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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第2章 少年期 天使で悪魔なお嬢様 編
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妖精郷とお嬢様 1

 気がつくと大空の真っ只中を浮いていた。


 あー、いつもの夢か。


 それにしても、ずいぶんと久しぶりに感じる。


 ここ最近、貴族のお嬢様に突然襲われたり、川に流されて隣国に行ったり、魔物と戦ったり、自称『巨乳で美幼女な天才魔法使い』とチェスしたり、年齢不詳で綺麗なオネエさんに魔獣をけしかけられたりと、ここ一週間くらいでの出来事とは思えないな。


 村での平和な時がほんとなつかしい。


 そんなことを考えていると、いつもの通り、例の二人が現れる。


 「相変わらず、この夢を見るけど何なんだろうね」


 誰も返してくれないのは分かっている。


 どうせ、右の人と握手して、何も話せず、そまま落下だ。


 いつものパターン、この十年で少しずつ変化はあるが全体が変わる訳じゃない。


 そして俺は、自分と同じ顔をした右の人と握手をする。


 「我にもわからぬ。ただ、推測ではここは……」


 ん!?


 「我らが対話をする為にあるのだろう」


 んん!?


 「しゃ、しゃべってるよ!!」

 「話をしたらだめなのか? 既に外では話したではないか」

 「話したって……この声は『幻聴の人』なのか?」


 間違えない。


 助けてくれた恩人の声だ、間違えるはずがない。


 「ふむ、こうして対面して話すのは初めてだな。はじめましては……変だな」

 「ああ……はじめまして? いや、まずはお礼だね。あの時はありがとう」


 しかも、片言のしゃべり方じゃない。


 「いや、我の為に行ったことだ、気にするな」

 「ちなみに何で夢で昔から会えていたのかな?」

 「ふむ……正確には魂といっていいのか、そういうものと繋がっているようだな」


 魂……心、精神みたいなものと繋がっているって?


 「俺のもう一つの人格ってことかな?」

 「さあな、我もよく解らぬ。我の存在は、汝の中にしかないのは確かだが、汝の身体を動かせたことはない」


 う〜ん、この人は何なんだろうか。


 ……うん、考えても分からないや。


 とりあえず、今はもう一人の自分なんだとしか考えられないでおこう。


 「あっ、そういえば名前を聞いてなかったな。俺はユウ……って、これは知ってるか。名前を教えてくれるかな。まさか、同じユウって事じゃなければさ」

 「名前は……ない。……いや、『憂鬱』……で、かまわない」

 「『憂鬱』か。それって名前じゃなくない?」

 「かまわない。我に名前は存在しない」


 名前がないって辛くないか。


 「それより、今は夢の中だ。時間が無い。必要なことを話していこうか、ユウ」

 「必要なこと?」

 「まず、我は今後しばらく眠る。奥の手を使った為に、力が無くなったからだ」

 「あの力のことか。あれって何なの?」

 「あれは『増幅』という能力だ。対象の何かをブーストさせる事が出来る。ただ、使用するのに体力や精神力をかなり消耗する」


 『増幅』か……桔梗さんが言ってた魔力素質ゼロの人間が目覚める能力。


 「ケルベロスを倒した時、リサの魔法がかなり強くなったのはそのためか……」

 「本来は、我と汝で発動させるモノだが、今回は我が強引に使ったため、我の負担が大きすぎた。だから、しばし眠る必要がある」

 「そうなのか、無理をさせてごめん」

 「……気にするな。汝の死は、我の死でもある」

 「ありがとう。それじゃあ、俺はこれからどうした方がいいかな?」

 「自己鍛錬を怠るな。もう死ぬような目にあわないように強くなってくれ」

 「分かったよ。俺もそのことは考えていたからね」


 今回みたいに、急に魔獣と戦うことになるかもしれない。


 万全な体勢で戦えないこともあるはずだ。


 もっと肉体的にも知識的にもやらないといけないこと多いな。


 「ちなみに能力の方の鍛錬は?」

 「桔梗も言っていたが、そっちの鍛錬方法は無いな。いつか使いこなせる様になるとしかいえない」

 「そっか…… そっちは気長に待つよ」

 「……我の言いたいことは終わった。もうそろそろ時間だな。その前に何か話しておきたい事はあるか?」


 時間?


 いつもの落下か……


 「そうだな……」


 俺は、あごに指をあてながら考え、視線を『憂鬱』ではない、もう一人へ向ける。


 「ちなみにこのもう一人は誰? 話したことがないんだよね」

 「この者は、我にも解らぬよ。こちらの接触に応じない」


 そっか、情報なしか。


 この人もおれのもう一人の自分なんだろうか。


 その時、『憂鬱』が「時間だ」と話しかけてくる。


 「また会えるのを楽しみにしてるよ。じゃあね『憂鬱』」


 と、言った瞬間、俺の浮遊感は落下感へと変わる。


 毎回の事だが心臓に悪いな。


 俺は、見えない地面を目指し、ものすごいスピードで落ちていく……



◇◇◇◇◇



 「うわっ」と、自分の声とともに目が覚めた。


 そして、視界に入ったのは、見知らぬ天井ではなく、リサの顔が目の前にあった。


 ち、近いよ、リサ。


 「……良かったですわ、目覚めてくれて……」

 「……心配かけてごめん。無事だったんだね。良かったよ」

 「ええ、何とかわたくしも無事ですわ」


 と、何かデジャブを感じて辺りを見た。


 木製の椅子やテーブル、壁も木で出来ている質素な部屋だった。


 良かった……また、牢屋かと思ったよ。


 「急に、ニヘーっと顔が緩んだと思ったら、ものすごくうなされたのですもの驚きましたわ」

 「ああ、これは夢のせいだよ。たまに見るんだよ。だから心配しないでくれ」

 「夢? 傷の痛みで苦しんでいる訳ではないのですわね?」

 「傷は……そういえば背中が痛くないな」


 確か、身体を動かすことが出来ないほど、背中の火傷がひどかったと思ったんだけど……


 「ソフィアさんの傷薬おかげね。あとは桔梗さんの薬の効果もあるんでしょうけど」

 「桔梗さんの薬って?」

 「姿を消したところにポツンと薬瓶が置いてあったのよ。こっちに来てから中身を確認して頂いたら強力なポーションだったから使いましたわ」


 あの時は気が付かなかったけど、桔梗さんも気にしていたんだな。


 「なるほどね。だから傷の痛みがないんだ」

 「もっとも、どの傷も完治にはいたっていませんので安静にしてくださいな」


 俺は、頷きながら「所でここはどこ?」と確認する。


 「ここは、ソフィアさんのご自宅ですわ。その客間をお借りしてます」

 「俺が気を失ってからは、トラブルもなくソフィアさん達の力で脱出が出来たんだね」

 「最初は、森の道を開くって言ってましたから、移動しやすくする魔法かと思っていたんですが、あれは転移魔法ですわね。あっという間にこの郷に来ましたわ」


 おそらく、エルフ独特の魔術なんだろう。


 「あとは、この部屋をお借りしてユウの看病ですわ」

 「リサ、ありがとう」

 「当然ですわ。ユウには、今回何度も助けて頂いたんですもの。それに、何もなくてもお助けしますわ」


 リサは、いつもの天使の笑顔で答えてくれる。


 「さて、それじゃあソフィアさん達にもあいさつするかな」


 俺は起き上がろうとしたとき、右手が何かを握っているのに気が付いた。


 見るとリサががっちりと俺の手を握っていた。


 「ご、ごめんなさい。いつの間にか握ってましたわ」


 リサが、顔を赤くする。


 「い、いや。気にしてないよ」


 ああ、こっちも気恥ずかしくて顔を赤くなってるはずだ。


 「……」

 「ワン!!」


 突然の叫びに俺とリサはビクッとして手を離す。


 声の方へ顔を向けると俺の腹の上に子犬——あのケルベロスが乗っていた。


 「——シュタイナー。驚かせないでくださいまし」

 「シュタイナー?」

 「ユウが倒れるとき、名前をつけていいっておっしゃいましたよね。だから、この子はシュタイナーと名付けましたわ」

 「ワン」


 ……どうやら、シュタイナーも名前を気に入っているようだ。


 「そうか、シュタイナー、これからよろしくな」


 シュタイナーは尻尾を振りながら「ワン」と元気よく答えてくれた。


 「さて、私はソフィアさんに目覚めたことを報告してまいりますわ。今は深夜ですからゆっくり休んで明日あらためて挨拶しましょう」


 深夜だったのか。


 確かに部屋全体が暗かったから夜だろうと思っていたけど……


 「ん? ちょっと待って、俺ってどのくらい寝てたの?」

 「う〜ん、おおよそ二日ですわね。それじゃ、行ってきますわ」


 リサはそう言って部屋を出て行った。


 二日か。


 想像以上に重傷だったんだな。


 軽く身体を動かしてみると、確かに完全に治っておらず、いろんなところが痛い。


 特に脇腹の骨折は、治っていなかった。


 シュタイナーは「ク〜ン」と低い声を上げながら俺を見上げる。


 「ああ、もう終わった事だし、気にするなよ」


 俺は、そう言いながら頭を撫でてやる。


 「そろそろ、眠るか。あしたは忙しい様だからな」

 「ワン」


 その後、まだ薬が効いているのか、俺はあっさりと落ちるように眠りについた。

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