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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第2章 少年期 天使で悪魔なお嬢様 編
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妖精郷とお嬢様 4

 息がうまく出来ない。


 落下の衝撃はかなり大きかったようだ。


 ヒューヒューと薄い息をしながら、現状を確認する。


 あたりは暗く、上からの光がたよりだな。


 俺が落ちた岩場は、およそ二、三階くらいの高さか。


 そんな事を考えていると次第に呼吸も整ってきた。


 「はあ、はあ。良く無事だな、俺」


 身体の状態を確認するが、元々のケガ以外は問題ない。


 あの高さからの落下だから悪化してもおかしくないが大丈夫そうだな。


 「ユウーー!!」


 遠くでリサの声がする。


 上の光からリサとソフィアさん、シュタイナーを思わせる影が見える。


 「リサ!! みんな!! なんとか無事だよーー!!」

 「今、縄とか準備してくるから待ってて!!」


 ソフィアさんの声と同時に影が一つ消える。


 脱出はソフィアさん達に任せれば大丈夫そうだな。


 落ち着いた俺はあたりを確認する。


 暗闇に目も慣れてきたので、ボンヤリだが見えてきた。


 「ここは何なんだ?」


 ひんやりとした床は金属で出来ていた。


 正方形の部屋になっていて、壁も同じ金属のようだ。


 「金属で囲まれた部屋なんて珍しいな」


 金属製の部屋なんて聞いたことがない。


 というより、コストが高くて作る人がいないだろう。


 手探りで壁に触れながら確認していくとドアのような部分を発見した。


 「ドアノブがないな。これどうやって開けるんだ?」


 ドアをコンコン叩くとドアの向こう側に空間があるのを感じる。


 しかし、開ける方法が分からない。


 いくら確認してもドアがビクともしないので俺はあきらめ、部屋の中を調べることに切り替える。


 なにもない部屋と思っていたが部屋の片隅に——俺が落ちたあたりに何かが落ちているのが見えた。

 近づいて確認すると『手』があった。


 正確にいえば、金属で出来た肩までの左腕部分だった。


 俺は、その左腕を持ち上げ、最初に思ったことは——


 「なんだこれ、本当に金属か? 軽すぎるぞ」


 触った感じは金属なのは間違いないが、こんな特徴の金属は知らない。


 もしあるとすれば……レアメタルか先史文明の技術か?


 俺は期待に胸を膨らませ、『左腕』を調べる。


 中身を見ると空洞だった。


 おそらく鎧みたいに装着するものなのかな。


 大きさは大人用なのか、俺にはぶかぶかだった。


 あと、特徴的なのは手の甲に水晶みたいな半円球が埋め込まれ、手のひらにはそれと同じくらい丸いくぼみがあった。


 「これ、何のための装飾なのかな?」


 いろいろイジってみたがよく分からないな。


 まあ、あとで分解して調べればいいさ。


 その後、俺の落下付近のガレキをどけながら周りを漁ると一枚の金属プレートが見つかった。


 「なんか書いてあるな? この文字って……先史文明の文字じゃないか!!」


 何と書いてあるかは読めないが、文献で見た文字だった。


 「てことは、ここは先史文明の遺跡なのか? 夢にまでみた遺跡がこんな形で出会えるなんて、まさに奇跡!! しかも、この腕も先史文明の技術で作られたものだよね。腕も調べたいし、この部屋も調べたいし、ああ、何処から調べればいいか、分かんないよ。ああ!! でも、道具が無い!! 分解したいのに道具がない!! どうする? どうすればいいんだ!! 俺は!!」


 「そうね、とりあえず帰りましょ、ユウ」

 「そんなことできないよ。だって夢にまでみた遺跡が目の前にーー」

 「ユウ!!」


 俺は、リサの声にビクっとした。


 「ユウ、落ち着いて」

 「ああ。あれ?いつの間に来たの?」


 リサが近ずいてるのが分からないほどだったか。


 「あなたがそのプレートを掲げてミュージカルを始めたあたりからですわ」


 俺、踊っていたのか……


 「恥ずかしい!!」

 「それはわたくしのセリフですわよ。ユウがわたくしの気配に気づかないなんて初めてですわ」

 「それはそうだよ。このプレート、先史文明の遺物だからね」


 俺は、リサの目の前にプレートをバッと見せる。


 「ユウがものすごーく興奮してるのは、分かりましたわ。はぁ、心配で急いで来たっていうのに……」

 「それについてはありがとう。でも先史文明の遺跡なんだよ!! あの夢にまでみたーー」

 「あーもう!!ミュージカルはやめて、サッサと帰りますわよ。もう、夜になり始めてますわ」

 「わ、分かったよ……最後にその辺の小物を持ち帰らせて欲しいです。リサ様!!」


 武器を握ってないのに悪魔な笑顔のリサに半ば強引に連れられて、俺は遺跡を脱出させられた。


 『左腕』やプレート、あと適当に拾ったガラクタ?が今回の戦利品となり、落ちた甲斐は十分にあった。


 そして脱出を出迎えてくれたのはオベイロンさんだった。


 遺跡の報告をしたら、オベイロンさんは何か一瞬暗い顔をした。


 「ユウ殿、リサ殿。現時刻をもってここ一帯を禁忌の領域に指定させて頂く。ソフィアの家にもどりなさい。明日、改めてこの穴の中の話を聞かせて頂こう」

 「分かりました。オベイロンさんの言う通りします」


 昼に会った時の優しい雰囲気はなく、淡々と話を進めていくオベイロンさん。


 もともと明日はオベイロンさんに会う予定だったが、お茶をする内容が変わりそうだな。


 こうして俺とリサの明日の予定も決まり、ソフィアさん家に帰った。


 ちなみに俺の戦利品はオベイロンさんに回収された。


 念願の先史文明の遺物だったが、俺が渡すのを嫌がる一歩手前でリサに取り上げられてしまい、そのままオベイロンさんへ。


 はあ、じっくり調べたかった……。



 ◇◇◇◇◇



 翌朝は雨が降っていた。


 巨大な木々が大きな屋根のようになっているこの郷で、雨ってのも不思議だ。


 そして、ここは広場の集会所一階、昨日オベイロンさんと最初に会ったところだ。


 俺とリサ、そして俺の肩で眠っているシュタイナーがここにはいる。


 まだ、オベイロンさんは来ていない。


 受付の人が「まもなくお越しになります」と言って奥へ消えていったところだ。


 さて、オベイロンさんとはどんな会話になるのかな。


 今朝遺跡発見の興奮が落ち着いた俺は重大なことに気がついた。


 それは、遺跡に対する知識だった。


 おそらくトラップ関連は何とか出来るだろうが、あのプレートを見て思ったが文字が分からない。


 「ユウ、何か心配事でもありますの?遺物は渡しましたし、昨日は咎められる事はなかったのですから、大丈夫ですわよ」

 「いや、そのへんの心配じゃないよ。もっと先史文明の勉強が必要だなって考えていただけだよ」

 「わたくしはてっきり先史文明の遺跡に無断で入ったことを心配していると思ってましたわ」


 ああ、リサの考えてることが分かってきたぞ。


 俺達の国も含め世界的にそうだが、先史文明の遺跡はそれぞれの国が管理している。


 許可無く遺跡に入ると重罪になる。


 そのあたりでリサは敏感になっていたんだろう。


 「そこはたぶん大丈夫じゃないかな。エルフには先史文明を避けている傾向があるって本に書いてあったよ。だから自分達から進んで管理はしないと思うよ」


 そういえばエルフが何で避けているかって事は書いてなかったな……


 「それでは、咎められる事は無いってことですの?」

 「そう思うよ。……おっ、ちょうどオベイロンさんが来たようだよ」


 俺の視線の先を追うようにリサも階段を下りてくるオベイロンさんを確認したようだ。


 「おはようございます、オベイロンさん」

 「おはようございますですわ、オベイロン様」

 「ユウ殿、リサ殿、おはよう。朝からすまないね」


 いつも優しい雰囲気のオベイロンさんの様子から重い話にはならなそうだ。


 その後、俺達が遺跡に入った時のことを話した。


 一通り話を聞いたオベイロンさんは、数刻考えてから——


 「……まずはリサ殿、『剣』が抜けた時は特に力は入れてなかったんだね?」

 「感じで言えば剣を鞘から抜いたような感触でした。その後、二、三振りしたら砕けてしまいましたわ」

 「他に気が付いたことはないかな?」


 気が付いたことか……


 「そういえば、砂みたいにサラサラになったのが、リサの方に流れたような気がします」

 「そうか……。リサ殿、その時なにかを感じたことは無いかな」


 リサは首を横に振る。


 「あの『剣』は、わたしの上の世代でもよく解っていないんだが、聖剣もしくは魔剣の類いではないかと考えていたんだよ。もしかすると『剣』がリサ殿を主と認識したのではないかな?」

 「『剣』がですか? わたくしは特になにも感じませんわ」

 「だから『もしかすると』なんだよ。半日以上経過した今のリサ殿の状態からみると害はなさそうだ、心配は無いようだな」


 聖剣や魔剣の中には確かに意思みたいなのが宿っているのがあると聞いていたが、その『剣』がそうなのか。


 「次の質問を良いかな? ユウ殿、あの遺跡に入った際は何か気付いたことはないかな?」

 「さっき話したように、入ったと言ってもあの部屋以外は移動出来ませんでしたし、遺物は全て昨日お渡ししましたし……」

 「はっはっはっ、別に問い詰めている訳では無いよ。ただ、昔にね、この郷で発見された別の遺跡のせいで問題が起こったんだよ。だから、確認したかったんだよ」


 その問題って結構大事なんだろうか。


 「ユウ殿もリサ殿も無事で、しかも問題なければ構わんよ」


 リサの心配事に発展しないで良かった。


 「さてと……質問は以上だよ。それであの遺跡だが評議会と検討した結果、今後は昨日はしたように『禁忌の領域』に指定される」

 「立ち入り禁止ってことですね。はあ、初めての遺跡だったからもっと調べたかったなあ」


 オベイロンさんは首を横に振って——


 「その事だがユウ殿、君には特別に調査の許可がおりている」


 へっ?


 俺は予想外の答えに驚きを隠せない。


 「もちろん調査する時はこちらのスタッフをつけ、調査結果を私達に報告して貰う。遺物もこちらでチェックさせて貰うが所有権は君だ。この条件でどうだろう?」

 「そんなの俺にしかメリットがある条件ではないですか」

 「構わんよ。我々としてもあの遺跡に関連するものが危険なものでなければ、さして問題はないよ」


 そんな事でいいのかな?


 いや、そう言ってくれてるんだから良しとしよう。


 「ありがとうございます。しかし、今は知識不足ですから、俺が成長してからでいいですか」

 「良いとも。五年、十年後でも君の好きな時にまた来なさい」


 俺は心の中でガッツポーズする。


 「それと昨日渡して貰った遺物もチェックした結果、問題は無かったので君に返そう」

 「ありがとうございます!!」


 これで俺の先史文明の研究に大きな前進が起こるぞ!!


 「これで最低限、話したかったことはおしまいだ。あとは……今日は雨だし、私に付き合って貰ってかまわないかな」

 「「はい」」

 「では、手始めに朝食だな。それでは行こうか」


 オベイロンさんは階段へ向かって行った。


 「咎められなくて良かったですわ」


 リサがため息交じりでそう言ってくる。


 「そうだね。しかも、見つけた遺物を返してくれてラッキーだったよ」


 そして俺達も朝食を頂くため階段へ向かった。


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