第21話 薬を作る女
冒険者ギルドの掲示板の前。
数人が依頼を物色している中に、リナと並んで立っている。
俺もまた、目を滑らせていた。
「Dランクは……護衛とか、小規模な掃討とかになってくるのか」
「ねぇユーヤ」
リナに袖を摘ままれる。
「……それは?」
リナの持つ依頼票を覗き込むと、『ポーション納品』の文字が見えた。
「『無希釈』……?どういうこと?」
問いかけると、久方ぶりに“チュートリアルうら若き乙女”が戻ってくる。
「店売りのポーションって、希釈されているのよ。
普段の生活で、それほどのケガをすることって少ないでしょ?」
「……確かに。じゃあ、無希釈は冒険者の需要ってこと?」
「とか、医療用とかね。
町の調合師が作れないわけじゃないんだけど、たまに依頼が出るのよ。
大きな注文でも入ってるのかもね」
ほーぅ。
まぁ、手が足りないとか、手元に材料が足りないとか、いくらでも事情はあるだろうな。
「で……その依頼がどうかしたの?」
「カイラって……
ポーション作れないのかな」
あー……一応、毒も薬も調合スキルなのか。
テーブルで待つカイラは相変わらず、負のオーラで周囲に空席を作っている。
まぁ、いたずら毒を卸してる分、ポーションで相殺してくれると、こっちとしても気休めになる。
「ちょっと聞いてみようか」
カイラの元へ戻る。
「作れるわよ」
あっさりと答えが返ってきた。
「調合は弟子入りしないと学べないのよ。
基本のほうは我慢して習ったわ。
でも……毒を作ってみたら、破門されたの。
許せない」
こっちを睨まれても、困る。
「無希釈ポーションの納品依頼があるんだけど、作ってもらえるか?
いやなら別に……」
「いいわよ。材料を採取しにいきましょう」
食い気味に返ってくる。
すんなり過ぎて、逆に引っかかる。
何か裏がありそうな気もするけど。
「じゃ、じゃあ、請けてくるよ」
カウンターに向かう。
背後のテーブルから、カイラが薄ら笑いしているような気配がした。
カイラに案内された場所で、手分けして花を集めると、町に戻ってきた。
「ねぇカイラ。私たちにも、手伝えることはある?」
「要らないわ。
一人で作るのが好きなの」
「そ、そう…」
リナの気遣いは、あっさりシャットアウトされた。
そう言われてしまうと、食い下がるわけにもいかない。
「一晩で出来るわ。
今日はこれで帰るわね」
最後の一口を飲み干すと、カイラはすっとギルドホールを出ていった。
やけに大人しい。
不安だ……。
「ユーヤは料理、カイラは調合。
……私も、何か勉強しようかなぁ」
カイラの素直な態度より、リナは自分にサブジョブが無いことのほうが気になるみたいだ。
「まぁ、無理に手を付けてもさ。
興味が出たら、でいいんじゃない?」
「うん……」
真面目なとこが出ちゃってるな。
翌日。
ギルドのテーブルに、小瓶が二十本並べられていた。
どれもどす黒く、禍々しい濁りが揺らめいて、明かりを吸い込んでいる。
「こ、これは……」
リナと二人で、口角が引きつる。
「試飲はしてあるわよ。
効果は問題ないわ。
それより、この色、良い出来でしょう?」
カイラは、愛でるように瓶を眺めている。
「傷が痛い。
早く治したい。
強いポーションが飲みたい。
なのに、あるのは、飲み物とは思えない見た目の液体。
躊躇う間にも痛みは襲い続ける。
ああ……
こういう時、人はどんな風に判断を下すのかしら。
ふふっ…」
なんてこった。
カイラのフェチが、大いに盛り込まれている。
「一応……持っていってみるか?」
「そ、そうね。最悪、依頼辞退かもだけど」
治療院に持っていくと、案の定、依頼主は困惑していた。
「い、いったい、なんですか?これは」
「依頼にあった通り、無希釈ポーションです……」
自信を持って言えないよ、こんなの。
「……ふざけないでください。
患者さんに何かあったら、どうするんです?!」
そこへ、カイラがふっと割り込む。
ダガーを、さっと抜いた。
「ヒッ」
慌てて制止しようとするが、カイラはそのままボディスーツの腕をまくる。
「効果は本物よ」
そう言って、自分の腕に刃を当てた。
ブシュッ!
鮮血が飛ぶ。
「カイラ?!」
リナが寄るより早く、カイラは小瓶を一本掴んだ。
コルクを抜いて、そのまま飲む。
「はぁ……っん……」
吐息を漏らし、紅潮するカイラ。
なんか、ちょっとエロい。
……でもまぁ実際、痛みに喘ぐ声って、≒な感じ、あるよな。
とは言え、これはわざとやってそうな気がする。
と、俺は眉をピクつかせていたわけだが……
カイラの傷はみるみる塞がっていった。
「良い…治りです。
副作用も……見られない」
依頼主の目が、診る側のそれに変わっている。
「あなたは医者?
それとも、お洒落な茶屋のマスターかしら?
ふふふっ……」
依頼主の頬を撫でるカイラ。
活き活きしちゃってまぁ……。
依頼主は己の何かを抑え込むように、息を吐いた。
「……無希釈ポーション。
納品、ありがとうございます」
治療院を後にして、通りを歩く。
「受け取って貰えてよかったぁ……」
リナは肩を落とし、
カイラは満足そうに含み笑いをこぼしている。
依頼は完了。
だけど、俺たちは――
いったい、何と戦ったんだろう。
なんだか、どっと疲れた……。




