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第33話 煮え切らない男

 小さな滝が落ちる池からは心地良い水音が届いている。


 でも、手の感触は滅法、心地悪い。


「キラーモンキーの皮は剝ぎにくいから、丁寧にね」

 怖気ることなく、リナはナイフを入れている。


 このフォルムの皮を剥ぐってのは、なかなかエグい。


「皮剥ぎはよく任されてたので、大変なら僕のほうに」

 レックスも手際よく、捌いていた。


 危険が無ければ、怖くないようだ。


「興味深いわね」


 剥ぐ手を止めたカイラが、モンキーの腕を持ち上げて、レックスに向ける。


「襲い掛かられている時は、あんなにピーピー言ってるのに……


倒した直後に、平気で皮を剥げる」


 そして、ポトッと落とす。


「まるで、それまで熱中してたおもちゃに、急に興味が無くなる子供みたい。


狂気を感じるわ」


「別に、僕は狂ってなんか……


ただ、必死なだけで」

 手を止めてしまうレックス。


 俺はやっとこさ、一体、済んだので、端に避ける。


「真に受けなくていいんだぞ、レックス」


 手を洗い、アイテムボックスに手を突っ込む。


「俺は先に、飯の準備を始めるよ」


 言い訳して、皮剥ぎをみんなに任せた。


 ぴょこんぴょこん、と辺りを周り、見張りをしていたミルが、くるりと振り返る。


「そういえば、カイラさん。


どうして急に、Cランクの依頼を請けようと?❀」


「確かに。


ゆっくりやっていこう、って雰囲気だったじゃない?」

 リナが皮を洗いながら、カイラに顔を向ける。


 そう。


 無理せずムードを、特に口にしていたのは俺だ。

 若干、立つ瀬がない。


「別に焦ったわけじゃないわ。


ただ、Bランクの依頼報酬に、欲しいものがあるのよ」


「……B?


ってことは、請けるために、パーティの平均ランクを上げようとしてるのか?」


「そうよ」


 手は動いたまま、会話が止まる。


 水音だけが、少しだけ大きく感じる。


 みんな、思うところがあるんだろう。

 しかし。


 レックスは、それを隠すように表情を軽くした。

「ちなみに、何が欲しいんですか?」


 手は止めず、死骸をまとめていく。


「ミルを見てたらね、欲しくなったのよ。

新しい服が」


「え、服のために、ランクを上げようとしてるの?」

 リナが眉をひそめる。


 まぁ、最近の雰囲気とは違う方針だから、無理もない。


「だって、あたしたち、思いのほか、戦闘が余裕なんだもの。


だから、もっとオシャレしようかと思ってね」


 オ、オシャレ……。


 まぁ、ミルのフリフリドレスと、

 カイラの黒ボディスーツのコントラストはなかなかだ。


「……そっか」


 あれ、優等生のはずのリナが、鎮火した。

 自分のローブに目を落としている。


 質は良さそうだけど……


 ごめん、確かに、地味だ。


「いいじゃないですか★


可愛いは一番ですよっ♡」


「ぼ、僕は構いませんよ!


怖いまんまですけど、今のところ、気合でなんとかなって……


る、気がしますし!」


 剥いだ皮をガバっとまとめるレックス。


 そうなんだよな。

 それぞれの理由で、パーティから外れてしまったメンツだけど……


 なぜか、ここでは上手く回ってる。

 しかも、余裕すら感じる。


 ……俺、以外は。


「ユーヤ、どうしたの?」

 手を拭きながら、リナが覗き込んできた。


「あぁ、いや、なんでもないよ」


 慌てて笑みを返し、テーブルに食材を置く。


 みんなは乾木を集める。

 彼らの背を見ながら、俺の手は——


 時折、止まってしまった。




 食休めで、ゆったりとした時間が流れる。

 焚火の残り火がぱち、と小さく弾けた。


 俺は、洗った鍋や食器を拭いている。

 布の感触と、水気の抜けていく音だけが、やけに意識に残る。


 さっきの話。


 ランク帯を上げるって話を経て、つっかえていたものが、胸に浮いてきた。


 彼らは各自、問題を抱えながらもBランクだった。

 きっと、実力はもっと上。


 ……俺はどうだ。


 吟遊詩人として、みんなを強化することが出来ていない。

 リナはそれでいいと言ってくれた。


 でも。

 他のみんなにはまだ、話していない。


「よくないよな。このままじゃ」


 布を置いて、みんなに声をかける。


「聞いて欲しいことがある。


俺、Cランク帯のパーティにいたことがあるんだ」


 各々、腰を下ろす。


 リナだけは、そのまま立っていた。


「その時に、『俺が曲を奏でても、強化が出来ていない』って、言われたんだ」


「そんなこと、知ってるわよ」


「だから、俺はみんなの役に…え?」


 カイラは興味なさそうに、爪を見ている。


 ミルとレックスを見る。

 二人とも、当然のように頷いた。


「知ってたのか……


なんで、何も言わないんだよ。

戦力に、なってないのに」


「あなたの価値はそんなところにないわ」


 いつの間にか、後ろから黒髪が垂れてくる。

 気配もなく、カイラが立っていた。


「あなたのような“普通”の男が、あたしに首輪を付けてる。


それが、あたしをあたしらしくするのよ」


「ユーヤさんの音楽と、ミルの可愛さで、みんなの元気は百倍なんですぅ♥」


 両手をきゅっと握り、顎に添える。


 理屈はわからないけど、気持ちは伝わる。


「……よくわかんないですけど!」


 レックスが少し悲しそうに、眉を下げる。


「後ろにユーヤさんがいてくれると、怖いのに動けます!


だから、いてください!」


 なにも、言葉が返せない。

 ただ、ありがたい。


 リナがこちらを見てるのが、目に入った。


 優しく、微笑んでくれた。

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