第39話 前進した先の安堵
戦場は混沌の最中にあった。
ヒポグリフは食料を横取りされるとでも思ったのか。
攻撃対象を冒険者に変えている。
抵抗するファットバッタとの、三つ巴。
リナによって、落とされた樹冠で埋まっている、前方の広い範囲。
そこへ大量のつららが降り注ぐ。
樹冠ごと、氷のステージが出来上がると、レックスが躍り出た。
「別の魔物が来ちゃいましたけど……
どどど、どうするんですか?」
つららの隙間から、よじ登ってくるバッタ。
その度に影に裂かれていく。
隣に戻ってきたカイラが一息吐く。
「このままだと、あたしたち、急に頭を食べられ……
なくて済みそうね」
「アブソリュートゼロアイシクル!」
リナは叫びながら、俺のそばに寄ってきた。
「これなら、ヒポグリフの注意を引けないかしら?!
レックスに……あれ?
もう、いる」
ヒポグリフの急降下を、紙一重で避け続けるレックス。
そのかすり傷に、頻繁に飛ぶ回復魔法。
相変わらず、ミルは「させませんっ」をやっている。
「なんとか、後衛崩壊の展開は避けられた、のか?」
俺の気持ちが落ち着いたからか、目端の動きが見えた。
両隣のパーティも便乗して、前衛が敵視を集める形を取れたようだ。
でも、視野が戻っただけじゃない。
焦りでくぐもっていた聴覚も戻り始める。
「ぐあっ!」
「マック?!」
「え、ちょ!」
「キャァー!!」
悲鳴と混乱が耳をつく。
一軍以外は横一列。
だから、こっちから見れば、百人以上に見えるわけはない。
はず、なのに。
木々の隙間からは、かなりの範囲に人間が広がって見える。
「陣形がっ……崩れてるのか」
リナたちは頑張っている。
こんなことを報告しても、困らせるだけだ。
でも、このままじゃ……
——ビンッ!
弦の一本が切れた。
強化が出来ない吟遊詩人。
テンパり性の魔法使い。
気分で戦う暗殺者。
無駄動作の多い治癒術士。
ビビりな侍。
——戦いできっちりと役目を果たせなかった俺たち。
寄り集まって、なぜか良い動きができる奇跡が起きてる。
そんな奇跡のおかげで、クランにも受け入れてもらえた。
アルディンの深い懐。
〈マッスル団〉との絆。
他メンバーとの繋がり。
折角、はみ出し者じゃなくなったのに。
……壊れて欲しくない。
強化が出来ないから、なんだ!
俺の演奏があると、ノるって言ってくれる人もいるんだ!
「弾き続ける!!」
弦が一本、無くたって、他の弦で同じ音程は出せる。
運指が大変になることなんて、みんなに比べたら、なんてことはない。
明日、筋肉痛にならなかったら、恥だと思え!
——頼む。
みんな、持ちこたえてくれ……!
音を出し続けてるせいで、変化に気付くのが遅れた。
どうも、届いてる声に、いつの間にやら、悲鳴の感じがない。
横を見ると、広がっていた人間の姿がまとまってる。
横一列に戻った??
演奏を止めて、指を解しながら、耳を澄ませる。
「落ち着け落ち着け! 落ち着いてる…のか」
「いけてるいけてる!」
「お、それいいじゃん!」
「やばああああ! く…なかった」
どうも、混乱は収まって、なにやら安定してそうな声が聴こえる。
肩の力が、少し抜ける。
「うちだけじゃないのか。
他の二軍連中も、けっこうやれる人たちだったんだな…」
冒険者ランクを指標にしすぎていたのかもしれない。
ちょっと反省。
やがて、ヒポグリフの残りは戦場を去り、バッタの掃討も終了した。
一軍が相手取った、指揮固体を見物しに行く。
「うわ。でっかいバッタ…」
牛くらいの大きさのボアバッタ。
数体倒れる、その向こう。
景色の一部かと思っていたら、それもバッタの魔物だった。
ダンプカーみたいな迫力が、ズタズタになって沈んでいる。
「ハーベスターをちゃんと仕留めてる。
さすがAランクのパーティね」
メモを手元に、冷静な口ぶりのリナ。
切り取った触角を掲げ、アルディンが見回す。
「お前ら! 珍客をよく凌いだ!
俺たちは、もっといけるぞ!」
沸き立つ〈前進の旗〉一同。
ボロボロの姿で、互いの健闘を称え合う。
死傷者の報告は、まだ行われていない。
……なんにしても、とりあえずは危機を乗り越えられた。
リナたちもいつも通りだ。
俺はそれが一番、ほっとした。




