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第27話 責任の投げ場所

 依頼を終えて、ギルドの扉をくぐる。


 ――その瞬間。


 ホールの空気が、明らかに重い。

 ざわつきとも違う、張り詰めた何かが広がっていた。


「くそっ! くそっ!」


 テーブルを強く叩く音が響く。


 視線の先で、召喚士の男がそのままテーブル上のわずかな戦利品を払い落とした。

 床に散らばる音が、やけに大きく聞こえる。


 その傍らでは、精霊術士の女が顔を覆っていた。


「アデル……」

 すすり泣く声が、かすかに届く。


 その後ろから、踊り子の女が歩み出る。

 俯いていた男の襟元を、ぐっと掴んだ。


 侍の兜が、その手から落ちる。


「だいたい、あんたがぜんっぜん敵を引き付けないから、


召喚魔物だって、精霊だって、すぐにやられるのよ?!」


 戦術的な諍い、か。

 随分と、険悪なムードだ。


 俺は、そばにいた冒険者たちに小声で聞いてみる。


「ああ。なんか、あの侍のあんちゃん、相当ビビりみたいだな。

逃げ回ってばっか、だと」


「死んだのは槍騎士だってな?


敵が全部、集まっちまったんだな」


「なんで侍やってんだか」


 ……なるほど。

 確かに不幸なことだけど。


 前に立つのって、そんな簡単なことじゃないだろ。


 一人に押し付けるのは、なんか違う気がする。

 でも。


 侍は、何も言い返せずに、口を歪めて俯いていた。


 文句を言い続ける踊り子の肩に、召喚士がそっと触れる。


「もういい。


レックス、俺たちはお前に、勇気が身につくのを待ったが、もう限界だ。


……出てってくれ」


 その言葉に、レックスと呼ばれた侍が顔を上げる。


 口を開く。

 ――けど、何も言い出せない。


 結局、何も言えないまま。

 兜を拾い、出入り口の方へ歩き出した。


 俺は、見るでもなく見ながら、静かに息を吐く。


 ……第三者が、かけられる言葉も無いな。


 甲冑の、がしゃがしゃと揺れる音。

 それが、ホールから遠ざかっていった。



 ギルドカウンターから戻る。

 いつものテーブルは――


 空気が沈んでいた。

 さっきの一件が、そのまま残っている。


 特にカイラは、例のパーティを極薄の目で睨み続けている。


 ……あれ、視線だけで刺してないか?


 俺はジョッキを掴む。

 けど、そのまま口にはつけずに、みんなの顔を見た。


「なぁ。やっぱり、彼が悪いのかな」


 少しの間のあと、リナが口を開いた。


「基本的には、前衛が敵を引き付ける役目よ。


でも、召喚魔物も、精霊も、扱いが難しいって聞くわ。

迂闊に前に出せば、当然、敵視を受ける」


「ちなみに侍さんは、治癒することが少ないんですよっ☆


避けるのがお上手ですから♪」

 ミルが座りながらも、体を捻っている。


 なるほど。

 動き続けるのは、一概に悪いとも言えないのか……。


 その時。


 ズン、と音がした。

 ダガーがテーブルに刺さる音。


 顔を上げると、カイラは首をあちらに向けたまま、低く唸っていた。


「そもそも、槍騎士は補助的に前衛を務める役なのよ?


やりたいことやって、死んだんだから、いいじゃないの」


 ……と言っても。

 故人の声は彼方の空、か。


 俺は、ジョッキに口をつける。


 そのタイミングで。

 カイラが急に、背筋を伸ばした。


「感情のはけ口を寄って集って一人にぶっかけるなんて、集団レイプと同じね!」


 ちょいちょいちょい!


 俺は周りに小さく会釈する。

 そのまま、腰を浮かせたカイラを押さえて、席に着かせた。


「カイラも! 周りにぶっかけないでくれ……っ」


「あなたがぶっかけないからでしょ」

「そんなことしないよ!」


 ……ていうか。

 勢いで言葉の選び方、乗っかっちゃったよ。


 ツッコまれないでよかった。


 それにしても。

 みんなの話を聞くと、確かに、憤る気持ちは出てくる。


 レックス……。


 パーティ全員の問題として、話し合いたかったよな。


 ホールを出ていく、あの表情。

 思い返せば――


 あれは、悔しさの顔だった。

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