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第4話 冒険の始まり

 スライム祭りの報酬は、結局のところ拍子抜けするほど簡素なものだった。


 一位だろうが何位だろうが、現金の支給は一律。

 違いがあったのは、例のイヤリングだけらしい。


 冒険者ギルドのテーブルに広げられた報酬袋を、リナは迷いなく俺のほうへ押して寄せた。


「わたしはイヤリングをもらったからね」


 確かに、俺はリュートを買った時点で、ほとんど持ち金を使い切っている。


「……助かるよ」


 そう言ったものの、活躍したのは、どう考えてもリナだ。

 俺は後ろで音を鳴らしていただけで、スライムを処理したのは彼女の火力だ。


 情けないな、と思う。


「森で保護してもらってから、世話になってばっかだな」


 ぽろっと出た言葉に、リナは少し困ったように笑った。


「好きでやったことだから、それはいいわよ」


 そう言ってから、ほんの一拍、考えるように視線を落とす。


「でも……ちゃんと経験は積んだほうがいいわよね……」


 自分の考えを改めるような呟き。


「やっぱり、新人冒険者たるもの、新人同士で組んだほうがいいと思うわ」


「……なるほど」


 リナをこの先も付き合わせるのは、さすがに気が引ける。


「わかった。ここまで、本当に助かったよ」


 席を立ち、握手を交わす。


「リナは、これからどうするんだ?」


「今のわたしなら、もっとやれそうな気がするの」


 そう言って、彼女は少しだけ胸を張った。


「だから、先を行く人たちを追うことにするわ」


「そっか。……頑張って」


「また、どこかの町で会えるかもね」


 リナはそう言って、耳元の水晶に指先を触れる。


「……イヤリング、ありがと」


 手を振って、ギルドの扉へ向かう背中は、迷いがなくて、妙に頼もしかった。


 俺が何か影響を与えたわけじゃないだろう。

 それでも、世話になった人が前向きに歩き出すところを見送れたのは、悪くない気分だった。


 さて。


 パーティを組む、か。


 どうするかなぁ。




 ポートリースの街門を抜けると、視界いっぱいに農園が広がった。

 整えられた畝と、水路。


 街のすぐ外だというのに、人の手がまだ強く残っている。


「ここからだ。ここから俺の伝説が始まる……!」


 やけに気合の入った声を上げたのは、格闘家のリオだ。


 拳を握りしめ、鼻息まで荒い。


「……今からそんなに興奮してたら、疲れないか?」


 俺は苦笑いしたが、リオは一瞬だけこちらを見てから、首をひねった。


「戦う時には気合が必要だろ?!」


 横で歩いていた薬師のラナが、穏やかに笑う。


「まだしばらく歩きますからね。肩の力、抜きましょ?」


「お、おう……」


 言われた通り、リオは肩をぐるりと回して、だらりと下げた。


 進むにつれて、景色は少しずつ変わっていく。


 畑の区画が途切れ、柵の向こうに牧草地が広がり始めた。

 荷駄用だろう馬の姿もちらほら見える。


「意気込むのはいいけど、雑魚を何体か狩るだけよ?」


 気だるげに水を差したのは、弓使いのケイだった。


「ケイさんは、ランフィアスからの道中で戦闘は経験済みなんでしたね」


 前を歩く重装騎士のガルドが、確認するように言う。

 背中越しでも、少し緊張しているのが伝わってきた。


「ま、さすがに明らかに弱そうなのしか相手してないけどね」


「経験者の方の移動に同行させてもらったとは言え、危険だったのでは?」


 ラナの心配に、ケイは小さくため息をついた。


「だってさー。


せっかく異世界に来たってのに、いきなり『パーティ組みませんか?』って、

フガフガ近付いてくるのが多いんだもん。


キモい」


 倉庫や厩舎の並ぶ地帯を越えると、使われなくなった家屋が目につき始める。


 人の気配はぐっと薄くなっていた。


「あたしがいくら可愛いからって、ねぇ?」


「あはは……」


 ……転移者初期あるあるを話されても、ラナは反応に困るよね、そりゃ。


 そのときだ。


 ガルドが、急に前へ出た。


「……もうそろそろ」


 盾を構えた次の瞬間、物陰からスライムが跳ね出してきて、鈍い音を立てて盾に弾かれた。


「スライムの生息地、でした!」


 すでに放たれていたケイの矢。突き刺さったスライムが溶け始めている。


「そうみたいね」


 ケイはすでに次の矢をつがえている。


「そういえば、お前はポートリースで登録したんだって、な!」


 ガルドの方へ向かおうとした別のスライムを、リオが踏みつぶしながら声を投げてくる。


「あ、ああ。森の中で目が覚めてさ。一番近かったのが、ここだった」


 二体目が処理されたのを見て、俺は慌ててリュートを構え、音を鳴らし始めた。


「それは、あまり聞いたことがありませんね」


 ラナはガルドに光る粉を振りかけたと思ったら、もう後方へ下がってきていた。


「なんだよ……ちょっと伝説っぽいじゃねーか!」


 リオはそう言いながら、念のためとばかりに地面を殴り続けていた。


 “伝説”のハードル、低くない?


「まずは、この依頼を、ちゃんと乗り切りましょう!」


 ガルドは落ち着いた声でそう言い、周囲のスライム核を拾い上げている。


 ケイが各自の拾った核を集め、アイテムボックスに放り込んだ。


「あ、十個、集まった」


 ポートリースへの帰り道。


 歩きながら、さっきの光景を頭の中でなぞる。


 ……あれ?


 モンスターと、戦った……んだよな?

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