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第28話 責任の持ち場所

 レックスの追放騒動を目撃してから、数日後。


 俺は一人で市場を歩いていた。


「中華鍋はなんでも出来るけど、せっかくなら中華作りたいよなぁ」


 視界に入った露天。

 並べられるザルには、色とりどりのスパイスが盛られている。


「それっぽい調味料も無いし、自分で再現するしか無いのかなぁ」


 立ち止まって吟味していると、店の主人がニカッと笑った。


「なんだい兄ちゃん!

迷ってんなら、全部買って行きねぇ!」


「いやいや」

 顔を上げて苦笑いする。


 首をさすった時、通りの向こうに見えた人物に、少しだけ引っかかるものがあった。


「あの無造作茶髪、最近見たような……」


 店先のテーブルで、チュニックを着た若者がうなだれている。


 頭を垂れるそのシルエットに、甲冑姿が重なった。


「レックス……」


 未だ、引きずっているようだ。

 仲間を失った痛みか、責めを負った悔しさか。


 何か言える立場ではないけど……


「吐き出させてあげるくらいなら」


 スパイスを詰められた小袋を受け取ると、俺はそのまま彼のもとへ向かった。



「やぁ。ちょっといいかな」


「え…あ、はい」


「俺は吟遊詩人のユーヤ」


「…はじめまして。僕はレックス……と言います」


 侍、とは言わないんだな。


「結構、良い身体をしているね。もしかして、冒険者かな?」


 レックスは口を“い”の形にしたまま、止まってしまう。


 それから、肩を落とした。

「はい……侍です」


「やっぱり。俺は古いわけじゃないんだけど、見かけたことがないなぁと思ってね」


「そうですね。グランダ地方で活動していて、最近、ポートリースに来ました」


 それっきり、目を伏せてしまう。


「浮かない顔だね。


なにかあったのか?」


 しばらくして、レックスはしょぼしょぼと語りだした。


「侍の道を選んだのは自分ですが、


敵の前に立つと、どうしても怖くて……


仲間に迷惑をかけながらも、なんとかBランクにまでなったんですが……」


 おっと、レックスもBか。


「なんだ、先輩じゃないか。

俺はDランクになったばかりさ。


きっと、大変なんだろうな」



 その後、彼が語ったのは、ギルドホールで聞いた顛末だった。

 どうやらあの時、仲間に詰められたまま、自責に苛まれているようだ。


「そうか……当事者でもないのに、“わかる”なんて言えないけど、つらいだろうな」


 レックスは、そのまま頭を抱えてしまった。


 ……頑張れなんて、無責任に言えない。

 やめるのも手だろう。


 ただ、『侍の道を選んだのは自分』というのは、何か想いを感じる。


「自分で選んだ、と言っていたね。


なぜ、侍になろうと?」


 問いかけると、俯いていたレックスは、わずかに視線を前にやる。


「小さい頃に、村の近くに魔物が出たんです。


その時に、討伐してくれた冒険者に、侍の方がいました。

とても、かっこよくて……」


「憧れたんだな」


「はい。僕は小さな頃から臆病だったので、


あの人みたいに、勇ましい冒険者になりたいと思いました」


 今、彼の胸には、その侍の姿が浮かんでることだろう。


「その道中に、今回のこと、か」


 俺の言葉に、レックスは拳をキュッと握る。


 しかし、少しずつ、呼吸が荒くなる。


「僕……このままでいたくないです。


ここでやめてしまったら、僕はずっと臆病なままだっ」


 ……すごいな。


 俺だったら、逃げてしまうかもしれない。


「侍、続けるのか?」


「……はい。いえ!


……でも、やめるのは、もうちょっと考えてからにしようと思います」


 ……尊敬するよ。


 頭を下げて去っていくレックス。

 その首筋は、初めて見た時より、少しだけピンとしていた。

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