第19話 暗殺者の実態姿勢
森の中の街道を、三人で歩いている。
なんとなく、リナとカイラに挟まれる形だ。
両手に花、と言えなくもないけど……。
「クックック……」
うっ……今度は笑ってる。
さっきは歯ぎしりが聴こえた。
何を考えてるんだろう。
急に漏れ出るから、その度に少し驚かされる。
「そういえば、この辺だったね。
ユーヤがいたの」
言われてみれば、この道はリナと歩いた風景を思い出す。
「ああ、ガーディアントレントの時か」
「……ここらへんのエリアボスね。
二人で討伐したのかしら」
いつの間にかカイラはすんとしていた。
「いや、情けないことに、俺は逃げ回るだけだったよ」
「それは仕方ないわよ。
転移してきたばかりだったんだから」
リナはそう笑ってくれる。
その節はお世話になりました。
「そうやって、強い女を釣るのがあなたのやり方なのね」
「え、ちょ、飛躍しすぎ」
すると、カイラはシュンと姿を消した。
「あ、あれ……?」
「まんまとあたしも引っかかったわけね」
見えないけど、どれかの木の上の方から聴こえてくる。
「ちょっとカイラ、私は別に引っかかってなんか……
え?違う……よね?」
「もちろんだ」
慌てて否定して、上に声を投げる。
「たまたま保護してもらっただけだよ」
「別にいいのよ。私にお似合いの鬼畜だわ」
頭上から返ってくる暗い声。
隣から衣擦れの音。
リナが杖を構えていた。
「もう、カイラったら」
迸った炎が倒木を包む。
……あ、ここ、目的地じゃないか。
焼け出されたクローネズミたちが、ばたばたと倒れていく。
「カイラ! 目的の場所に着いたぞ!」
倒木の向こうから飛び出してきたのは、でかい蜂――ビッグビー。
束の間、疾風のような影が通り過ぎる。
次々に墜落していく。
「虫唾の走る男ね。
いなくなったら困るくらいに依存させてあげるわ」
あーあー……ひどい言われよう。
だけど……。
不安……なのかな。
「カイラ? 他に潜んでる魔物はいない?」
リナもなんとなく、そう読んでるみたいだ。
苦笑いしながら、ドロップ品を拾っている。
「リナ、あなたもそうなさい。
彼の懇願する姿……フフフ」
いつの間にか、隣に戻ってきていた。
俺の指は、イントロを弾ききる前に役目を終える。
カイラの妄想劇、極端だなぁ。
ただ、二人に助けてもらってるのも事実だ。
感謝を忘れないようにしないと。
演奏と料理、頑張ろう。
ポートリースへの帰路は、あの時よりも少しだけ足が軽くなっていた。
ギルドのカウンター。
討伐証拠を奥にしまって、受付のお姉さんが戻ってくる。
「確認しました。少々お待ちくださいね」
帳簿を開き、ペンを持ったところで、手を止めた。
「ちなみに……お三方は今後も固定のパーティとして、活動されるご予定ですか?」
いざ“固定”って言われると、即答しづらいものだな。
しかし、リナが一歩出る。
「一応、そのつも…」
リナの声に、カイラが被せる。
「そうよ。
蝋燭みたいに己を燃やし尽くして芯だけになるまで、
彼に使い倒される予定よ」
カイラがぐっと顔を近づけてくるから、思わずのけ反る。
「いやいや!
……対等な関係です」
顔だけお姉さんに向けて、困り笑いを見せる。
なんだか、誤魔化してるみたいじゃないか。
「そうなんですね。それなら……
ごめんなさい、ちょっと、お待ち頂けますか?」
お姉さんはカイラの“歪な関係性匂わせ”は気にも留めず、奥へ下がってしまった。
扉の隙間から、こそこそと話し合う声が聴こえる。
リナと顔を合わせる。
「もしかして、あたしたちが三人だから、依頼を制限するつもりかしら」
そう言うカイラを見ると、爪を噛んでブツブツ言っていた。
「もしそんなことしたら、
あの女の部屋に忍び込んで、
寝台の羊毛を全部抜いて、
ひよこを敷き詰めてやるわ。
きっと、寝にくいでしょう。クックック……」
……なにその、やたら手間のかかる仕返し。
「お待たせしました。
ユーヤさん、Dランクに昇格です」
差し出されたのは、Dと刻まれた冒険者証。
「え?!
……こ、こないだEになったばかりですけど」
渡された銅板は、しっかりとした厚みがあった。
「Eランクの依頼を毎日、複数こなされてます。
疲労されてるようにも見えません。
そもそも、Bランク冒険者さんがお二人。
妥当と判断します」
五人揃ってなくても、結果が出てればいい、のか。
テーブルに移動して、食事を注文する。
「Dランクの依頼を請ける頃合いかしら」
リナがジョッキに酒を注いでくれる。
「難度は上がるほど、ポートリースにとって大事な依頼よ。
それに、初心者には無理をさせないけど、
『やれるのならやって欲しい』
がギルドの正直なところでしょうしね。
遠慮する必要ないわよ」
「なるほど」
ザスッ!
カイラのフォークが、前菜を突き刺す。
「お金が出る、ただの仕事よ。
町の連中はせいぜい、娼婦を買う感覚で問題を持ち込めばいいのよ」
じめっとした目で、ドライな考え方を言うギャップ……。
「まぁ、どういう想い、とかはよくわからないけど、
俺たちはやれることをやる、でいいんじゃないか?」
「うん、そうだね。無理せず、やれる範囲」
リナはパンを頬張る。
カイラは……また、いつの間にかすんとしていた。
そうだ。
気負う必要はない。
厳しいと思った時は、一歩下がればいいだけなんだから。




