第11話 吟遊詩人の需要
三々五々、ギルド前で自然に解散し、帰ろうとしたところで、背後から声をかけられた。
「――すみません。ちょっと、いいですか」
振り返ると、見覚えのない男が立っていた。
軽装だが、動きやすそうな鎧。腰には片刃の剣。
「えっ……はい」
「今日、昇格してましたよね。Eランク」
言われて、自分の冒険者証を見直す。
「ああ、はい」
「おめでとうございます」
穏やかな口調だった。
「僕はセイン。剣闘士です」
差し出された手を、軽く握り返すと、セインは握った手を胸に当てる。
「お名前をお聞きしても?」
「あ、ユーヤ、と言います」
隣にはローブ姿の男もいて、セインが彼を指す。
「彼は魔法使い。
他に、重戦士、祈祷師と組んでいて、Cランクの依頼を受け始めたところです」
「おお、Cランク」
先輩然としてなくて、好感の持てる人だ。
「それで……いったい?」
「はい。実は……
有力なパーティには、だいたい補助や強化を担う方がいます。
敵の弱体化や、味方の底上げをする役目ですね」
俺を見て、続ける。
「そろそろ、うちにも欲しいと思っていまして」
つまり。
「一度、試してみませんか?」
勧誘、ということらしい。
その横で、もう一人の男が軽く手を挙げた。
「タクミ。転移者だ」
ああ、と少しだけ身構える。
「バッファーは不人気でね。人口が少ない」
淡々とした口調だった。
「Cランクの依頼を回していれば、ランクの上がりも早い」
と、言われても、急いで上げたいというわけでは。
「装備も、Cランク用に耐えられるレベルのものはこっちで揃える。
破格の条件だろ?」
でも。
「……今のパーティがあるので」
自然と口から出た。
「すぐに決めることは出来ません」
セインは頷く。
「当然です」
「一度、相談してみます」
俺がそう言うと、タクミは小さく肩をすくめた。
「返事は急ぎません。しばらくポートリースで活動する予定ですので」
それだけ言って、セインは軽く会釈した。
「またギルドで」
「……はい」
二人はそのまま歩いていった。
残された俺は、しばらくその場に立っていた。
次の日。
初めてのEランク依頼だったが、終わってみれば、いつもと変わらなかった。
特に息も上がらず、装備も壊れず、ラナの薬もほとんど減っていない。
帰り道、街道を歩きながら、リオが肩を回す。
「Eランクって言っても、こんなもんか」
「初回は軽めだったのかもしれません」
ガルドが落ち着いて答えた。
「でもさ」
ケイが横から言う。
「余裕だったよね」
「……そうですね」
ラナは周囲を見ながら短く返した。
その流れのまま、俺は口を開く。
「昨日、さ」
「ん?」
ケイが振り向く。
「ギルド前で、声かけられた」
「ナンパ?」
「違う」
リオが笑う。
「勧誘、かな」
「へぇ?」
全員の視線が集まる。
「Cランクの依頼を請け始めてるとかっていう、それなりに経験ありそうなパーティ」
「Cランク?」
ケイが少し目を丸くする。
「早くない?」
「Eに上がったばかりだぞ?」
リオも眉を上げる。
「なんでも、早いうちに補助ジョブを入れておきたいとかで」
「……吟遊詩人や踊り子の冒険者は少ないみたいですからね」
ラナが少し寂しそうに言った。
「ああ、うん。聞いた。
……でも、それはどのランク帯でも同じことだから」
ケイが即座に反応する。
「でも、Cランク回してるんでしょ?
移ったほうが、あんたの昇格も早いんじゃないの?」
「あー、そんなようなことは言ってた」
「ですが……ユーヤさんの装備では、C帯に耐えられないのでは?」
現実的な指摘をしたのはラナだ。
「それについては問題ないみたい。
装備も、向こうで揃えるって」
「ほう」
ガルドが小さく声を出す。
「それは、良い条件ですね」
「行けばー?」
ケイが肩をすくめる。
「今日、初Eランクだったけど、結局余裕だったし。
あたしたちは問題ないって」
しばらく無言が続いたあと、リオがぽつりと言った。
「必要とされる所に行くってのが、冒険者だろ」
少しだけ、遠くを見る。
「一段飛ばしみたいで……ちょっとズルいけどな」
「はいはい妬まない」
ケイはすんとしていた。
街門が見えてきた。
今日も、いつの間にか戻ってきていた。
せっかく組んだパーティで、調子も良くて、ここで抜けるのは気乗りしなかった。
でも、こんなに背中を押されてしまうとは。
留まろうとするのは野暮かもしれない。




