第12話 吟遊詩人の立ち位置
森の縁、獣道に入るところで、セインが軽く振り返る。
「今日はゴブリンキャンプの掃討です」
新米冒険者の俺を気遣って、歩きながら説明が始まった。
「ゴブリンは、いつの間にか寄り集まります。
どこから来るのかは、正確には分かっていません」
タクミが続ける。
「数が増えると、たまに強い個体が出る。
ホブゴブリンだ」
あー、ちょっと強いゴブリン。どこかで聴いたような響きだ。
「ホブが生まれると、動きが活発になる。
村の被害が増えたから、ホブが出たと予想されてる」
「場所は別のパーティが確認済みです」
挨拶の時に、俺がEランクになりたてであることは伝わっている。
エリネも自然と補足してくれた。
「今日は掃討だけ」
簡潔に。
ヴァルクは何も言わず、前を歩いている。
無駄な会話はない。
初心者パーティとは、空気の密度が違う気がした。
タクミが足を止める。
視線の先には、雑な木組みの柵や、物見台らしきものがあった。
「まず外から削る」
手のひらに魔力が集まり、石つぶてが形成される。
「ストーンシュート」
乾いた音とともに、見張りらしきゴブリンが倒れた。
騒ぎに気づいた数体がこちらに向かってくる。
ヴァルクはすでに一歩前にいた。
「出てきた分だけ処理します」
セインは剣を抜いた状態で、出る時を見計っている。
あっという間だった。
タクミの二発目で、近づく前に一体が倒れ、
もう一体はヴァルクの両手斧に叩き伏せられ、
次の一体にはセインの刃が駆け抜ける。
静かだ。
怒号も、混乱もない。
数回繰り返すと、外に出てくる気配がなくなった。
「中にいる」
タクミが短く言う。
少し進んだ先、木々の間に集まっている影が見えた。
「……大きいのがいる」
俺が思わず口にすると、
「ホブです」
セインが即答した。
「奇襲で入ります」
言葉はそれだけ。
次の瞬間、ヴァルクが踏み込んだ。
と、同時に、ゴブリンたちの足元から、何本もの石の槍が突き上げる。
「ロックスパイク!」
タクミの魔法が数を減らす。
その様子を見て、大きな個体――ホブゴブリンが唸り声を上げた。
周囲からゴブリンが散発し始める。
俺は後ろでリュートを構えた。
音を鳴らす。
それしかできない。
ヴァルクがホブの一撃を受け止めた。
重い音が響く。
だが、崩れない。
淡い光に包まれ、彼は押し返している。
エリネが俺の横で祈っていた。
その間に、セインとタクミが周囲を処理していく。
迷いがない。
ゴブリンの数が減っていく。
「増援なし」
タクミが一瞬だけ周囲を見渡す。
彼の杖はすでにホブへ向けられている。
セインも最後の一体を仕留めると、何も言わずにフォーカスを合わせた。
それぞれが役目をこなし、無駄なく攻撃が重なっている
ヴァルクは真っ向から渡り合い、
セインが斬りつけながら、ホブの背を抜けていく。
タクミの魔法が穿ち、とうとうホブゴブリンは膝をついた。
静まり返ったキャンプ跡に、風が通る。
「以上です」
エリネが簡単にメンバーの様子を確認する。
「状態、良さそうですね」
セインはいくつかかすり傷を受けたように見えたが、当たってなかったんだろうか。
「事故は無かったな」
タクミが言う。
セインがこちらを振り向いた。
「大丈夫でしたか」
「……はい」
俺は頷く。
後ろでリュートを奏でていただけだった。
それでも、戦闘は終わっている。
初心者パーティのときとは違う。
ホブゴブリンの大きな体や、ゴブリンの持つ古びた武器。
ガーディアントレントより格下っぽくはあるけど、リナの隣で逃げ回った、あの緊張感と恐怖を久しぶりに思い出す。
Cランク帯でやっていくことに、一抹の不安を覚えながらも、俺はリュートを背負い直し、黙って帰路についた。




