牢屋とお嬢様
目が覚めると、そこは見知らぬ天井だった。
というか岩の天井だ。
そして、ベットは岩だから硬かったが、枕はモニュモニュ柔らかい。
俺がその快適な枕に触れると――
「きゃっ……ユウ、目が覚めたのね?」
同時に、視界いっぱいにリサの顔が入ってきた。
あれ? てことは俺、リサに膝枕してもらっているのか?
俺は焦り、とっさに手で顔をおおい身構える。
……少し待っても何も起きなかった。
う~ん、今までのリサならビンタが来てもいいんだけれど、今回はない?
指の隙間からリサの顔をのぞくと、目に涙をためていた。
「……良かったですわ、目覚めてくれて……」
「心配かけてごめん。無事だったんだね。良かったよ」
「……ええ、何とかわたくしも無事ですわ」
リサは、いつもの天使の笑顔だったが、目が赤く充血している。
心配をかけてしまったな。
「まだ、頭がくらくらするけど、大丈夫だよ、リサ」
確か、ビナーの兵士に囲まれて、剣を振り下ろされそうになった時に、気を失ったんだっけ?
違うな、あの時はテントの中から女の人の声がして、剣が止まったんだ。
「あの後どうなった?」
「あの後? あの子に助けられた事? まあ、助けられたと言うよりは、殺されず捕まっただけですわ」
あの子?
リサの言い方から察するに子供のようだけど、あの時にいたかな?
「そっか、そのまま捕まったか……でもまあ命があることを良しとしよう。ちなみに時間的には?」
俺はリサの膝枕に恥ずかしさもあり、起き上がりながら
「およそ……一日位ですわね」
「一日程度の距離に街があったんだ?ぜんぜん、予想してなかったな」
「違いますわ。ここはわたくし達がいた森の近くにある砦ですわ。あの場からは半日も歩かないくらいの距離ですわ」
「砦……」
国境付近に砦が造られてるのに、気が付かないうちの国は大丈夫かな?
不安を感じたが今は自分たちの事を考えよう。
俺は、周囲の確認を始める為に起き上がった。
この部屋、どうやら洞窟を利用した牢屋のようだ。
広さは家のリビングぐらいの大きさで、出口方向だろうか、木を交差して作られた格子が見えた。
格子が雑に作られていて、大人は難しいが俺やリサなら抜け出せそうなスペースがあった。
格子のそばしか松明がないので、部屋の奥は薄暗く見にくいが数人の気配を感じる。
やっぱり、捕まった人達かな、あとであいさつしよう。
俺は、リサの元に戻りベットに腰をおろす。
とりあえず、体力を回復しよう。
あれ? そういえば、体が痛くないぞ?
矢が刺さったはずだから、一日程度で治るはずがない。
「おお、傷跡も無いよ」
服にはしっかりと穴が開いていたが、身体に傷跡がなかった。
「あの子が何かの魔法で傷を塞いでくださり、さらにソフィアさんの薬で解毒したのですわ」
「ソフィアさん?」
俺が疑問に感じると、リサは「ソフィアさーん」と部屋の奥に顔を向けた。
部屋の奥にいた数人のうち、一人がこちらに近づいてきた。
姿を確認した俺は驚いた。
女の人だっただけでは驚かなかったが、その人の耳が尖ったような形をしていた。
「エルフ?」
女の人は十七、八才くらい位だろうか。いや、確か『長寿』って書いてあったから、見た目どおりの年齢ではないだろう。
薄い金色で、まっすぐな長い髪をしている。そして緑の目でとても綺麗な顔だ。肌は俺達より若干白いくらいかな。
「初めまして、ユウ。私はソフィアよ。無事、回復してよかったわ」
「こちらこそ初めまして、ソフィアさん。あと助けてもらって、ありがとうございます」
それにしても綺麗な人だな。
今回は残念な体験ばかりだったから、初めてのエルフとの出会いはうれしいな。
俺が見惚れていると、お尻に激痛が走った。
「いたっ!!」
「あら、どうしたの?」
「い、いえ、何でもないです」
俺は、お尻をさすりながら、元凶に顔を向けると、「ふんっ」とリサはソッポを向いてしまった。
何でつねられたのかは気になるが、聞くと怒られそうなので気にしないでおこう。
「それにしても装備が取られてるのに、よく薬がありましたね」
俺はふと思った疑問をソフィアさんに聞いてみた。
「あれは作った薬ではなくて、私の故郷で採れる葉よ。それを絞って、出てきた液を飲ませたのよ」
「葉っぱ? そんなに効き目がいい植物は聞いたことないなあ」
薬師をしている俺としては、知らない植物なのだろうか。
「これよ。解毒以外にも体力回復にも効果があるのよ」
見せてもらった葉は、どこかで見たことがある気がした。
書庫の本かと思ったが、書庫にある『薬学』『植物図鑑』等では、見たことがない葉だ。
どこだったか?
「なんか見たことがあるような葉なんだよなあ」
俺は少し考えたが思い出せなかった。
そういう葉があるという事がわかった事だけでも今後の参考にしよう。
「かなり珍しい植物のはずよ。私の故郷でしか生えないからね」
今後、旅をすることがあったら、ぜひソフィアさんの故郷にも行ってみたいな。
「そんな貴重な葉を……ありがとうございます」
「気にしないで。また採れば良いんだから」
その時、ソフィアさんの両方の手首に、銀色のバングルを着けているのに気がついた。
そのバングルは文字——ルーン文字だったか?——が彫られていた。
リサの方を見ると、やはり同じバングルを着けてる。
「ソフィアさんが着けてるバングルって何ですか? リサも着けているようだけど……」
「これは魔力制御封印用の手枷よ。ここに捕まっている人達は着けさせられてるわ」
「魔力制御封印?」
ソフィアさんの答えに俺は納得したのと同時に疑問も浮上した。
納得した事は、人間は魔力制御が出来る為、魔法が使えなくても魔導具や魔導器を使える。
だから魔力制御の封印を捕まった人達はされている。
しかし、俺にはこの手枷が着けられてない。
「なんで俺には着けられてないんだ?」
確かに俺は魔力が扱えないが、それを認識するには、爺ちゃんクラスの魔術師じゃないと無理だったはずだ。
ということは、敵の中にかなり高位の魔術師がいる。
「あの子が、わたくし達を捕まえるときに、『必要ない』って言って着けなかったのですわ」
「さっきもリサが言ってた魔法で俺を助けてくれた子?」
「ええ、ユウが気を失う時に剣を止めさせた子でもありますわ」
あの時は女性の声だった気がしたんだけど……
想像より小さい子だったのかな?
まあ、気にしても仕方ない、それよりその子が高位の魔術師なんだろうか。
「ユウは……魔法が使えないのですか」
「魔法というか、魔力制御自体が出来ないですよ」
「珍しいですね。そんな人間は聞いたことないです」
そうだよね、爺ちゃんも言ってたし……俺も聞いたことないです。
「でも、他の人間と違うということは、それには何か意味が必ずあります。気にしない方が良いですよ」
ソフィアさんは魔力が使えないハンデを気にしてくれてるんだろう。
今の所困ってないし、今後も魔力以外でなんとかすれば良いんだからさ。
「ソフィアさん、ありがとうございます」
その後、俺は今の状況をみんなに確認する。
この牢屋洞窟に捕まってるのは、俺とリサ、それにソフィアさんとお供で男エルフ二人。
ソフィアさん一行は三日前に旅の途中で捕まったそうだ。
ついでに旅の目的を聞いてみたが、なぜか男エルフ人達は苦笑いをしながら「観光旅行です」って言っていた。
あとは砦と言っても基本的に木造で最近造られたようで新しいらしい。
兵士だけではなく、身なりが山賊の人が多いらしい。
捕まっても尋問があるわけでもなく、そのまま放置されてるらしい。
あとは兵士が朝と夕方に食事を持ってくるだけらしい。
『らしい』については、俺が直接確認していないから未確定だな。
俺は格子のすみずみまで調べてみる。
木で出来ているなら鉄格子みたく正確に固定されていないだろう。
やはり端の方で木が歪んでる所があり、手を加えれば俺の身体なら通れそうだ。
「やっぱり、一度抜け出して情報を手に入れないとな」
「ユウ、まさか脱出を考えてますの?」
「脱出は外の状況しだいかな。こっちがマズくなるなら脱出を考えた方がいいし、様子見で何かを待つ方がいいしね」
リサの問いに今の状況で期待を持たせたくなかった。
「ユウ達は脱出を計画してるのですか?」
ソフィアさんも俺達の会話に気が付き、近づいてきた。
「まだ、計画はないよ、ソフィアさん。とりあえず外の状況を確認してくるよ」
「そうですか……もし脱出するようなら、私達もお願いします。森までたどり着ければ、私達の能力で、安全な場所まで逃れられます」
「エルフの能力ですか? そうするとそのバングルも外す必要がありますね」
さすが森の民と言われるだけあって専用の能力があるのだろう。
計画を立てる参考にしよう。
それじゃあ、外の状況を確認しに行こうか。




