帰還とお嬢様
妖精郷滞在、最終日。
今日は、オベイロンさん達に『道』を開いてもらい村へ帰る予定だ。
俺とリサは支度を整え、ソフィアさんと一緒に、集会所一階に来ていた。
「ここで『道』を開くんですか?」
リサと一緒に荷物の確認をしていたソフィアさんに聞いてみた。
「基本的にどこでも展開は出来るけど、最近はここでやるのがほとんどね」
樹の中だというのに、半円球の形をした大きな部屋だったので気になっていたが、たくさんの人が集まる集会所とのことで納得していたんだけど、魔法を行使する為でもあったんだな。
「一昨日は気にしなかったんですが、この『道』って通称ですよね。正式名称はあるんですか?」
「『精霊回廊』よ。この郷を守護する精霊が『道』を作ってくれてるのよ」
前も聞いたが精霊とはかなりの力を持っているな。
そんな会話をしていると奥からオベイロンさんや他の大人のエルフがやって来た。
「待たせたね、ユウ殿、それにリサ殿。『道』を開く前に、一昨日にユウ殿が発掘した物を返しておこう」
ああ!!
返ってきました、俺の宝物が!!
俺が左腕とプレートを受け取ると、オベイロンさんが鑑定結果を教えてくれた。
「まず、プレートだが魔導具ではないが、その金属は特殊だ。精製法が特定出来なかったよ。先史文明の技術で加工された物だろうね」
この手のひらサイズのプレートは、予想通りの結果だった。
もっとも鑑定魔法自体は、術者の知識に左右されるから、その人が知らなかった可能性もあるんだけどね。
そしてプレートの文字は、この郷では先史文明に詳しい人がいないので、分からなかったそうだ。
「そしてこの左腕については……『正体不明』としか言いようがないという結論に達した」
「どういう事なんですか? 鑑定魔法を使っても『不明』なんですか?」
「正確には魔法が通らなかったんだよ。不思議な金属でね。そっちのプレートととも異なる種類の金属のようだね」
魔法が通らなかったって事は、魔法耐性があるということだ。
この『左腕』は戦闘でも使えそうだな。
「それと残念かもしれないが魔導具でも無さそうだ。三人程、試しに装着して、内部で魔力を通してみたが反応する気配がなかったよ。魔法を通さないのが原因かもしれないね」
でも、ホントに魔導具じゃないのかな?
先史文明の人が意味もなくこんな実践的な『左腕』なんて作らないと思うんだけどな。
それに、この手の平の水晶体まわりだったり、手首や肘部分の関節から覗ける中身なんて、如何にもって感じの魔導回路みたいなのが見えるから魔導具だと思うんだけどなあ。
まあ、壊れているって可能性もあるし、魔導具で無くても構わないですよ。
俺の記念すべき遺跡での発見一号と二号ってことには変わらないから大切にしよう。
プレートは文字の解析用に使えるし、左腕は俺の戦闘用装備にしよう。
それにリサに協力して貰って、魔法耐性のテストもやらないといけないし、帰ったらやる事がいっぱいで楽しみだ。
「とりあえず、先史文明の遺物であることは間違いなさそうなので安心しました」
「うむ、それは間違いないよ。……ところで、ユウ殿」
急にオベイロンさんが、俺の首に手を廻して引き寄せ、小声で話してきた。
「例の賭けの件だが、ソフィアには話していないね?」
「ええ、もちろんです。この件は、俺とオベイロンさんとの秘密ですからね」
「すまないね。ソフィアに伝わると自動でディアーナに伝わってしまうからね」
あの賭けの内容なんてソフィアさんには言えませんよ。
それにしてもホントにディアーナさんてどんな人なんだろうか。
妖精王であるオベイロンさんをこんな恐れさせる人なんて……
「あら、いつの間に内緒話をするほど仲良くなったのかしら、二人供?」
背後からの突然の声に俺とオベイロンさんはビクッとした。
しかも声をかけてきたのがソフィアさんだったから、余計にしどろもどろしてしまった。
「怪しいわね。私を見てのそのオーバーアクション……何か隠してるわね」
正解です!! ソフィアさん、勘が鋭いです!!
しかも、オベイロンさんが正座を始めてしまい、俺もそれにあわせて正座をする。
「はっはっはっ、ソフィアよ、何を言ってるんだい? 隠し事なんて何もないよ……」
「そ、そうですよ。ソフィアさんに隠し事なんてあるわけないじゃないですか。はっはっはっ……」
「……」
俺達の乾いた笑い声に、ソフィアさんはジト目で見下ろしてくる。
うっ、怒られていないはずなのに、なんだこの威圧感は?
「ソフィア、すまん。これはユウ殿との『男と男の約束』について話していたのだよ。すまないが聞かないで欲しい!!」
オベイロンさんの言葉は力強く聞こえるのだが、その正座しながら手を合わせお辞儀をしているせいで、とても情けない姿にみえます、オベイロンさん。
俺もオベイロンさんに倣って同じポーズを取る。
「……、はぁ、分かったわよ。そこまで言うなら、聞かないであげるわ。ほら、二人供立ってよ。周りに人が居るんだからやめてよね、恥ずかしいわ」
俺は周りを見ると距離を取ってクスクス笑っている人や温かい目で見ている人達がほとんどだ。
ううっ、確かに恥ずかしいです。
俺とオベイロンさんは気を取り直して――
「さて、遺物を渡したから、後は……ユウ殿とリサ殿には、これを受け取ってほしい」
オベイロンさんは、それぞれに手渡してくれたそのモノは黄色みに近い茶色の透明な石――琥珀というんだっけ?――だった。
「キラキラと綺麗な石ですわね」
リサがライトに向かって掲げ、光の反射を楽しんでいる。
「琥珀に見えるがそれは宝石ではなくてね。特別な樹木からの樹液を固めて精製した宝珠だよ」
確かに石というにしては、硬い弾力があって不思議だと思っていた。
「その宝珠があれば、外に出ているエルフ達が便宜を図ってくれるだろう。この郷へ来るために『道』を開いたり、何かの手助けをしてくれるはずだよ」
良かった、またこの郷に来るのにどうすれば良いのかを聞こうと思っていた所だった。
今後は、人数は少ないが王都や街などに住んでいるエルフの人にこの宝珠を見せれば、協力してくれて、妖精郷へ行く為の『道』を用意してくれるそうだ。
ついでにこの宝珠の精製方法を聞いてみたが、特別な樹木からしか作れないらしく、他ではこの精製方法は役に立たないらしく教えてもらえなかった。
「オベイロン様、ありがとうございます。大切にいたしますわ。ユウの宝珠、貸してくださらない? あとでペンダントにいたしますわ」
俺は、頷きながらリサに宝珠を渡す。
リサは「お揃いが作れますわ」って、小声で聞こえた気がするが気のせいだろう。
最後にソフィアさんから勉強に役立てて欲しいとのことで、お兄さんの燃え残った先史文明や錬金関連の研究資料等を受け取った。
ほとんどエルフ語で書かれてたから、エルフ語の習得も今後の予定に入れないとね。
そして、準備が整ったのかオベイロンさんが『道』を開通する為の詠唱を始めた。
部屋の中心あたりに大きな緑色の魔法陣が現れ始まる。
魔法陣が完全に生成させると、今度は大人三、四人を覆うような大きな緑色のモヤが発生して――
「さあ、ユウ殿、リサ殿、準備が整ったぞ」
これが『道』なのか?
前回は気絶してたから始めて見るが『道』とか『精霊回廊』って感じがしないな。
「ユウ、リサちゃん、元気でね。また会いましょう」
ソフィアさんは、俺とリサを軽く抱きしめながら言葉を添えた。
俺とリサはオベイロンさんへ挨拶をして魔法陣の前に立つ。
「ユウは、前回の『道』では気を失っていたから知らないと思いますけど、中ではものすごーく気持ち悪くなりますわ」
そう言うとリサは俺の手を握り、そしてシュタイナーを抱える。
そんなにマズいの?
シュタイナーも前回経験している為か、尻尾が垂れ下がっている。
俺達は魔法陣の中へと歩みを進める。
魔法陣の中は、緑のモヤ一色だった。
確かに歩いて分かったが、地面を感じるだけで、前後左右の方向感覚が分からない上に、時間の感覚も分からなくなった。
ものすごーく気持ちが悪いの意味を理解した頃――十分から十五分位だろうか?――に、周囲が眩しくなってきた。
気が付くと緑のモヤは消え去り、森の中を歩いていた。
目の前には滝があった。
「ここって村の近くの滝じゃないか!!」
普段、狩りの拠点として使っている小屋がこの滝の上にあるんだから見間違えるはずがない。
「ここが話に聞いていた滝ですのね。それじゃあ、あの花もありますの?」
「残念ながらこの前の大雨で流されたようだね。普段はあの滝壺付近の岩場で咲いてるんだよ」
「そう、残念ですわ……」
リサは悲しそうな表情で岩場を見つめている。
そういえば今回はリサが花を摘みに来たのが発端なんだっけ。
あれから一週間くらいだけど、いろいろありすぎて随分昔のような気がする。
「また、来ればいいさ。あの花は希少だけど年中咲いている花だからね」
そういうと「また来ますわ」と言って多少明るくなってくれた。
滝の景色を見ながら一休み。
ここで、俺達は『道』からずっと手を握っていたことに気が付いた。
すぐに手を離すと思っていたけど、リサは顔を真っ赤にしながら下を向いてしまう。
「こ、このままで良いですわ」
「リサがそのままで良いなら……」
沈黙って気まずいな。
話題替えの為に、この上にある滝小屋の話をした。
俺の狩りの拠点として使っている滝小屋に興味をもってくれて、妙な雰囲気は薄れていった。
その後、リサは行きたそうだったが声に出さず、俺の怪我を気にしてくれたのかまずは村に向かうことになった。
◇◇◇◇◇
日が暮れようとする頃、村に着くと父さんのゲンコツから始まった。
「父さん、痛いよ!!」
「バカヤロー!!心配させやがって。無事なら無事って連絡を寄越せってんだよ!!」
いや、連絡する方法なんてないでしょ!?
そして、俺とリサは父さんに力強く抱きしめられた。
その後ろには母さんと爺ちゃんが、両手を合わせて俺達の無事を喜んでくれている。
俺がみんなに会えてホントに帰ってきたんだなって嬉しくなった時、突然父さんの力が抜けた。
「リサ、無事だったか? どこかケガとかしてないか?」
「乙女の肌、傷物になってないわね。良かったわぁ」
父さんも母さんもリサの心配ばかりだな。
俺の心配はないのか聞いてみたが、二人の答えのかわりに爺ちゃんが肩に手を置いて——
「男の傷は勲章になるが、女の傷は心にも一生残ってしまうんだよ。『男はどんな時でも女性を守る』、どうやら家訓をしっかり守ったようだな」
とりあえず、俺の心配はしてなかったらしく、何が起きても何とかするだろとの事だった。
信頼されてると前向きに考えようと思う。
しかもそんな家訓あったか?
まあ、今回は全力で守れたと思うよ。
そして、周りを見ればフランツさんをはじめとした自警団、それに甲冑を来た人達……
甲冑に国旗のマークが付いてるから騎士団なのか?
聞けば俺とリサの捜索の為に、編成されてこの村に来たそうだ。
貴族のお嬢様の為に四、五十人の規模であろう騎士団が来るって大袈裟なような気がしたが、貴族でもいろいろ階級があるはずだから、リサはかなり上の貴族なんだろう。
騎士団の中から一人の騎士がこちらに歩いてきた。
リサの前で止まり、片膝をつく。
「エリザッ……オホン、リサお嬢様、ご無事で良かった。行方不明になってから一週間以上。捜索してもいっこうに手がかりも見つからず。一部ではあきらめの声も出ているなか、私は信じておりました。毎日の特訓は、無駄ではないと!!」
どんどん恍惚していくこの顔を見ていると、とても怖くなる。
しかもおいおいと涙まで流し出した……引いてしまいますよ。
「ユウは初めてだな。こいつは騎士団の団長カールだ。過保護すぎる気はするが……リサの安否を気にするあまり、団の指揮をするどころか、一人でテンパっていたほどだから気にしないでやってくれ」
父さんの話では、リサのお母さん——ナタリアさんだったかな——を異常なほど憧れていたらしく、その娘の教育係にかって出たほどらしい。
リサの生まれた時から世話をしていたから、家族以外で一番近い人のようだ。
リサも慣れてるのか、苦笑いをしながらカールさんの対応している。
カールさんのテンパっている間の団の指揮は、父さんが代理でやっていたらしい。
引退したといっても未だに父さんの影響力はあるということですね、さすが父さんだ。
みんなが落ち着いたあたりで、俺は今回の出来事の説明していった。
川に流されて隣国に行ったこと。
国境近くに砦があって捕まったこと。
砦を放火して脱出したこと。
妖精郷にたどり着いて、妖精王に村の近くまで送ってもらったこと。
一通り話し終わると、国境調査を行うということで騎士団の人達が大慌てで村を出て行った。
あの山に出没したゴブリンもついでに討伐してくれると村も安心だな。
そういえば、爺ちゃんはアリスちゃん、父さんは桔梗さんの話で反応していた。
あとで聞いてみようと思う。
でも、その前に早く家に帰って休みたいです。
ちなみに、カールさんは騎士団の一部を連れて王都に一時戻るらしく、リサを連れて行こうとしたが拒否され意気消沈しながら王都へ向かっていった。
「ユウの身体が回復するまでは、この村に残りますわ。最後まで看病させて頂きますわ」
そう言いながらリサは俺の家へ帰っていった。
あの天使の笑顔で看病されたら回復も早くなると思うけど、俺のベットでは寝ないように注意しなければ。
妖精郷と同じことが起こったら、父さん達の制裁は確定だろう。
そして、俺達の突然始まった国外旅行トラブル付きは、いろいろあったが無事に幕を閉じることが出来た。




