あの子とお嬢様 2
俺は聞き慣れた音から、魔導銃の撃鉄を起こしたのだと、すぐに分かった。
俺以外でも今どき魔導銃を使うヤツがいるのか……
「くひっ。やーと会えたのに、弱いな『憂鬱』の宿主は、あん?」
子供の男の声だった。
しかも嫌な笑い声している。
何時からいた?
気配を感じなかったぞ。
「『憂鬱』の宿主?」
「なんだあ? その様子だとヤツと繋がってねーのか? くひっ」
「繋がるって……なんのことだよ」
背中越しにため息が聞こえる。
「くひっ、くっくっくっ。俺と同じ十年でこれか……やっと会えたんだぞ、クソが!!」
俺は、首をひねり後ろを確認する。
アリスちゃんと同じようなウエーブの銀髪で、整った顔。そして前髪で左目が隠れている。
予想通りというか歪んだ笑みを浮かべている。
「何言ってんだよ。訳が分かんないよ」
「……もういい。簡単に背後がとれる、よわーいヤツはいらねーよ。くひっ。死ねよ!!」
気配が殺気に変わり伝わってきた。
「やめろ!! ヴァイス」
「くっ。う、うるせーよ。どうせいつかは俺が殺すんだ。それが今でもいいだろ?」
「やめろ、と言ったんだ。わたしの命令が聞けないのか」
アリスちゃんからプレッシャーが放たれてくる。
「聞けないならお仕置きだな、『プレス』」とアリスちゃんは指をパチンと鳴らす。
確か『プレス』って周囲を膨張させ対象を圧迫させる空間系魔法だ。
しかも詠唱破棄をしていることから爺ちゃんクラス以上なのだろう。
そんな事を考えていると、ヴァイスの周囲の空間が歪み始める。
「ふ、ふざけるな、アリス。久々にオモテに出られたのに……クソッ。ぐあああっ」
やがてヴァイスは気を失ったのか無言になったが圧迫は続く。
「済まないな少年、調教が足りなかった。まったく、少年の生殺与奪はわたしにあるというのにな」
「い、いえ。俺は大丈夫ですよ」
アリスちゃん、怖いです。
「ちなみにそいつがもう一人の魔力制御が出来ないだよ」
「このヴァイスがですか?」
アリスちゃんは「ああ」と頷く。
「一般的な索敵系統の魔法はな、生物が体内で生成した魔力を感知する仕組みなんだよ」
「そう聞いてます」
「わたしのは、生体エネルギーも併せて感知するように改造してるんだよ」
そうか、だから——
「生体エネルギーがあって魔力が少年無いとすぐ分かったよ」
「うーん」
後ろからうなり声が聞こえてきた。
「ここは……体も痛いし。はっ!!またヴァイスが出てきてたのか……先生、ありがとうございます」
「何がトリガーで変わるか分からないな、お前は。まったくだ」
落胆しているヴァイス? は、あたりをキョロキョロし俺と目が合った。
「君は……はじめましてだね。僕はペイジ。君は誰?」
「俺はユウ。ヴァイスじゃないの?さっき殺されそうになったんだけど」
「違う、違うよ。あいつはもう一人の僕と言えばいいのかな」
ヴァイス改めペイジは、殺気を放つどころか優しげな雰囲気が出ている。
「ペイジは二重人格者であり、少年と同じ魔力制御が出来ないのさ」
俺と同じ体質の人がいたってだけで嬉しい。
「でも、それだとヴァイスは何で俺を知っているような感じだったのですか?」
「そいつはわたしも謎だよ。てっきりヴァイスは後天的に生まれた人格だと思っていたからな」
「後天的?」
「細かい事は省くが、ペイジの家は著名な魔術師を何人も輩出してる貴族なんだ。魔力制御出来ないペイジにとってあそこは酷い所さ」
魔法優先の貴族の家か、その中で資質ゼロなら……あまり想像したくないな。
「そんななかでヴァイスが表に出てきたんだよ。感じたと思うが、ずいぶん攻撃的な性格で問題が絶えなかったようだ」
「もともと居ない子として扱われてたけど、ふと気が付くと周りが壊れる事が多くなったんだよ。物も人もね」
「それがヴァイスの仕業なんだな」
「うん。僕はヴァイスの時の記憶が無いから、後からヴァイスがどう暴れたって叩かれたり――」
「ああ、大丈夫だよ。なんとなく想像がつくから」
俺が止めるとペイジは、「分かった」とうなずく。
「その貴族に昔世話になった事があったわたしがペイジを一時的に預かったのさ。鍛える名目でな」
「先生のおかげで、僕は人としての生活が送れるようになったんだよ。感謝をしてもしたりないよ」
その後、俺は自分の事をアリスちゃん達に話した。
隣のゲブラーの国境近くの村に住んでる事。
父さんや爺ちゃん、家族の事。
ここに来てしまった理由を簡単に説明した。
そして――
「俺はこの魔導銃を改造して使ってるんだよ。ペイジの魔導銃も同じ系統のデザインだよね。そっちはやっぱり魔導弾を使ってるの?」
「僕のは先生からもらってるけど、数が少ないからよほどの時にしか使わないよ」
「ああ、魔導弾ってのは造るのが面倒なのさ」
なにぃ? アリスちゃん、魔導弾の造り方をしっているのか!!
「ア、アリスちゃん。良ければ造り方を教えてください」
「……少年。わたしに教えを請うには、それ相応の対価が必要だが……無さそうだな」
アリスちゃんは顎に手を当てる。
「そうだ。チェスをしよう。フォローサイトの血縁だ。多少は手ほどきをうけてるだろう?」
「はい。チェスなら得意ですよ」
「チェスの賭けだ。わたしは魔導弾の製法。少年は……命と言いたいが、まあ良い、借りプラス一つにしようか」
借りプラス一つ?
そうか既に森で助けられたから借りがあるんだな。
「その前に質問を一ついいですか。爺ちゃんともチェスを?」
「ああ。あいつとは互角だったな」
「そうですか……。分かりました。その条件で良いですよ」
俺は内心でガッツポーズをとりそうな勢いを隠しながら、アリスちゃんへ向き直る。
「決まりだ。ふふっ、遊んでやるぞ。それでは始めようか」
アリスちゃんはパチンと指を鳴らすと、アリスちゃんの対面に椅子が移動し、テーブル、そしてチェス盤が現れた。
アリスちゃんの実力はどの位か楽しみだ。
俺は中央のポーンを掴む。
◇◇◇◇◇
局面も終盤に差し掛かったころ。
俺とアリスちゃんの攻防をペイジは真剣な眼差しで観戦している。
アリスちゃんは苦い顔をしながら——
「……少年、謀ったな。フォローサイトより強いだろ」
「だましてませんよ。聞かれませんでしたし、言わなかっただけです」
「ふ、ふん。そうだな、少年の実力を見誤ったわたしが悪い」
アリスちゃんは盤面をにらむ。
状況は俺がかなり優勢だ。
ちなみに、序盤にアリスちゃんはかなり手を抜いていてくれた事も大きい。
「勝負は投げ出したくない。最後までやるぞ、少年」
アリスちゃんは、駒に手をかける。
「ところで少年、これからどうするんだ?」
これから?
チェスが終わったあとの事だろうか。
「正直、脱出も考えているんでけど、もし僕達がこのまま捕まったままだと、どうなりますか?」
「まずは、近くの街に連行されるな。お前らは貴族でもないから、奴隷扱いになるか、刑務所行きかどっちかだな」
リサは貴族だろうけど、リサの家にも迷惑はかけられないな。
「それならやはり、脱出を選択しようかと思います」
俺はそこで疑問が一つ浮かんだ。
「というか、アリスちゃんはビナーの人ですよね? こんな会話してても良いんですか?」
「言ってなかったな。わたしは旅の途中でビナーに雇われてただけさ。傭兵みたいなものだな。だから給金分は働くが、それ以上はしないさ。契約内容もそうなってる」
「俺の脱出については、今の仕事内容に無いって事ですか」
アリスちゃんは「そうだな」とうなずく。
「では、話を戻して……この砦からどう脱出するんだ、少年」
「そうですね……」
やはり安全に迅速に確実に脱出する計画を考えなくては。
俺はチェスの駒を移動しながら——
「この砦の警備状況で考えれば、俺やリサだけなら単純に脱出は可能ですね。ただ……」
「ん? 気がかりでもあるのかな」
「一緒に捕まっているエルフの一行も助けたいんですよ」
アリスちゃんは、ビクッと反応し駒を動かす手を停める。
「そ、そうか。エルフをか。少年はずいぶんと心が広いのだな。普通は自分の事で精一杯だろう」
「まだあいさつしてから半日も経ってませんけど、貴重な薬を分けてくれたり、とてもいい人でお世話になったから、一緒に助けたいんですよ」
「まあ、ビナーで捕まったエルフは、奴隷になった上でまともな最後は迎えられないからな。一緒に逃げるといい」
奴隷制度があるビナーでは、奴隷になると人間として扱われないって聞いたことがある。
エルフならどうなるか想像したくないな。
しかし、さっきアリスちゃんは『エルフ』の単語で反応したけど、なにかあるのかな。
「それで一緒に脱出するとして、もうプランはあるのか」
俺が確認する前に話しを変えられてしまった。
「え、ええ。そうですね、この部屋に来るまでにざっくりと調査した感じですと、二つの計画が出来ますね」
「二つか。どんなものだ?」
「派手に逃げるか、ひっそりと逃げるかの二つですね。内容は……」
俺はアリスちゃんにそれぞれの計画を簡単に説明した。
説明を終えた後、アリスちゃんは——
「なら『派手に逃げる』の一手だな。いや、いっそ二つを混ぜるのも手だな」
アリスちゃんは、チェスの時もそうだったが慎重に指すより奇策や大胆に攻める指し方していた。
たぶんだが、俺も二つを混ぜる手が一番良いような気がする。
「そうですね。混ぜる方向で脱出しますよ」
「そうだな、頑張れよ、少年。わたしは手助けはしないがな、はっはっはっ」
数刻後、「チェックメイト」のかけ声で、俺の勝利で終わった。
「ふう、わたしの負けだな。この美乳で小悪魔な天才策士アリスちゃんに勝つとはな、はっはっはっ」
アリスちゃん、自称が変わってます。
「先生は気分で自称がころころ変わるんだよ」
ペイジが耳元で小声で説明してくれた。
「さて、さっそく魔導弾の製造方法を教えようか、ユウ」
「ありがとうございます、アリスちゃん」
「工程は単純なんだけどな。魔力を『変換』して『圧縮』したら弾に『固定』するんだよ。ただ、ユウの場合はそれが難しいだろうな」
その後、アリスちゃんはさらに詳しく教えてくれたが、今の俺では実現が確かに難しい。
『変換』は、火や水等の系統魔法を出すことで、魔力に属性を持たせる時の行程だそうだ。
要は『変換』自体はしなくてもいいらしい。
『圧縮』は、魔力もしくは魔法を凝縮する工程。
『固定』は、空の魔導弾に対して押し込める工程。
「なるほど、聞いてみると通常の弾を造る工程に近いんですね」
「まあな、でもな、わたしの場合でも『圧縮』に三日くらいかかる」
そんなにかかるのか。
「だから魔導銃自体が現代では廃れたんだろうな」
「そのようですね。でも、製造方法が分かって今回は勉強になりました。ありがとうございます」
そこで俺は魔導銃について考える。
魔導銃はそもそも先史文明時代の武器だ。
先史文明ではどう弾を製造していたんだろうか。
アリスちゃんみたいな魔法使いが造っていたのか。
いや、おそらく弾を造る魔導具があったはずだ。
魔導弾を造る過程は分かったから、あとは資料を探すなりして錬金術で実現することが出来るのではないか?
まあ、今は砦を脱出してから話だな。
「アリスちゃんのおかげで魔導弾について希望だが出てきました」
「そいつはよかった。これから頑張れよ、ユウ」
俺は「はい」と返事をして、アリスちゃんに軽く頭をさげる。
「……それでは、そろそろ牢屋に戻ろうと思います。あと、明日の夜にでも脱出するのでお元気で」
「そうだな。ソフィアを頼んだぞ、ユウ。そしていつかまたチェスの再戦をしよう」
あれ? その言い方だとソフィアさんを前から知ってるような言い方だな。
俺は確認したかったが、さっきも『エルフ』の単語で話しを変えられたから聞くのはやめよう。
「そうですね。あと、ペイジも、またいつか会おうな」
「うん、ユウも元気でね。あと、これを……少ないけど」
ペイジは、俺に魔導弾三発をくれた。
「いいのか?」
「かまわないよ。無属性だから使いやすいよ。もしもの時に使ってね」
「ありがとな、ペイジ」
俺は部屋から出てドアを閉じる。
「ユウ、……お前なら……原初の……オリジナル・セブン……到れるかもな」
ドアが閉まる直前、アリスちゃんの声が聞こえた気がしたが、ドアが完全に閉まるとドアごと透けて消えてしまった。
最後にアリスちゃんは何を言ってたのかな。
ま、消えてしまったので確認のしようが無い。
俺は気持ちを切り替え、脱出の為の仕掛けをしながら牢屋に戻った。
みんなに明日の夜の脱出と計画を説明して今日は眠りについた。




