第40話 前進した先の不安
ポートリースの中央広場。
帰還した〈前進の旗〉メンバーが幹部たちを待っていた。
報告と討伐証拠の引き渡しに、随分と時間を食った。
俺もアイテムボックス持ちとして、他の転移者と共に同行していた。
群れの中の、リナたちを見つける。
「やっと終わったよ」
「おかえりなさい」
おかえり、か。
なんか、良いっスね。
広場のメンバーたちは、高揚一色、というわけでもないようだ。
ただの疲れ……っぽくもない。
舞台に、アルディンのパーティが上がった。
レオルが大きく手を振る。
「よーし、お前ら。雑談やめろー」
静まるのを待って、シアが羊皮紙を見ながら、声を広げる。
「みなさん、お疲れさまでした。
バッタの数が想定以上だったこと。
それにヒポグリフの分」
淡々と、目を滑らせる。
「合わせて、報酬額はかなりのものになりました。
いつも通り、計上の上、後日、分配します」
一枚目をめくり上げる。
「そして、残念ながら、死者が出ました。
致命傷を受けた者。重傷の回復が追い付かなかった者。
合わせて、7名です」
空気が、明らかに沈む。
舌打ち。
ため息。
すすり泣く声。
シアに代わったのは、カルロスだ。
指揮棒の先を、掌に軽く収める。
「戦闘行動が予定通りに進むことなどありえない。
それは各々、承知のはず」
ピシッと、掌を叩く。
「その覚悟が揺らいだ者がいれば、退団することを勧める」
ここでも、切り捨てる話か。
表立って反発する人はいないだろうけど……
彼は指揮棒でクラン員たちを指した。
「覚悟があるのなら、悲しむのではなく、反省することだ。
もう、味方を死なせないために」
カイラの歯ぎしりが聴こえた。
すぐに腕を掴む。
危ない危ない。
やっぱり、動き出そうとしてたよ。
「カイラ、言い方があれなだけで、内容は一応、応援だからっ」
「そういう問題じゃないわ。
立身のために、死に場所に連れてったのは、どこのカリスマ気取り野郎って話よ」
「うんうん、そうだね。
でも、多分っ…多分ね?
彼らは彼らで反省してる……
んじゃないかな?」
うー……すごい睨まれてる。
でも鼻息が少し収まった。
なぜか、脇を締めるカイラ。
あれ、手が抜けなくなった。
ぐっ、変ないじわるをされてしまってる……
最後に、舞台に立ったのはアルディンだ。
「結局のところ、勝つしかねぇ。
冒険者じゃなくたって、傷つきながら生きてんだ」
彼にしては、あまり見ない、憂いた顔をする。
「だが、恐れるな。
お前らは勝ったんだ。
次は味方を失わない。
俺はそう、信じてるぜ」
眼差しが、強くなった。
「俺たちは強くなった。
〈灰裂域〉に挑むぞ!」
途端、どよめき、ざわめき、戸惑い、興奮する、混沌とした雰囲気が包む。
どういう意味の言葉なのか。
反応が様々過ぎて、俺にはよくわからなかった。
ギルドホールのいつものテーブル。
夕食に手を付け始める。
あんまり……空気が良くないな。
なんだろう。
ここは、リナ教授に聞いてみようか。
「リナ。〈灰裂域〉って、なんのこと?」
「うん……」
いつもの、得意げ教示のノリじゃなかった。
カトラリーをカチャ、と置く。
「〈灰裂域〉は中央の方にある、やたら危ない地域。
魔物が多いっていうか……
質も量も桁違いって話よ」
メモを取り出し、ページを探し始めた。
「誰かが管理してるわけじゃないし、近づかなきゃ問題はないんだけど……
逆に言うと、入ったら自己責任ってやつ」
なるほど。
ゲームで言う、エンドコンテンツエリアって感じか……
「その周りに〈外縁帯〉って呼ばれてる場所があってね。
冒険者はそこに拠点作って、様子見ながら潜るらしいよ」
そこで、レックスがもごもごと口を挟む。
「もっのんな、むあんなきふぅ、がんえん、きっふ!」
「なになに? もっと食べ物を詰め込んで、窒息死させて欲しい、ですって?」
腰を上げたカイラ。
骨付き肉を、肉をこ削がない状態のまま持ち上げる。
「こらこら。
レックスも、飲み込んでから喋ろうね」
俺の言葉に合わせて、ミルが水を差しだす。
レックスは口の中を流し込んで、ふぅ、と落ち着いた。
「ご、ごめんなさい……
えと、僕のいた、グランダ地方も、その〈外縁帯〉の一部です」
「やっぱり、厳しいところで戦ってたんだな」
俺の反応に、彼は暗くなることなく、頷いた。
嫌な思い出は、もう咀嚼済みだもんな。
リナがメモを閉じ、懐にしまう。
「単独パーティじゃ……CとかBでも、浅いとこまでが限界って聞くわ。
奥は、Aでも普通に帰ってこないとか」
「素材も、討伐報酬も、高級な物が出ますよ」
そう言うレックスの甲冑は、確かにかなり立派だ。
リナも目を滑らせつつ、カトラリーを持ち直した。
「行く人は、それ目当てか、腕試しか……
どっちにしても、好きで行ってるんだと思う」
カイラがどん、と腰を下ろし、足を組む。
フォークを持つ手が、空中をツンツン、と刺す。
「要は、新たな死地へのお誘い、よ」
その後の晩餐は、金属が木皿を擦る音が、妙に印象に残った。




