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第10話 格を新たに

 その日も、特別なことはなかった。

 朝、冒険者ギルドに寄って、いくつか依頼を受けて、気づいたら戻ってきていた。


 報告カウンターの前に並び、ガルドが代表して書類を差し出す。


「……確認しますね」


 受付の職員は手元に視線を落とし、何枚か書類をめくったあと、ほんの一瞬だけ、目を瞬かせた。


「あ、ええと……」


 その反応に、誰も気づかなかったわけじゃないが、誰も口を挟まなかった。


「みなさん、本日付で昇格になります」


「昇格?」

 リオが一番に反応した。


「Eランク、です」

 職員はそう言って、本日分の処理を進める。


「冒険者証はあとでお渡ししますね」



 いつものように、丸テーブルを囲み、料理が運ばれ、ジョッキが置かれた。


 リオが名前の刻まれた冒険者証を掲げる。

「いやー、来たなぁ」


 終始、鼻息が荒い。


「Eランク冒険者だぞ、俺たち」


「興奮することでもないでしょ」


 ケイは見た目も軽い、薄い銅板をペラペラさせている。


「依頼をこなす練習みたいなもんだったじゃない」


 しかし、ガルドは頭をかく。

「……自分は良かったです」


「えー、なんでよ」


「魔物と戦ったのは初めてでしたから。随分と、慣れることができました」


 何か腑に落ちたのか、ケイは満足そうにジョッキに口を付けた。


「……ま、それなら良かったか」



「にしてもよー、何が変わるんだ?」

 肉を頬張りながら、リオは匙を上げる。


「まぁ、なんとなく、相手する魔物は強くなりそうではある」


「どれくらい?」


「さぁ」

 俺は肩をすくめた。


 ケイは明後日の方を見ながら、ちぎったパンを放り込む。


「別に、明日、依頼受ければわかるでしょ。


どうせ、大したことないわよ」


「報酬も少し上がりますよね」

 ガルドが匙を置く。


「……仕送り、もう少し増やせたらいいなぁ、と思います」


「きっと、上がりますよ」

 ラナが短く微笑む。


「私はさ」

 ケイがジョッキを回しながら言った。


「そろそろ、同じような依頼ばっかで飽きてきた」


「さすがに、ランクが上がれば変わると思いますが……」


 ラナの視線が、ちらりと俺に向いた。


 う……気を引き締めるって約束してたんだっけ。


 俺は一度、ジョッキを置く。

「……そうだな」


 少しだけ、声を整えた。


 一瞬、テーブルが静かになる。


「これからは、冒険者じゃないと出来ない依頼も増えるかもしれないから……


少し気を付けてもいいかも、な」


 後ろで楽器を弾いてるだけの俺が何を偉そうに、と、自分で思うが。


「おー」

 テーブルを鳴らしたリオが身を乗り出す。


「確かにな!気合入れないとな!」


「へぇ~」

 ケイはなにやらニヤニヤしていた。


「それっぽいことも言うんだ」


「……ま、まぁ、一応年長者だしな」


「でも、ユーヤさんの言う通りかもしれません」

 ラナが穏やかに言った。


「今までが練習だったなら、ここからは本番」

 ガルドも、何も言わずに頷く。


 そんな空気はすぐに過ぎ去った。

 料理の話に戻り、次は何を食べるかで揉めて、笑い声が増えていく。


 ランクの上がった実感を得ないまま、夜は、ゆっくり更けていった。

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