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第15話 このままでいいかも

 習慣というのは、怖いものだ。


 どこかのパーティに入ると決めたわけでもない。

 一人で出来そうなお使いを請けると決めたわけでもない。


 それなのに、自然と足がギルドへ向いていた。


 扉を押す。

 人はあまり多くない。


 当然だ。

 みんな仕事中だろう。


 顔見知りの冒険者と軽く挨拶を交わす。

 相変わらず、好みの依頼をダラダラ待っている様子だ。


 揃いも揃って、赤っ鼻。

 まだ昼間なのに、だいぶ出来上がってるな。


「人のことは、言えないか」


 昨日の自分を思い出す。


 

 空いているテーブルに腰を下ろし、掲示板をぼんやり見つめる。


 仕事を終えたパーティが入ってきては、出ていく。


 鎧の音。

 報告の声。

 次の依頼の確認。


 自分以外が早送りで進んでいるようだ。


 ……いや。


 俺の心が、動いていないのか。


 

「あ、ユーヤ!良かっ……


んんっ、久しぶり!

まだ、ポートリースにいたのね!」


 懐かしい声に振り向く。


「リナ?!」


 そこにいたのは、あの“チュートリアルお姉さん”。

 ……いや、チュートリアルうら若き乙女のリナだ。


 装備は更新されている。

 杖も、ローブも、前より質が良さそうだ。


 彼女が進んできた時間を感じる。


「あれ?

一人なの?

パーティメンバーは?」


 ぐっ……!


 いきなり鳩尾に貫き手が刺し込まれたような感覚。

 息が一瞬詰まる。


 ……でも。


 リナはこの若さでBランク冒険者だ。

 聞いてみてもいいかもしれない。


「昨日、抜けた。


抜けてくれって言われて」


「え……どうして?!」


 リナは本気で驚いた様子で、俺の向かいに座る。


「吟遊詩人として、戦闘中のパーティ強化が出来てない、みたいなことを」

「そんなの……!」


 言いかけて、言葉を変える。


「ごめん。


私にはよくわからない……」


「……そっか」


 テーブルの上に置かれたリナの手が、きゅっと握られる。


「でも、関係ないよ!」

 勢いよく顔を上げる。


「私、ユーヤと組んでいた時は、すごく調子が良かったもの。


ユーヤの演奏は、ちゃんと意味があるはずよ。


だから……」


 続けようとして、言葉に詰まる。


「また……


一緒にやってみたいと思って、戻ってきたの」

 モジモジと上目遣い。


 ちょっと、ドキッとしてしまった。


「もしかして、上手くいかなかったの……?」


 今度は、リナのほうがしょぼくれる。


「やっぱり、色んな敵がいっぺんに出てくると、


なんだか焦っちゃって……」


 ため息。


「いくら強い魔法を使えようと、

戦術的な判断が苦手、


は魔法使いとして致命的……だってさ」


 そう聞くと、そうなんだろうな、とは思う。


 そこでも、合理的な切り捨て。


「リナは……さ。


S級の依頼を請ける、S級冒険者を目指してたりするの?」


 彼女はすぐには答えない。


 少し考えてから、ゆっくり口を開く。


「ランクにこだわってるわけじゃないけど、冒険者として、強くありたい。と思う」


 歯切れ悪く、口を尖らせる。

「あなたと組んだら……


そう……いられそうかなって……」


 確かなことは分からない。


 俺の演奏も、料理も。

 味方の強化は出来ていないのかもしれない。


 でも。


 こうやって“調子が良くなる”と言ってくれる人もいる。


「……嬉しいことじゃないか」


「え?」

 リナが首を傾げる。


 無下にするもんじゃない、よな。


「よし! 一緒にやろう!」


「やった!」


 ぱっと笑顔が広がる。


 リナの耳には、あの水晶のイヤリングが、まだ輝いていた。

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