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第37話 違いを受け入れた並び

 〈前進の旗〉マンティス討伐部隊が街道を行く。


 露払いに割かれた二つのパーティが両サイドを警戒。

 残りの各パーティは雑に隊列を伸ばしていた。


 ポートリースへの帰路は、俺達が取り囲まれる形で始まった。


「良いタイミングの支援だったぞ」


 アルディンが、レックスの肩をばん、と叩く。

 レックスは「ふぐっ」と変な声を出した。


 そのままアルディンは、弓使いへ振り向く。


「なぁ? シア」


「ええ。一旦、薄くなる左翼を一掃してから、というのも評価できるわ」


 シアが静かに笑う。

 その視線を受けて、リナも少し照れたように笑い返していた。


 すると前を歩くレオルが、籠手の紐を締め直しながら声を投げてくる。


「別に、俺とアルディンがいりゃあ、デスサイズくらい」


「もちろん。想定内だった。


ただ、駒が増えて、盤石になったのも事実」


 カルロスは当然みたいな顔で、指揮棒を布で拭いていた。


 そこで、ミレアムが精霊石を磨きながら、俺へ声を向ける。


「あまり変わってないように見えるのですけど、ミルの回復が随分と早く。


なぜです?」


 う…。


 聞かれても困る。


「ど、どうなんでしょう……」


 苦笑いを返し、助けを求めるようにミルを見てみる。


 は、鼻が伸びてる…っ?!


 ……いや、目の錯覚か。

 “態度”って、すごいな。


 歩幅を合わせたアルディンが、シアの隣につく。


「杞憂だったな。噂は噂。


……合格だ」


 その言葉に、シアはひとつ頷く。


 そして、俺たちに声を広げた。


「ひとまずは二軍ですが、共に〈前進の旗〉を盛り上げましょう。


会館に戻ったら、個室を用意しますね」


 その瞬間。


 影と同化してたかのように、アルディンの背にぬらりと現れたのはカイラだ。


「成果でしか人の価値を計れないのね」

「うおっ」


 急な声に、さすがのアルディンもぎょっとする。 


「何かの拍子で歯車が狂っただけで、安物の懐中時計みたいに取り換えるつもりなのかしら」


 あぁ……。


 いつものカイラ節だ。

 止めようがないんだよな、この暗殺者の抜き足。


 俺は“あちゃー顔”で様子を見る。


 でも、アルディンは落ち着いていた。

 にやり、と笑う。


「そうだ。強さが全てだ」


 迷いなく言い切る。


「最初に言っただろ?


俺たちは前に進む。待たねぇ。ってな」


 その堂々とした返答に、カイラは妙に穏やかな笑顔で、アルディンを見続けた。


 そして、やはり急に、スン顔に戻る。

 そのまま、するりとミルのいる後ろ側へ下がっていった。


 ぜんっぜん、気持ちは読めないけど……

 とりあえず、納得はしてくれたんだろうか。


 ただ、一つ確かなのは。


 それぞれがはみ出していたはずなのに、なぜか上手く回る俺たちは——


 ここに来て、枠組みの中に入ることになった。



 あれから数日。


 一軍が遠征に行っていたことで溜まっていた中規模任務も、だいぶ片付いた。

 クランは再び、通常の稼働に戻っている。


 各メンバーは“いつものメンバー”でパーティを組み、それぞれに冒険者生活を送る。


 今日も依頼を片付け、ギルドのホール。

 いつものテーブル。


 いつもと違ったのは、

 合同で仕事に取り組んだ、もう一つのパーティがいたことだ。


 ——〈マッスル団〉。


 自分たちのパーティをそう呼んでいるらしい。


 隣のテーブル。

 ひときわ声がデカい。


「ガハハハハ! だから言っただろうが!」


 重戦士ドラムが、どん、と拳で丸テーブルを叩く。

 木製ジョッキが跳ねて、泡がこぼれた。


 向かいでは、槍騎士バルクが骨付き肉を片手に笑っている。


「押し切れたのは俺らのラインが崩れなかったからだ!」


「いや俺の爆風だろ!」

 爆弾使いグラドが割って入った。


 ジョッキを掲げ、そのまま豪快に煽る。


 騒ぎの真ん中。

 祈祷師セラドは、なぜか妙に姿勢良く座っていた。


 でかいジョッキを持ってるのに、背筋が全然崩れない。


「はい、まず呼吸整えてから飲みなさい」


 そう言って、自分でもぐいっと飲む。


「吸ってー、吐いてー。


はい、もう一杯いけるわよ!」

 アッハッハ、と笑う。


 隣では、踊り子リガが椅子へ浅く腰掛け、脚を組んでいた。


「今日のフォーム、バルクちょっと崩れてたよ?」

「はぁ!?」


「最後の突き、軸流れてた。


明日ストレッチ倍ね」

 くるり、と手首を返す。


 まるで演技指導だ。


 だが強い笑顔。

「でも、魅せ場は良かったよ。あそこ、決まってた」


 バルクが鼻を鳴らした。


「当たり前だ!」

 ドラムがジョッキを掲げる。


 こっちを見たので、俺も掲げ返した。


 ……うちより濃くないか?


 圧はすごい。

 でも、気の良い連中だ。


 それに、攻めっ気の強いスタイルも、俺たちとは相性が良かった気がする。


 俺たちもテーブルも、時折、絡まれつつ。

 和やかに酒が進んでいた。



 その時だった。


 ギルドホールに入ってきた冒険者たちが、レックスの後ろで足を止めた。


「おい。誰かと思えば」

「おー。こいつ、あの時のヘタレ侍じゃねぇか」


 レックスの肩が縮こまる。


「あちゃちゃー。パーティ組んじゃったのか」

「ちゃんと言ったのか?

『侍のくせにビビりだから、二番手を死なせちまった』ってよ」


 レックスは俯いてしまった。


 ……きっと、カイラは噛みつく。

 ここまであからさまだと、俺もカイラを止めたくはない。


 ただ、喧嘩をするわけにも——。


 ババン!!!


 轟音みたいに、テーブルを叩く音が響いた。


 マッスル団が立ち上がる。

 そのまま、俺たちの前へ出た。


「聞き捨てならねぇな!」


 ドラムが肉迫し、ひとりの顎を引かせる。

 もう一人には、バルクが額を押し付けている。


 さらに、セラドが回り込んだ。

 逃げ道を塞ぐ位置。


「この子はね。呼吸は乱れても、強い勇気で体張ってんだよ!」


「テクも大したもんだ。俺の投擲距離にドンピシャだぜ」

 グラドは後ろで、いつでも爆弾を投げる体勢だ。


 さすがに火は点けていないけど。


 そして、リガが奴らを挟み込む。

「腰が引けてるわよ。体幹が弱い!」


 後ずさる、荒くれたち。


 カイラは黙ったままだった。

 フォークの先で、豆をつついている。


 どうやら、お任せするようだ。



 その夜、俺たちとマッスル団は、遅くまで吞んでしまった。

 二日酔いの朝は、相変わらず頭を締め付けた。


 でも、なんだか、妙に穏やかな気分だった。

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