9、湘南唯華の今
それから未来は自由に絵を描いた。
その絵は俺のスマホで撮った俺達の姿の写真の色鉛筆画だった。
俺はその絵を飾る事にした。
このままどうにかするには勿体無いと判断した。
額縁を買わないとな。
「お兄さん。今日は楽しかったです」
帰宅の時間になった。
とはいえ16時だがそれでも時間が遅い。
2人だけでは不安だな。
そう考えながら俺は「美弥、未来。一先ずは送るから」と言う。
すると2人は「ありがとうございます」と言った。
「お兄ちゃん。ありがとう」
「気にする事は無い」
それから俺は美弥と未来をそれぞれの家に送り届けてから空を見上げた。
何というか不思議だよな。
こんな冴えない野郎が人助け。
しかも懐かれるなんてな。
「じいや。約束は果たせたかな」
そんな事を呟きながら俺は空を見上げるのを止めてから薄暗い世界を帰宅した。
それから話は今に戻る。
☆
7年という歳月は。
俺にとっては馬鹿みたいに遅く感じた。
早くこの地獄から抜け出したい。
そう考えながら生きていた。
だけど簡単に地獄は覆せなかった。
「懐かしい記憶だ」
そんな事を呟きながら俺はランニングをしていたが足を止めた。
それから久々のランニングで足のダメージを感じながら歩いていると「おはようさん」と声がした。
顔を上げるとどうにも鈴木さんの家の近くだったらしい。
俺に声をかけてきていた。
「鈴木さん。おはようございます」
「おはよう。大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です」
鈴木さんは作物を孫の様に手入れをしていた。
俺は「本当に立派な作物ですね」と声をかける。
ニコニコしながら鈴木さんは「ありがとう」と言ってきた。
その姿を見てから作物を見ていると「雪穂くん。何だか顔が少し晴れたね」と言われた。
俺は「え?」と言う。
「気のせいか昨日よりかは顔が良くなった」
「そうですかね?」
「地元に帰る。それもまた大切な行動の1つだからね」
その言葉に俺は「!」となる。
それから「ですね」と返事をした。
鈴木さんは水やりをする。
そんな姿を見ながら「鈴木さん」と聞く。
鈴木さんはニコッとしながら顔を上げてきた。
「体調は大丈夫ですか?」
「ワシの体調かい?大丈夫だ。元気いっぱいじゃよ。全然平気だ」
「何かしらあったら言って下さいね」
「それは此方のセリフだよ。雪穂くん。君は色々と元気そうだけど溜め込む癖がありそうだ。今日は寝れたかな?」
「はい。一応は」
「ワシは昔は一応、医者だった。だからこそ不安になるんだ」
その言葉に俺は「ですね」と言う。
それから俺は鈴木さんに「出来る事は有りますか?」と聞いてみる。
すると鈴木さんは「ふむ。じゃあ水やりを手伝ってくれないか?」と言う。
それぐらいなら。
というか野菜を貰ったお礼だしな。
☆
それから俺は鈴木さんの手伝いをする。
肥料を撒いたり、水をあげたり、耕したり。
俺は汗水をかいた。
そして俺は作業をしていると鈴木さんが「雪穂くん。スイカ食べるかい?」と聞いてきた。
「あ、スイカですか。ありがとうございます」
「水分補給は大切だからね」
その言葉に「確かにです」と言う。
縁側にタオルで顔を拭いてから座り俺はスイカを馳走になった。
鈴木さんは喉に詰めない様にする為かスイカを小さく角切りにしていた。
歳を重ねたんだな。
そう考えながら俺はフォークでスイカを食べる鈴木さんを見る。
すると「雪穂くん」と言われた。
「はい」
「ワシはな。もう少し君は自由で良いと思う」
「え?」
「君は何か。悩みすぎな感じがするんじゃ」
その言葉に俺は「その。具体的にはどういう感じに?」と聞く。
すると鈴木さんは頷きながら優しげな瞳で俺を見てきた。
「ワシは君は自由に羽ばたいても良いと思っておる。君は悩み過ぎだ」
「確かにそうかもです。俺、自由に言えなくてうつ病になりました」
俺はそう言う。
すると鈴木さんは「そうなんじゃな」と言う。
全てを思い出す。
俺は自分の意見が何も言えず。
押し黙った。
「仕事を頑張った。自分を褒めてやりなさい」
「鈴木さん。ありがとうございます」
「雪穂くんの爺さん。林田倫太郎も言っていたじゃろ?」
そうだ。
うちの爺さん。
つまりじいやも言っていた。
なんでそれを気がつかなかったのか。
不思議だな。
自分自身が馬鹿なのかそれとも先が見えなかったのかは分からないが。
「うつ病になって自由に意見を言うという事がもう出来なくなっていました」
「成程のう」
「だけどこれからは自分自身を取り返して歩み出したいです」
その言葉に鈴木さんはニコッとしてから「そうじゃな」と言う。
それから笑みを浮かべてから空を見上げた。
鈴木さんは既に90をいっている。
まだまだ現役なのが羨ましい。
きっと若さの秘訣があるのだろうけど。
☆
鈴木さんにスイカをご馳走になり。
農作業をしてから良い汗をかけな、と思う。
それから俺はゆっくり帰宅していると目の前を歩いているパーカーの女子が目に入った。
女子は周りを見渡しながら歩いているが。
何となく印象が有るな。
そうしているとそのビニール袋を持っている女子が俺に気がついた。
「!」
それから顔を青ざめさせ猛ダッシュで逃げて行ってしまった。
ヤバいな。
ストーカーと間違えられたか?
そう考えているとスマホが鳴った。
それは美弥だった。
(お兄ちゃん。おはよう。モーニングコールです)
俺は苦笑い。
そして美弥は(実は湘南唯華に関しての事なんだけど)と書いてくる。
俺は(そういやそうだ。その、唯華はどうした?)と書く。
すると美弥からの文章が途切れた。
それから数秒してからまた文章が来た。
(唯華に会えてないんだ)
その言葉に俺は(は?)と返事を書く。
それから俺は眉を顰める。
そして文章を読んだ。
どういう意味だ。
(唯華ね。起立性の障害なんだ)
そんな言葉に俺は青ざめる。
まさか。
あんな活動が活発だった女の子が?
そう考えながら俺は(唯華、大丈夫なのか?)と聞いた。
すると美弥は(大丈夫だけど今は学校に来れてない)と書いてきた。
俺は唯華の顔を思い浮かべる。
小学生の頃の唯華の顔を。
(美弥)
(何?お兄ちゃん)
(唯華に会いたい)
その言葉に美弥は(……うん)と答えた。
それから俺達は今度、唯華の家に行く事にした。
そして俺はダッシュで畦道を走り田畑を抜けて家に急いで帰宅する。
そうして行動を開始した。




