第31話 はぐれ者たちが噛み合う時
森の中を進んでいくと、やがて目的の村跡が見えてきた。
ミルが、とととっ……と前に出る。
そのまま、覗き込むような姿勢で手をかざした。
「あれれ~?? ゴブリンさん、いないですねぇ」
「はぁ……」
レックスは肩を落とす。
刀に添えていた左手が、すっと離れた。
リナがメモをぺらりとめくる。
「依頼票には、『巣を形成してる可能性あり』と注意があったわ。
もう、どこかに固まっているのかもね」
「ホブゴブリンが出てくる前に、ってタイミングなんだろうなぁ。仕方ない」
俺は髪をクシャ、と撫でる。
その横で、カイラが両手で自分の頬をゆっくり撫でつけた。
「一匹ずつ、抵抗する間もないまま、一瞬の絶望の中で命が絶たれる。
それもいいけど……」
両ダガーが引き抜かれる音。
シャ、と短く走る。
「突然現れた脅威に、混乱、恐慌し、
同族が殺されていくのを見ながら、
自分が殺される順番を遅らせようとあがく。
ゴブリンはその時、初めて命を感じる」
そのまま、歩き出す。
「今回はそっちを提供するだけのことよ」
……うん。
別に、それ、俺たちに共有しなくてもいいよ……?
カイラの横に、ミルが並ぶ。
ステッキを天に、ひらり。
「ゴブリンさんたちはミルに見とれちゃうので、
きっとそんな暇、ないですよっ✿」
張り合わなくていい。いい。
「さ、いこうか」
「はいっ!」
レックスは振り返らないまま、俺の声に応えた。
風化した木柵、崩れた井戸、ツタの這う家屋。
ゴブリンの気配のないまま、進んでいくと……
うっすらと、フゴフゴとした鼻息が聞こえ始めた。
「いるわね。やっぱり集まってる」
リナの抑えた声。
それに重なるように、レックスの、ごくり、という喉の音が聞こえた。
集会場のような広場を囲む板壁。
その影から、カイラ、リナ、レックスの順に頭を出す。
「ヒッ……!」
レックスが悲鳴を押し殺した。
その瞬間――
リナの杖が、壁の向こうをバッと指す。
と、同時に。
レックスが駆け込んだ。
「たくさん、いますよぉぉぉぉ。
ど、どど、どうしますかぁ??」
……これも勇み足って言うのかな?!
カイラはすでに消え、ミルは周りを見回している。
「範囲魔法で、数を減らすわ。
混乱した瞬間に、一斉にいくわよ」
そう言うものの、動きはすでに始まっていた。
俺は慌てて壁を避けて、広場を覗いた。
ゴブリンの集団。
その足元から、熱球が膨らみ――弾けた。
「ぼ、僕は、前に出て、引き付ける。んですよね。
よ、よし……」
呟きながら踏み込むレックス。
その目の前で、ゴブリンが爆散する。
「いくわよ。
ファイアブラスト!」
リナがそう言いながら、俺の前に出る。
とっくに口火は切られている。
俺も慌てて、曲を奏で始めた。
広場の中央。
レックスが刀を地面に突き刺す。
衝撃波が広がり、木柵をびりびりと震わせた。
「いくぞ、いくぞ、いくぞ、いくぞ……!」
生き残ったゴブリンが、一斉にレックスへと向かう。
一方で。
リナはメモをめくりながら、杖を構えた。
次の瞬間、雷が走る。
「えーと、レックスに当てないで、周りを減らすには……」
「クックック……どうしようかしら。
レックスが逃げ惑う姿を眺めるのも、捨てがたいわ」
カイラの声。
レックスに群がるゴブリンが、連なって焼かれ、
さらに駆け抜ける影が一匹ずつ刻んでいく。
その中心で。
レックスは避け、捌く。
こん棒や斧を、かすらせるに留めている。
「うわあああああああ!」
顔だけは、完全に怖がっている。
その体が、光に包まれた。
ミルがぱっと前に出る。
小さく一歩、くるりと回る。
スカートの裾がふわりと揺れ、つま先で軽く踏み直す。
「ちゃんと、見えてますっ……!」
胸の前で指先を揃え、ぎゅっと握る。
その前で、リナが位置をずらそうと、横に足を運んでいた。
「よし、これ、かな?!
……ボルトチェイン!!」
気付けば、隣にカイラが戻ってきていた。
スンとした顔で、ダガーをスチャ、と納める。
「どう?どう?!
人間を取り囲んでるつもりが、後ろから斬りつけられる気持ち!!」
……た、楽しんでるね。
もう、終わってそうだけど。
ミルが一拍、息を吸い込む。
「ここまでの全部、ぜんぶ……
ちゃんと繋がってるって、ミル、信じてます♡」
手をほどき、指先をなぞるように前へ伸ばす。
ゆっくりと弧を描く動き。
「来るな!来るな!来るなあああああ!!」
泣き叫ぶレックス。
でも、その姿勢はすでに、綺麗な残心で止まっている。
「だから、ここで止まるなんて――させませんっ!」
ミルが片足を引き、体をひねる。
手のひらを前へ突き出し、ぴたりと静止。
「――リカバー!☆彡」
その声が、静かな戦場に響いた。
……すごい。圧倒的じゃないか。
なんで噛み合ってるのかは、正直よくわからないけど……
彼らにとっては、ゴブリンなんて、全然格下なんだな。
俺……ほんとに、ここにいても良いのかな。
「よし、伏兵は無さそうね」
リナの声。
レックスが、ほっと息をつく。
刀を納める音が、キンッと広場を締めた。




