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第13話 吟遊詩人の機能不全

 セインのパーティに加入してから、数日が経った。


 Cランクの依頼は、常に危険と隣り合わせだった。

 ゴブリンに限らず、魔物の質が違う。数も、圧も。


 それでも、俺の首元に牙が届くことはなかった。

 ヴァルクが前に立ち、 セインとタクミが削り、 エリネが崩れないように支える。


 動きは滑らかだった。

 俺は後ろで、リュートを奏でるだけだった。


 

 その日も、依頼の完了報告を終え、ギルドを出たところで、セインが足を止めた。


「ユーヤが入ってから、調子がいいですね」

 穏やかな口調だった。


 俺は少しだけ戸惑う。

「そうですか?」


「ええ。無駄な被弾が減っています」


 横でタクミが肩を竦める。

「まぁ、ユーヤってより、やはりバッファーは必要だったってことだな」


 ヴァルクは何も言わず、俺を見つめていた。

 視線は強いが、責める色はない。


 エリネが軽く頭を下げる。

「それでは、お疲れ様でした」


 それで終わりだった。

 このパーティは、仕事が終わると、さくっと解散する。


 誰かが飲みに誘うこともない。

 反省会はあるが、雑談はない。


 

 俺はひとり、食堂に立ち寄った。


 皿を前にしながら、ふと思い出す。


 ガルドたちと、毎日、ギルドの酒場で食べて帰っていたこと。

 他愛のない話をして、 笑って、 気づけば夜になっていた。


 一方、セインたちは違う。


 任務中も、任務外も、淡々としている。

 けれど、フィードバックの話し合いを思い出すと、 静かに熱がある。


 改善点を出し合い、 次にどう動くかを整理する。

 向上心の高さだと、思う。


 

 宿に戻り、寝間着に着替えながら、ぽつりと呟いた。


「なんだか、場違いだよなぁ」


 脱いだ服は、Cランク帯でやっていくために揃えてもらった、吟遊詩人の服装だ。


「馬子にも衣裳、か」


 ペラい作りの銅板を取り出す。

 Eと刻まれた冒険者証。


 机にふわっと投げると、カランと音がした。



 次の日。


 依頼の完了報告を終えたセインが、俺に向き直った。


「少し、お時間いいですか」

「はい」


 ギルド前の脇に移動する。


「昨日、ヴァルクから、ある指摘を受けまして。


今日の任務中、確認しました」


「ある指摘……」


 ヴァルクを見るが、彼は明後日の方向に目を細めている。


「知っての通り、ヴァルクは我々の中でもベテランです。


前に吟遊詩人と組んだこともあるそうです」


 ヴァルクが、少し言い出しにくそうに口を開く。


「彼らが奏で始めると、明確に力が強まるのを感じる。

高揚などではなく、はっきりと体感する。


だが……」


 一拍。


「お前には、それがない」


 言葉が出なかった。


「別にお前が邪魔って話じゃあねぇんだが」

 タクミが肩を竦める。


「バフのかけられない吟遊詩人を連れてても、な」


 声色は、いつもの突き放す感じではなかった。

 ただ、事実を置いただけ、という調子。


 セインが申し訳なさそうに言う。

「こちらから誘っておいて、申し訳ないのですが、


別の方を探したいと考えています」


 自分でも、手応えを感じていなかった。

 だからか、言葉はすんなり出た。


「そうですか……お世話になりました」


 ヴァルクは小さく頷くだけだった。



 去り際、エリネが一歩近づく。


「演奏自体は、素敵でした」

 それだけ言って、一礼していった。


 返さなくていいと言われた装備が、妙に重く感じた。

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