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EP0 『郷愁』(きょうしゅう)
「理論上は火と水だけでも電気を作る仕組みは考えられるのにね。どうしてわざわざ、蜘蛛の体液を燃やして機械を動かそうと思ったんだろう?」
父は言った。
それは「どうして空は青いのか」「どうして鳥は飛べるのか」、そういう深く考えなくてもいい素朴な疑問と似たようなものだ。
「蜘蛛なんて気持ち悪いし、パパは想像しただけで鳥肌が立つ。そこまでしてエーテルにこだわるかね?」
新聞を広げたまま、父は身震いする。
学校で教わることと父の話はいつも噛み合わない。
生活に欠かせない燃料「エーテル」の正体は、遠くの森に棲むエクストラという蜘蛛の体液だ。確かに、エクストラの見た目が気持ち悪いという父の意見には同意する。でも、政府の人たちは危険を冒してエクストラを捕獲してくれるのだから感謝の気持ちは大切だ。
「そういうこと言うパパ、やだ」
エーテル式暖房機の前でくつろぎながら「エーテルなんていらない」と言う父は、世の中のすべてに文句をつけるような"ひねくれたおじさん"に見えて少し嫌だった。父は「ふむ」と顎に手をやったあと、新聞をたたんでこちらに目を向ける。
「そうだな。今のは冗談だ」
目元のシワを深くして、穏やかに笑う顔は今でも忘れられない。




