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第35話 善戦する冒険者

 森の中を、〈前進の旗〉のメンバーがぞろぞろと歩いていく。

 その列の中に、俺たちも混ざっていた。


 レックスが相も変わらず、びくびくとしている。


「45人……ほんとに揃ってますよね?」


「街道ではミルの周りに集まっていましたけど、森では難しいです。


ショボンです…」


 くてん、と首を傾げるミルの嘆き。


 俺は苦笑いしながら、レックスの横へ歩み寄った。


「大丈夫だろ。目の錯覚ってやつさ」


 陣形の方を共に見る。


「横から見ると、木の陰に隠れたりして、全員同時に見えないからな」

「わからないわよ」


 真横から、ぬるっとカイラが現れた。


「ヒッ!」

 レックスが肩を跳ねさせる。


「右翼側はもういないかもしれない。


左翼と同じ二軍だもの」


 脅すな脅すな。


 俺はレックスを落ち着かせるように笑った。


「調査の時に、道中の雑魚はあらかた片付けてる。


毎度のことじゃないか」


 すると、それを聞いたミルが前へ踊り出る。

 そして、そのまま、よよよ……と泣き崩れた。


「モンスターさんたちが会いに来てくれなくて、ミルは寂しいです」


 ……握手会じゃないんだから。


 周囲は普通に歩き続けている。

 俺も気にせず、そのままミルの横を通り過ぎた。


 ミルはすぐ立ち上がって、後ろへくっついてくる。

 パッパッ、と膝の土を払う音。


 毎回思うけど、大袈裟なポーズのたびに払う動作コストがでかい。


 でもミルの場合、本気だからな。

 呆れるというより、逆に感心する。


 ポーズはともかく、ミルの言う通りではある。

 森に入ってから、魔物は数匹しか出ていない。


 その横で、リナがメモをぺらりとめくった。

「二軍は横合いからの接近を処理するだけだから。


基本通りに事が進んでるってことね」


 一軍を主軸に、二軍がフォロー、か。


「この編成をいくつか回してるんだもんな。


……アルディンのカリスマ性、恐るべし」

 思わず唸る。


 その後ろで、カイラがダガーを指の上で回した。


「創設一年強で、この組織力。

確かに、なかなかの勢いね」


 銀の刃が、くるくると光る。


「……どう壊れるのか、楽しみ。ふふ」


 こらこら。


 その横で、ミルは得意げに指を立てた。


「お若い冒険者さんたちはこぞって加入しましたからね★


ポートリース近郊の中・大規模任務はだいたい請け負ってるんですよ♪」


 そこで、レックスが大きく息を吸った。

 フーッと、短く吐く。


「折角、誘って頂いたんです。


ぼ、ぼく、頑張ります!」


 ま、まぁ…そう気負わずに。


 ——とは思うが、水を差すのもな。

 と、俺は苦笑いする。


 カチッ。


 静かな音が鳴った。

 レックスの手元。


 逸るように、鯉口が切られていた。



 マンティスの産卵場には、すでに破られた卵鞘が木枝に残るのみ。

 白っぽく乾いた殻が、森の風にかさかさと揺れている。


 小さな――と言っても、小型犬くらいはあるけど――

 カマキリたちが、陣形へ群がっていた。


 あちこちで脚が跳ね、鎌が枝葉を弾く。

 金属音と、羽音と、草を擦る音。


 そんな中、俺は後方でリュートを鳴らしていた。


 戦況に不安はない。

 だからか、周りの声も普通に耳へ入ってくる。


「ねぇちょっと。あの魔法使いの子、射程管理上手すぎじゃない?」

「ああ。すげぇ迷ってそうな顔してんのにな。届くギリギリに入った瞬間だよ」


「フロストヘイズみたいな空間冷却って、地味だと思ってたけど……」

「すばしっこい虫系の群れにはドンピシャね。魔法選択も的確だわ」


「おかげで、俺は暇だ……」


 左翼へ接近するマンティスは、ことごとくリナの氷魔法で鈍っていた。

 白い冷気が森の下草を這い、踏み込んだ個体から動きが落ちる。


 そこへ、別方向から声。


「群れから外れた個体も、いつの間にか千切れてねぇか?」

「あれよ。カイラ。聞いてた話と違うわね」


「ああ。ちゃんと仕事すると、あんなに速いんだな……」


「っていうか、なんでちゃんと仕事してんだ?」

「知るか」


 木陰から戻ってきたカイラが、不穏なことを呟いて、また消える。

 その直後、少し離れた場所で、マンティスの脚が飛んだ。


 枝の隙間を黒が抜ける。

 また戻ってきたカイラが、不敵に笑っていた。


「そもそも、あのレックスって、例のビビり侍だろ?」

「なんだよ。全然、前に出てるじゃん」


「そうなんだよ。しかも、挑発の飛ばし方が完璧なんだよ。集め方が上手い」

「確かに。魔法の無駄弾が抑えられてるわね」


「でも、なんか……泣いてねぇ?」


 レックスは、走り回りながら、やっぱり泣き言を言っていた。


「無理ですってぇぇぇ!?」

 とか叫びながら、甲冑を打ち鳴らしている。


 寄ったマンティスを、リナとカイラの範囲へ流していく。


 あんなに喚いてるのに、躱す動きは最小限だ。

 そのたびに鎌が掠め、甲冑の隙間へ細い傷が生まれる。


 でも――


「そういや、あの侍、全然、ダメージが溜まってなさそうだな」


「え? でも、ミルは相変わらず、なんかごちゃごちゃやってんでしょ?」

「それがさ。ごちゃごちゃやってんのに、治癒魔法は最速で飛んでんだよ」


「それだけじゃないぞ。実は、たまに全体回復も飛んでる」

「それはまぁいつもやってくれてるじゃない。


…とは言え、小刻みになった気がする」


 少し後方。

 ミルは通常運転だ。


 くるくる回って、両腕を広げて、口上を叫んでいる。

 でも、その途中途中で、光だけは先に飛んでいく。


 転びそうなくらい大袈裟な動きなのに、いつ魔法を放ってんだか。



 左翼の戦線は、かなり余裕があった。

 連携も綺麗に回っている。


 まぁ、一応、俺以外は実力者だからね。


 とは言え、彼らが弾かれてた理由を考えると、

 なぜそれが発揮出来てるのかは、謎なままなんだけど。


 そんな感じで。


 俺たちのいる左翼は、随分と余裕のある戦場になっていた。


 ——左翼、は。

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