妖精郷とお嬢様 3
午後、ガイド役であるソフィアさんの案内は広場からだった。
この広場はオベイロンさんがいた巨大な木を中心に、円を描いたようにお店が広がっている。
「武器屋を見かけませんが、エルフの人は使用しないんですか?」
「基本的には、狩りで使う弓やムチよ。ムチは移動にも使えるから便利よね。あとは防具だと皮で作ったのが多いわよ」
「ムチで移動するってあまり聞かないですね」
ムチを移動で使うってイメージが全くわかない。
サーカスとかで動物の調教に使うぐらいしか思いつかない。
「木と木の間だったり、今朝の私みたいに窓まで簡単に上がれるわよ」
「……確かに。俺たちの部屋、三階位の高さでしたね」
その高さを短時間で登れるのか。
高い木に囲また森ならではの使用方法って感じだな。
そのまま、お店を巡っていると広場のほとんどが食料品を扱う店で、装備関係の店が二、三店しかないのに気づいた。
「ソフィアさん、人間との交流ってあるんですか?」
「まったく無いわね。たまーに迷い込む人はいるけど」
「たまーにって……」
「前は十五年位かしら」
交流がないのか。
うちの村で考えれば、普通は商人が来て他の地域での品を扱ったりする。
そして魔物や盗賊が近くで出れば、武器や防具の品数が増える。
それが必要ないとなると……
「この妖精郷は、何かに守られてるんですか? 外から侵入されることがないようにとかで……」
「良く気が付いたわね。滅多に姿は現さないけど、この郷は精霊に守られてるの。そして、この郷の外側は『迷いの森』と言って、出るのは簡単、入れば延々と迷子になってしまう森になってるのよ」
「はあ、だから『道』が必要なんですね」
ソフィアさんは、「そのとおりよ」と頷く。
そして広場も一通りまわったので、次の場所へ移動する。
畑、牧場、水車などを順々に案内してくれた。
畑を耕すエルフ、牧場で牛の世話をするエルフ、水車で小麦粉を作るエルフ……
だんだん自分の村を見ている気分になった。
リサも微妙な顔になってる。
俺の肩に乗っているシュタイナーもクァーっと口を開けてあくびをしている。
「あはははっ……、ユウとリサが何を言いたいか分かってるわ」
「「……」」
「この郷って基本的に何もないのよねー」
ソフィアさんが身も蓋もないことを言ってくる。
俺は話題を変えるつもりで——
「ソフィアさん。今、気が付いたんですけど、この郷って若い方が少ない気がするんですけど何でですか?」
「そこも気が付いたの? ユウはホントに良く周りを見てるわね」
「わたくしは気が付きませんでしたわ」
リサは今までを思い出そうとしているのか頭を押さえながら唸っている。
「エルフは、私を入れたお父様位までの世代とかなり上の世代に別れるわ」
「そのかなり上の世代が、この郷の方達なんですね」
「当たりよ。理由はいろいろあるけど、若い世代は外に出る人がほとんどね」
娯楽もほとんどないから、村を飛び出し都会へ行くみたいなことかな。
「その間の世代はいないのですか?」
そう聞いたのはリサだった。
「いることはいるんだけど、この郷には帰ってこないでしょうね」
ソフィアさんが悲しそうな顔でうつむく。
……ん?
まずい、空気が重くなった。
この話題はタブーだったか。
俺は、慌てているリサに目配りをしてーー
「ソフィアさん、変なこと聞いてすみません。郷のことは分かりましたから、他の観光名所とかに行きましょう!!」
俺は、なかば強引にソフィアさんの手をとって歩き出した。
◇◇◇◇◇
道を歩いていると、だんだんとソフィアさんも落ち着いてきた。
中間の世代については気になるので、あとでオベイロンさんに聞いてみようと思う。
「あと観光になりそうなのは……特にないのよね。『剣』は面白くないし。う〜ん」
「ソフィアさん、その『剣』ってなんですか?」
「森のはずれの岩場しかないところに、一本の剣が刺さってるの。しかも、それが抜けないよ。何も面白くないでしょ?」
確かに見ても面白そうじゃないな。
抜けない点は不思議だが……
「ソフィアさん、ユウ。その抜けない剣。わたくし、見てみたいですわ」
「……リサがそう言うなら構わないよ、俺は」
剣士であるリサとしては、変わった剣を見てみたいんだろうな。
「じゃあ、それを本日最後のガイドにして家に帰りましょうか。ユウ、リサ、行きましょ」
それから十五分くらい歩いたら目的地に到着した。
ソフィアさんが言った通り、むき出しの岩が辺り一面ビッシリあった。
そして、中心あたりに大きな岩と共に錆び付いた剣が刺さっていた。
「かなり古そうですけど、どのくらい前の剣なんですか?」
「私も分からないわ。お父様やその上の人達も知らないらしいのよね」
それって軽く千年は経ってるんじゃないだろうか?
エルフの人達は、かなりの長生きだ。
「ちょっと興味を惹かれてきたよ。どんな金属か確かめたいね」
そう言って、俺は剣の柄を握って引っ張る。
「せいっ!!……いたたた」
アバラに響いてしまった。
「ユウ、大丈夫ですの? まだ、治っていないんだから無茶しちゃいけませんわ」
「そうだね、痛みが薄かったから忘れてたよ」
「ね、痛みはあったけど、この剣抜けないでしょ?」
ソフィアさんが剣の柄を撫でながら言う。
「確かにビクともしませんね。これだけ錆びていればグラグラしそうなんですけどね」
「そうなのよね。郷のみんなも剣が抜けないだけで、別に害があるわけじゃないから放置しっぱなしなのよ」
ここは草木も生えない岩場しかない。
なにもないから誰も来ない、とても寂しい場所だな。
「わたくしも触ってみたいですわ。……あら?」
俺とソフィアさんは話をしているなか、リサの『あら?』に反応してそちらに顔を向ける。
そこには剣を握るリサがいた。
しかも、錆びた剣先まで姿を表した剣を握っていた。
「……リサ、それって……」
「……抜けてしまいましたわ」
「「ええーー!!」」
俺とソフィアさんは驚きの声を上げる。
「リサ、どうやったの。郷の誰も抜くことが出来なかったのよ」
そうだ、俺も引っ張って分かったけど、それは力でどうこうできるものじゃない。
「わ、わたくし、何もしてませんわよ。剣を握って引いただけですわ」
「引いただけって……」
何か条件があるようにも見えないないだけど。
「なんだろうね。とりあえず、その剣はどんな感じなの?」
「そうですわね。見た目ほど重くないですわね。むしろ軽すぎると感じるくらいかしら……」
リサがそう言いながら一振り、二振りしたその時、剣からピキッピキッと音がして——
バキンと剣が砕けた。
「「「……」」」
俺を含めみんなが絶句している。
「砕けたね」
「砕けましたわ」
「砕けたわね」
しかも、剣は砂のようにサラサラとなり、消えていった。
「消えたね」
「消えましたわ」
「消えたわね」
「「「……」」」
リサもソフィアさんも何を言って良いのか分からないといった感じだ。
俺は剣が砕けた時の事を考えた。
あの時、砂状になった剣がリサの方に流れていった気がする。
あの剣って一体何なんだろうか。
オベイロンさんに確認することが増えたな。
「……リサ、それにソフィアさん。壊れたモノは仕方ないです。ここに居ても仕方ないんで帰りましょう」
ふたりが頷いたその時、足下から地響きのような音がした。
「地震? みんな気をつけて」
揺れを感じるなか、リサとソフィアさんが大きな岩にしがみつくのを確認する。
俺も岩に触れようと歩き始めると、突然足下が崩れた。
「まずい!!」
「ユウ、手を!!」
リサの差し出される手を掴もうとするが、あと少しのところでかする。
いつもの夢の最後と同じ落下感を感じた。
俺は為す術もなく、落ちていった。




