第23話 規模感の中の異物感
ぞろぞろと歩く冒険者の中に、俺たちも混ざっていた。
視界に入るのは、武装を整えたクランメンバーだ。
ギルドホールで冒険者は見慣れてるけど――さすがにまとまりがいい。
まぁ、酒、入ってないしな。
「これだけの人数を外で見ると、スライム祭りを思い出すなぁ」
「そっか。大規模戦はあれ以来なのね。
まぁ、クランに直接、依頼がかかることが多いから、無理ないかも」
リナが小首を傾げる。
その向こうから、リオの声が飛んできた。
「んで?俺ら、どこ向かってんの?」
「クス渓谷方面のブレードウルフが増えたようですよ」
ガルドが慣れた苦笑いで答える。
「ああ…定例のお掃除ね。今日は渓谷かぁ」
空気は軽い。
さすがにDランクだし、ヤバイのはいないのかもな。
そう思ったところで、ラナが近寄ってきた。
「ユーヤさん。
先程お伝えした通り、好きに動いて良いということなので」
「あんたたちみたいに半端な構成や、あぶれ者は、
部隊指揮に使いづらいからな」
ディルの言い方には棘も感じるけど……
腑に落ちるように補足してくれた、のかな。
振り返ったケイが、すぐに声を差し込む。
「合図来た。
あたしたち、先頭いくから。
またね、ユーヤ」
ああ、最初のうちは、前線が交代制とか言ってたっけ。
横で、カイラがぼそりと呟く。
「馬車馬のように働くのも、高みの見物をするのも、
あたしたちの自由なのね。
……どっちが面白いかしら」
カイラさん、平常運転。
ま……いざとなったら、ちゃんと戦ってくれるだろ。
「渓谷からあぶれてるのがブレードウルフなら……奥にいるのは……」
ぺら、とメモをめくる音。
リナは小さくぶつぶつと呟いている。
自分も、もうちょっと緊張しておくか。
演奏に備えて、指を解す。
骨の鳴る音が、指先から小さく鳴った。
――直後。
前方から、会敵の掛け声が響いた。
渓谷に入って、どれくらい経っただろうか。
足場は悪く、視界も開けたり閉じたりを繰り返す。
戦闘の切れ目が、ほとんどない。
リナはあわあわとしながらも、やはり魔法はしっかり飛んでいる。
詠唱は揺れても、照準は外していない。
カイラは時折、隣に戻ってきては、また姿を消す。
気づけば別の位置で、コボルトが倒れている。
「息つく暇もないな」
指先に、じわっとした重さ。
乳酸の溜まりを感じる。
「ほら、見て。
傷が増えるたびに、あたしの肌が露になっていってるわよ」
「いや、こんな状況で興奮……」
ポーションを一口飲んで、カイラはまた消える。
深い傷は無さそうだけど、確かに黒いボディスーツが破けてきている。
「回復する隙が……」
さっきまでウルフの群れを捌いていたはずなのに、
間を置かず、今度はコボルトの群れ。
部隊は態勢を整えられないまま、次に押し込まれている。
それでも、どこかから声が飛ぶ。
「よっしゃ、まだまだー!」
土の茶と血の赤が、じんわりと混ざっている。
でも、みんなの意気は下がってないみたいだ。
「うっわ。次はゴブリンだ」
「うひー!しんどー!」
目の前のコボルトは減ってきていたけど、まだ別のが――
そこで、視界に入る。
あのアイドル姿の女の子。
確か、ミルって言ってたっけ。
一歩踏み出し、くるりと半回転。
片手を胸に、もう片手を空へ伸ばす。
「みんなの想い……ちゃんと届いてますっ♡」
指先を揃えて掲げる。
「傷ついて、止まるなんて――ミルがさせないんだからっ☆」
足を揃えて、小さく跳ねる。
「まだ終わってませんっ。ここから、ちゃんと繋げますっ!」
両手を大きく広げ、ぴたりと静止。
「ミルのラブのほうが――ずっと大きいですっ♡」
一瞬の“決め”。
「――ワイドヒーリング☆彡」
光の波が、全体に広がる。
視界の端で、動きが変わる。
鈍っていた足が、踏み込めるようになっている。
あんな広範囲を、いっぺんに癒せるのか。
すごいな……
前口上が、やたら長かったけど。
その後、最後に現れたホブゴブリンを一気に叩き潰し、帰還することになった。
2軍とはいえ、〈前進の旗〉の活気には、なんだか圧倒されてしまったな。
とりあえず、自分達が何か問題になることがなくて、良かった。




