたものの、誰も喋り出そうとしない。


 その時——

 リナの手が、俺の腕にそっと触れた。


「それより、ユーヤがどう思ってるのか、聴きたい」


 え……。


 みんなの気持ちを聞いてから、考えようと思ってた。

 でも、見回すと、それぞれしっかりと腰を据えてる。


 俺の言葉を……待ってるのか。


 小さく息をつき、リナに頷いた。


「受け入れてくれたクランのみんなには感謝している。

役に立てたら嬉しい。


でも」


 『でも』の接続詞を聞いても、みんなの表情は穏やかなままだ。


「危険なエリアにいけば、要求も高くなるだろう。


それは、そのうち期待になって……」


 俺の、思い込みと言われれば、それまでだけど……


「期待に応えられないことで、叱咤が飛ぶかもしれない」


 最初に、目線を下げたのはレックスだった。


 横目に、続ける。

「アルディンは『ついて来れない奴はおいていく』なんて公言してるんだ。


クラン全体で頑張ろうとするかもしれない」


 リナが軽く頷く。


「ただ……


俺たちのパーティの中で、要求し合って、叱咤が飛んで、ギスギスするのは」


 ……はっきり、言おう。


「……嫌なんだ」


 レックスに続いて俯いたのはミルだった。


 リナが微笑みかけてくる。

「そっか。それなら、同じ気持ち。


多分、カイラも、ミルも、レックスも」


 この沈黙は、同意、かな。


 カイラが、ぬったりと体を寄せてきた。


「それで? だから、なんなの?」


 ……選択の話をしなくちゃ。


「だから……〈前進の旗〉にこのままついていくか。

脱退して、留まるか。


みんなの意見を」

「あなたは、どうしたいの?」


 ゆっくりと瞬きをしたカイラが、俺の瞳を射抜く。


 ……俺は……。


「俺たちのペースで、進みたいよ」


 顔色を窺うように、視線を滑らせてみる。

 みんな、緊張が抜け、穏やかな表情をこっちに向けていた。


 リナが頭を傾け、オレンジの髪を揺らす。

「じゃあ、決まりね♪」


 その笑顔は、強く、俺を安心させてくれた。

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