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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第2章 少年期 天使で悪魔なお嬢様 編
18/29

脱出とお嬢様 1

 次の日の夜、俺たちは砦脱出のために動きだす。


 「ソフィアさん、最終目標は森に到着するってことでいいですね?」

 「ええ、森に着けばなんとかなるわ」

 「具体的には?」

 「この二人が移動する為の道を作れます。それで遠くへ行きましょう」


 そう言ってソフィアさんはお供の二人を指差す。


 道を作るって、移動系の魔法なのかな。


 「分かりました。それではみなさん、冷静に迅速に慎重に脱出を始めましょう」


 みなさんと言っても俺、リサ、ソフィアさん、あとお供の二人。


 「その前に質問ですわ。ユウ、この手枷があっては、脱出してもみんな魔法が使えないですわ」


 確かに、昨日は簡単にしか話さなかったっけ。


 みんなには『派手にひっそりと逃げます。合図が来たら脱出開始です』と言って、俺は寝てしまった。


 「それなら問題無いよ。もうそろそろ届くよ」

 「それって……どういうことですの?」


 リサがもう一度確認しようとしたその時、洞窟の入口から人の気配がした。


 「おっ、届いたようだよ。そうだな……ソフィアさん、すみませんが仰向けに倒れてもらいますか」

 「ええ、こうですか?」


 ソフィアさんは、まっすぐに横になった。


 「土の上で申し訳ありません。そうですね……頭は向こうで、手と足はこんな感じで、体は——」

 「あんっ……ユウは以外と大胆なのね」

 「す、すみません。そんなつもりはないんですよ。いてっ!!」


 リサにお尻をつねられる。


 リサは「ふん」とそっぽを向く。


 お尻のダメージは置いといて、俺はパパッとソフィアさんのポーズを『突然倒れた』風にした。


 ソフィアさんのポーズも決まったその時、ちょうど俺たちの夕飯を持ってきた鍵の持ち主が来た。


 俺は急ぎ格子に駆け寄る。


 「大変なんだよ、監視さん。お姉ちゃんが、お姉ちゃんが急に倒れちゃったんだよ!! あれ見て!!」

 「な、なんだと!! 貴重なエルフなのに。クソッ!!」


 兵士は鍵の束を漁り、格子を開けてくる。


 狙い通りなのだが、この人は用心が足らないな。


 俺は、ソフィアさんの様子を確認する為にしゃがんだ兵士へ向けて「ごくろうさま!!」と言いながら、振り向いたその顎先を勢いよく蹴り上げる。


 兵士は一瞬のうめき声とともに地面に転がった。


 「さてと……鍵の束は……とっ、あった、あった」


 俺はソフィアさんの手枷に一本ずつ鍵をさして確認する。


 「よく思いつくわね、こんなこと」

 「まあ、思いつきですよ」


 その後、みんなの手枷を外し終わった。


 これで脱出するための第一条件はクリアだ。


 「あと、そこのご飯は食べないでね。食料は脱出してから調達しよう」

 「なんでですの? ご飯食べないと力がでないですわ」

 「理由はあとで話すよ。とにかく脱出しよう」


 次はみんなの装備の確保だ。


 みんなの装備は、昨日と同じ洞窟の途中の木箱に入っていた。


 「さて、みんなの準備が整ったら、あとは次の合図を待つだけだよ」

 「昨日もそう言ってましたけど、どんな合図なの? わかりやすい合図?」


 リサの質問に俺はニヤリと笑みを浮かべる。


 「まあ、すぐに分かるよ」


 昨日、準備した仕掛けが問題なければもう起こってもいいはずなんだけど……


 その時、洞窟の入口方向から轟音とともに地響きが伝わってきた。


 「ユ、ユウ、これはあなたの仕業ですの?」


 耳に手を当て、よろめきそうなリサが聞いてくる。


 「昨日、武器庫に侵入してね。置き時計があったからちょっと細工して、保管されてた火薬を爆発させたんだ」


 これが俺の『派手に脱出』計画だ。


 「時間をおいて爆発……。き、器用ですわね、ホント……」


 リサがあきれ顔になってるが、俺は気にしない。


 「さっ、洞窟を出ようか。今の爆発でビナーの注意はそっちにいってるはずだしね」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 洞窟を出ると武器庫の方で、大きな火柱が昇っていた。


 「おお、イメージしてたより燃えてるなあ」


 俺は驚きの声をあげる。


 まあ、洞窟内でもかなり大きな音だったから、大きな爆発になっただろうと思っていたが、予想以上だ。


 それに砦自体が山と山の間、つまり谷になっているために風が強い。


 その風の効果で火の勢いがさらに強くなったんだろうな。


 ソフィアさんは「死人とか出ないのかしら?」と、不安がってる。


 「その辺は問題ないかと思いますよ」

 「何でわかるの。確認出来ないじゃない」

 「爆発だけが昨日準備した仕掛けじゃないですからね」

 「まだあるの?『派手』が爆発なら……、ああ、『ひっそり』の方かしら?」


 ソフィアさん、その通りですよ。


 「現在、ここの兵士達は二手に大きくわかれます。一つは、あの火事の消火に当たってる兵士達。おそらく体力自慢な人達かな」

 「それは消火作業ですもの、そういう人達ですわよね」


 俺は、「そうだね」とうなずく。


 「もう一つは、武器庫と正反対の宿舎にいる兵士達。たいていは体調不良をうったえてると思うよ」

 「まさか体調不良にしたのは、ユウがやったの?」

 「昨日牢屋に戻る時にちょっと食料庫に細工をね」


 ソフィアさんは、俺が『細工』と言った時に反応し——


 「それって毒薬をまいたってことかしら? 食べるものを。自然の恵みを!!」


 ソフィアさんはムッとした顔つきで俺をにらむ。


 「ど、毒薬ではないですよ。薬草を悪く調合して、それをまきました。飲むと軽い体調不良になるようにしたんです」


 同じ材料を使っても、調合の仕方を間違えれば毒になる。


 食べ合わせみたいなものだろうか。


 今回は軽めの間違えた調合をしてみた。


 おそらくソフィアさんが怒ったのは、自然の恵みである食材をダメにする事をしたからなんだろう。


 「ソフィアさん、ごめんなさい。食材をダメにするようなことをしてしまって……」


 俺がそういうとソフィアさんは「わかれば良いのよ。驚かせてごめんね」と言って、頭をなでてくれた。


 よかった、許してくれたようだ。


 エルフにとってやはり自然に関わるものは重要なんだな。


 普段の温和な表情のソフィアさんからは考えられない、あの鋭い目つきが怖かった。


 そうするとリサが両手をあわせ——


 「さ、さすが薬師ですわね。でも、それだけでは兵士達の詳細が分からないですわ」

 「あ、ああ、それは今回の調合だとね、体格のいい人には聞きにくいんだよ」

 「なるほどですわ。だから体力自慢の人達が残るのね」


 場の雰囲気をリサが変えてくれた。


 ありがとう、リサ。


 俺はリサにかるい会釈で無言の感謝の意思をしめした。


 ……さてと、あとはささっと砦をでようか。


 俺達は砦の正門へ向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 砦の正門までたどりつくと、衛兵が二人立っていた。


 俺は物陰から片方の衛兵に向けて小瓶を投げつける。


 「うわっ、何だ!! この水は、うっ……」


 衛兵は、そのまま意識を失う。


 もう片方の衛兵が「おい、どうした?」と、倒れた衛兵に近づいていく。


 俺はすかさず衛兵に背後から駆け寄り、首に手を回す。


 「な、なんだ貴様!! は、離せ!! は、は、な、…… せ……」

 「ごめんね。しばらく眠っていてくれ」


 衛兵の意識が落ちた事を確認しつつ横たえる。


 「みんな、もう大丈夫だよ」


 俺は物陰に向けて声をかける。


 「牢屋の時も思ったけど、ユウは本当に子供なの? 動きが手慣れすぎだわ」

 「ソフィアさんもそう思いますわよね。わたくしも、とても同い年とは思えません」

 「そうよね。将来が楽しみのような、怖いような……」


 ソフィアさんとリサ、二人してやれやれといった感じで歩いてくる。


 その後ろから来るソフィアさんのお供二人も唖然としている。


 そんなに驚かなくてもいいのにな。


 「それにしても牢屋からここに来るまで誰とも会わなかったわね」


 ソフィアさんの疑問に、リサはハッと俺に顔を向ける。


 「まさか、それもユウがやったの?」


 俺は頷きながら空の小瓶を取り出す。


 「これが『ひっそり脱出』計画の最後の手だよ」

 「やっぱりユウがやってたのですわね」

 「瓶の中身は、『獣寄せ』の香水なんだよ。これを昨日、こっち側とは正反対のところにありったけまいたからね」


 この『獣寄せ』香水は、本来は狩りをする時に振りまいて使っている。


 「といことは今ごろ……」

 「そうだね、獣が集まって来ているから、屈強な兵士達はそっちの対策におわれている頃だよ」

 「今度は調香師のスキルですわね」


 まあ、俺の自作香水の一つだからスキルといえばスキルかな。


 「そんなトコだね。ちなみに量から考えると効果は2、3日位だね」

 「だからここまで誰とも会わなかったわけね。ひっそりと言うか入口から出るあたり、『堂々と脱出』の方がしっくりきますわね」

 「じゃあ、行こうか。あとは森を目指すだけだからね」


 俺はみんなが入口を出て先に進むように伝える。


 その後、入口の柱——両方に鞄から取り出した小瓶を叩きつける。


 残ったリサが割れた小瓶を見つめている。


 「ユウ、今のは確か……森でゴブリンから逃げる時にも使ってた瓶ですわよね」

 「これは嗅いだら幻覚を見る香水だよ。まだ、試作品だから効果は弱いけどね。時間稼ぎにはなるよ」

 「なるほどですわ。だからゴブリンの時もあんなに使っていたのね」


 あとは森を目指すだけだな。


 俺とリサは後ろを注意しながら、先に進んだみんなの元へ向かった。


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