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第14話 このままでいいのか

 ギルドの掲示板の前に立つ。


 Fランク冒険者の募集を探していた頃以来だ。

 あの時は、俺の眼がFの文字を検索していた。


 改めて見ると、Cランク以上の募集はジョブが指定されているものが多い。


 吟遊詩人。

 踊り子。

 呪術師。

 戦術士。

 ……やはりバッファー、だろうか。


 吟遊詩人は分かる。

 踊り子も、なんとなく想像がつく。

 呪術師も、弱体や強化があるのかもしれない。


 戦術士って、なんだろう。


 ぼんやりと考えてしまう。


 俺には、関係ないかもしれない。

 そう思って、掲示板を離れた。


 

 丸テーブルに突っ伏す。


 ヴァルクの言葉が、思い出される。


『彼らが奏で始めると、明確に力が強まるのを感じる。

高揚などではなく、はっきりと体感する。


だが……お前には、それがない』


 本当に、リュートを奏でている“だけ”だったのか。


 天井を仰ぐ。

「確かに、リオも気分がノる、としか言ってなかったよな」


 気分が上がる。

 やる気が出る。


 BGM以上ライブ以下。



 返上すべきだろうか。


 懐から、冒険者証を取り出す。

 指で挟んだまま、ぼーっと見つめる。


「でも、ステータス上では、もうEになってるのか」

 目の前にUIを開いた。


 転移者も、すぐに感覚値になるから、あまり開くことはない。

 でも、データ上の確認としては便利だ。


「一応、吟遊詩人、らしいな」


 文字だけは、そうなっている。


「料理人のサブジョブも、疑わしくなってきたな」


 本来は、一定時間のボーナスとかがあるのかもしれない。


 ぱた、と手を置く。

 視界の右下には、緑色が光っていた。


「そういえば……」


 久しぶりに、意識的に見る。

 太めのゴシック体。


 【自動戦闘《オート・バトル》】。


 他のUIとは少し質感が違って見えるボタン。


「結局、これってなんなんだろうな。


転移者、みんなにあるのかな」

 触ってみる。


 小さな電子音。

 ボタンがピンクに変わる。


「OFFになった……?」


 もう一度触ると、緑に戻る。


 適当に何回か切り替えてみる。

 ピンク。

 緑。

 ピンク。

 緑。


「……なにやってんだ、俺」


 リュートを取り出し、テーブルに置く。


「冒険者を続けるべきか、もしくは……」


 弦を一本、弾く。

 雑な指使いは倍音をビリつかせた。



 瞼の向こうが白んでいる。

 開けるのが、ひどく億劫だった。


 薄目のまま寝台から起き上がる。

 体が重い。

 頭も重い。


 よたよたと窓まで歩いて、片手で閉めた。


「……あたま、いてぇー……」

 陽射しが刺さる。


 水差しを傾けると、手元がぶれて、コップから少しこぼれた。


「あ゛ー……異世界最初の二日酔い……」


 喉が乾いている。

 そのまま飲み干す。


 着替えを手に取って、寝台に投げた。

 ……つもりが、自分もそのまま腰を落とした。


「ふぅ……ダラダラと、呑み続けちゃったな……」


 進路をどうするか。

 考えたようで、何も考えてなかった気もする。


 なのに、ただの晩酌が延びに延びて……



 ……はっ。


 また、ぼーっとしてしまった。


 重い腰を上げて、洗面桶の水を掬う。

 ばしゃ、と顔に当てる。


 もう一度。


 さらにもう一度。


 冷たい水で、なんとか目が開いた。


「あ゛ー……結局なんも決まってねぇー……」


 気持ち悪いのに、減ってる腹。


 なにか、入れるか……


 

 すでにかなり昇っている陽を避けるように、 馴染みの食堂へ向かう。


 扉を押すと、いつもの匂い。

「おばちゃん……麦粥とか、できる?」


 カウンターの奥から顔を出す。

「珍しいね。


あんたがそんなんなってるの、初めて見たよ」


 呆れ顔でカウンター席を片付けると、 座るよう促してくれた。


「じゃあ、ちょっと待ってな」


 腰を下ろす。

 背筋に芯が通らない。


 うなだれながらも、おばちゃんの後ろ姿をぼんやり見やる。


「料理人、か……」


 夜の酒場や広場で、吟遊詩人を見かけることもある。


 古いバラッド。

 舞曲。

 城なんかでも……雇ってもらえるのか。


 ……ムカムカしてる腹が、後ろを向かせてる可能性はある。


 今、決めないほうが良いよな。


 

「できたよ。これも食べな」


 目の前に置かれたのは、湯気の立つ麦粥。

 横には、色んな野菜の切れっ端。


 ポリ。


 酢漬けだ。

 酸味が、食欲を刺激した。


 麦粥を掬う。


 温かい。

 胃に落ちていく。


 少しずつ、体が戻っていく感じがする。

 今は、とりあえず。


 もう一口、粥をすくった。

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