第20話 毒を作る女
俺たちは商店が並ぶ通りを歩いていた。
リナが持っているのは、丸底の鍋。
「……変わったフライパンだね。
しかも、結構重いっ」
「中華鍋って言うんだ。
この“丸み”が大事なんだよ」
形を確かめるように、色々と向きを変えるリナ。
「銘が入ってるね。
『ケン』、か。
転移者っぽい響き」
「多分、そうだね。
ケンさん、良い仕事するなぁ」
受け取って、アイテムボックスにしまう。
脇道の奥に目を向けたリナが、ぽつりとつぶやく。
「ねぇ、あれって……」
その視線の先を追う。
「……カイラ?」
なにやら、露天商と話しているようだ。
「カイラも買い物かな。行ってみる?」
「ああ」
近付くにつれ、露天商の声が届いてくる。
「こないだの頭痛毒、また持ってきてくれ。
『飲ませた男は夜までつらそうだった』って、
客が喜んでたんでな」
「そう。ちゃんと長く効いたのね」
鞄をまさぐっていたカイラは、数本の小瓶を露天台に並べる。
「今日はこれ。
唐突に声や手が震える……はずよ」
「お、新作かい。
じゃあまた、一本銅貨一枚な」
数枚の銅貨を受け取り、懐に入れながら、こちらへ歩いてくる。
いたずら毒薬を商人に売ってる?
カイラらしくて、呆れるしかないな。
「カイラ」
リナの声に、カイラは顔を上げる。
「あら、あなたたち」
そして、見る見る歪んだ微笑に変わる。
「休日に二人でデート?
やっぱり、そういう関係なのね。
あたしを除け者にして、影で嘲笑っているんだわ。
なんて凶悪な猫たち……鼠みたいに弄んでるんでしょ」
「た、たまたまだってば……」
激しい被害妄想の割に、ニタァッとしながら言うのがちょっと怖いんだよなぁ。
「それよりカイラ、なにしてたの?」
リナの問いに、急にすん、とした顔に戻るカイラ。
「毒薬を卸してたのよ。
買い取りたいって言うから」
卸し……ってことは、販売されるのか。
……こういう世界でも、裏はドロドロしてるんだな。
「なんで、そんなことに」
「最初は客として行ってたわ。
でも、下剤しか無かったから、自分で作ることにしたの。
あんなはした金はどうでもいいけど、実効が聞けるから、買取の申し出を受けたのよ」
嫌がらせレベルっぽい内容だったのが救いだ。
リナと同時にため息をつく。
「寝る前に、盛られた相手を想像するの。
人でなしが苦しむ様を……
昂るわ」
カイラは腹の辺りを撫で、恍惚の表情で息を漏らしている。
苦い顔になるリナ。
「どうしよう……
カイラにとって、ストレス発散でもあるみたいだね」
「……一応、流通の一部に過ぎない、とも言えそうだし」
俺はリナにそう答えた、ものの……
この町にいられなくなる、とかは勘弁してね。
とは言え、一旦ほっとくか、という空気に、二人して肩を落とす。
ほどほどに……お願いします。




