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第24話 異物ではなくなる場所

 〈前進の旗〉の会館は、気持ちの良い疲労感で雑然としていた。


 壁際には武器が立てかけられ、重装者の鎧が無造作に置かれている。


 重傷者が出なかった帰還――

 それが、全体に気楽な一息を生んでいた。


「リーダーが戻ってくるまで、待機ですね」


 脱いだ鎧を置いたガルドが、ふぅと息をつく。


 ラナが、隣のテーブルを指し示した。


「大規模戦の報酬受け取りは、けっこう時間がかかるんですよ」


 確かに、討伐証拠も大量に拾ったしな。


 俺たちは促されるまま、テーブルに着く。


 そこへ、場違いなくらい明るい声が届いた。


「わかりましたっ。ミルが必要になったら、いつでも言ってくださいねっ!」


 身体の大きな戦士が、苦笑いでそれを受け流している。

 けど、ミルは気に留めることもなく、すぐに別のテーブルへ。


 次は、連弩を磨いている女性のところだ。


「癒し手は必要ありませんか? ミルがしっかり支えますよっ」


 女性は慣れた様子で、ぶらぶらと手を振るだけ。


 その様子を見ていた俺に、リオが気付いて頭を掻いた。


「あー、またやってんなー。


めげない心はすげぇと思うけど」


「クランとして依頼を請けていない間は当然、パーティで動くんですけど……」

 ラナが言い淀む。


 その隙を埋めるように、ケイが弓を磨きながら眉を上げた。


「要は“いつメン”と組むわけだけど、そうじゃない人も……


あの子とは組みたがらないわね」


「それは……どうして?」

 リナが、少しだけ声を落として聞く。


 すると、ディルが指揮棒をぴっとこちらに向けた。


「見ただろう?

やたら長い口上に、無駄に長い動作。


パーティ戦で、あれは遅すぎる」


 ……なんで、俺を指すの。

 まぁ、別にいいけど。


「強力な治癒術は使える……ようだがね」

 指揮棒を収めながら、ディルは小さく咳払いをした。


 ……そうか。

 献身的で真面目で、すごく良い子に見えるけど、あの子も――


 リナと、わずかに苦い顔を見合わせる。


 その時。


 コツ、コツ、と鋭い足音が聞こえた。

 気付けば、それはミルの前で止まる。


 カイラ……?!


 ミルは小首を傾げるが、すぐに笑顔を向ける。


「お疲れ様ですっ☆ 何か、お役に立てることはありますか?」


「こんな、人の価値を値踏みする奴隷商人みたいな人たちに擦り寄るのは無駄よ。


それが気持ち良いのなら、話は別だけど」


 あぁあぁ、なんてことを……。

 ほら、周りが遺憾の意を示してるよ。


 けど、カイラは気にする様子もない。


「でも……

そうじゃないなら、あなたを役に立たせてくれる人はいるわよ。


……ほら、あれ」

 ぐい、とミルの頭をこちらへ向ける。


 ――目が合った。


 お互いに、ぱちくりと瞬きをする。


 ……いや、ちょっと待て。

 ふと我に返る。


 周りの空気が、どす黒くなっているよ!


 ……あとで、謝りに回ろう。



 クランメンバーに軽く頭を下げながら、その場を抜ける。

 視線が刺さるのは分かるが、立ち止まっている余裕もない。


 カイラとミルを連れて、会館の外へ出た。

 外気が、少しだけ頭を冷やしてくれる。


 カイラは、何事もなかったみたいにすんとしている。


 ……丸投げ、ね。はいはい。


 俺は頭を掻いた。

「なんか、カイラが急にごめんね」


「いえ! そんな」


 ミルは、こちらに向けた両手をぶんぶんと振る。


 そこに、リナがそっと一歩寄った。

「私は魔法使いのリナ。

彼が吟遊詩人のユーヤよ」


 それを受けて、ミルが呼吸を整える。


 一歩前に出て、くるりと回る。

 両手を胸の前で合わせて、ぱちん。


「はじめましてっ! 治癒術士のミルですっ♪」


 一拍置いて、すっと息を吸う。


「これから出会う全部の時間、大切にします。


みなさんのこと、ちゃんと見て、ちゃんと覚えて、ちゃんと支えますっ☆」


 片手を胸に当てる。


「楽しいときも、つらいときも、ミルは全部一緒に受け取ります♡」


 くるっと半回転、指先を揃えて掲げる。


「この出会い、きっと意味あります。


ちゃんと繋がっていきますから★」


 ぴたりと止まる。


「よろしくお願いしますっ✿」

 にぱっと笑顔を咲かせた。


 ……プロ意識がすごい。

 “何の”かは、よくわからないけど。


「ユーヤ」

 リナの柔らかい声に、顔を向ける。


 言葉には出さないけど、意図は分かる。


 ――別に、戦力が欲しいわけじゃない。

 この子の居場所になってあげられるのなら。


 たぶん、リナも同じ気持ちだ。

 視線を合わせて、静かに頷き合う。


 俺はミルに向き直った。


「ミル、良ければ……」

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