多難とお嬢様 2
翌朝、昨日の雨がウソのように晴天だった。
俺達は鬱蒼と木々が茂った森の中を、下流に沿ってひたすら歩く。
「今回は、予想外な初の国外旅行だよ、それにゴブリンとかの魔物と遭遇したのも初めてだしね」
「あら、わたくしもですわ。手合わせでの敗北、山登り、魔物、ついでに川で溺れて、国外で野宿……今回は、本当に初めての体験ばかりですわ」
熟睡とまではいかなかったが、休息も取れたことでリサも元気になった。
「それにしても、険しいとは言いませんが、この森は、あとどれ位続くんでしょうね?」
「分かんないな。俺の知ってる地図だと、ゲブラー側と同じくらいの広さらしいけど、確実じゃないしな」
家にある地図は、ある程度簡単に書かれてたからな。
どこか周囲を見渡せる高台みたいなのがあればいいんだけどね。
「先程から気になっていたのですが、ゲブラー王国側の森とは、雰囲気が違いますわね」
「生えてる植物の種類が、違ったりしてるからだと思うよ。それに、気温も向こうより低いね」
リサの感じていたことは、俺も同意見だ。
ちなみにリサを不安がらせたくないので言わなかったが、おそらく動物関連も違うだろう。
そして、魔物もいる可能性がある。
昨日みたいなゴブリンやもっと強いのがいるかもしれない。
「リサ、一応、定期的に索敵の魔法を放ってね。何がいるかわからないからさ」
「分かりましたわ。わたくし、こういう所で役に立ってみせますわ」
リサは索敵魔法を詠唱し始めた。
このまま何も起こらず家に帰れれば良いなぁ。
歩き続けて、今は夕方になろうかとしている。
先程、俺は大きな木を見つけよじ登り、周囲を確認すると小さな高台を見つけた。
高台の周囲は、崖になっているの様で、これなら登ってしまえば辺りを気にしないで、野宿が出来そうだった。
もっとも鳥型の魔物には、注意が必要そうだ。
まあ、森の中での野宿よりは安全が確保出来る。
「あと少しで高台に着くから、今日はそこで休もうか」
「そうですわね。歩き通しで、流石に疲れましたわ」
俺達は、三十分位で高台に到着した。
見上げた高台は、二階建ての家位の高さだった。
良し、この高さの崖なら魔物も登ることはないだろう。
俺達は難なく崖を登り切り、リサは寝床の準備で高台に待機、俺は食料と薪を確保する為に森のへ向かう。
数刻後、食料等を確保して戻ると、崖の上からリサが顔を覗かせた。
「ユウ!! 反対の方向で煙が登ってるのが見えますわ!!」
「煙!! 誰か居るのかもしれない!!」
「わたくし!! 助けを呼んできますわ!!」
そう言うと、リサは顔を引っ込ませてしまった。
「ちょっと待って!! リサ!! 俺もそっちに行くから一緒に確認しよう!!」
……リサの返事が無い。
ああっ!!
まさか、もう行っちゃったの!?
俺は全力で崖を登りきり、リサを探したが既に居なかった。
「リサーー!!」
周囲を見渡すと、遠くで煙が登ってるのが見えた。
しかも赤い煙だった。
普通に何かを燃やすだけでは、そんな煙は出ない。
「あれはおそらく軍とかの組織だった人達が使う狼煙かな」
リサは、あれに向かって行ってしまったのか。
考えたら即行動に移してしまうリサらしいといえばらしいが……。
「ホントに思い立ったら一直線なんだから……」
俺はリサを追いかけるため地面を蹴った。
赤い煙へ向かう途中、俺は周囲から誰かに見られている様な気配を感じた。
しかも襲い掛かってくるわけではなく、並走されてるようだ。
煙に近づけば近づくほどに気配が増えている。
正体を確認したいが、まずはリサに追いつことが優先だ。
そして森が途切れ、狼煙の発生源であると思われる広場に出た。
急ぎ辺りを見ると、レイピアを構えたリサを発見。
その向こうに、黒い甲冑を来た兵士が数人。
さらに、ゴブリンや狼型の魔物も数体居た。
俺は、最初に兵士達と魔物が戦闘していると思ったがそうではないようだ。
リサに対して兵士達が剣を構え、ゴブリン達も戦闘態勢に入っている。
「……」
「……」
兵士達は、無言でリサとの間合いを、徐々に詰めてきている。
足運びや雰囲気からこの人達はプロだ。
しかもフランツさん並の騎士クラスだ。
「まずいですわ…… まさかビナー帝国の方で、しかも軍関係の方と出会ってしまいましたわ。ふふっ、ふふっ」
リサが悪魔の笑顔になりだしてる。
いやいや、明らかに不利な状況だよ。
後ろからも俺に並走した何かがいるんだから、まずは戦うより逃げる事を考えるべきだよ。
そして、ここで違和感がひとつ。
なぜかゴブリン達はフライパンを装備、狼は野菜が入ったカゴを咥えている。
奥を見れば数個のテントが張られている
兵士達のキャンプか?
しかしなんで魔物が炊き出しして、人間と一緒に行動しているんだ?
その時、突然後ろを並走していた気配がザワつく感じがした。
後ろを見ると木々の中でキラリと一瞬光った。
弓矢か!!
しかもこっちを向いてない。
「リサ、危ない!!」
「え? ユウ――」
咄嗟に俺はリサまで全力で駆け寄り、抱きかかえる。
同時に右肩に痛みを感じる。
あの矢はやはりリサを狙ったようだ。
「ユウ、矢が……」
リサは俺の右肩を覗いて目を見開いている。
俺はリサを背に庇いつつ、右手に魔導銃と左手にソードブレイカーを持ち戦闘体制に入る。
「気にしないで!! 今はまず、ここから逃れよう」
片膝をついたリサは頷き、レイピアを構え直す。
見計らったように次々と弓矢が飛んでくる。
二本、三本と俺はソードブレイカーでなぎ払う。
ダメだ、数が多い。
避けるにも、リサが後ろにいるから持ち堪えるしか無い。
その時、右側別方向から気配を感じた。
案の定そちらからも矢が放たれてきた。
「リサ!! 伏せて!! くそっ、間に合え!!」
「え? きゃっ」
俺は、リサに体当たりをして矢の軌道からどかす。
そして――ブスッブスッと右と前方から矢を受ける。
「くっ」
「ユウ!! ユウ!! なんてことを……」
俺は、傷の箇所を確認する。
計三本の矢が、俺の体に刺さっていて、右肩一本、左脇の背中に一本、右太ももに一本といった内訳だった。
それぞれ動かしてみるが、痛みはあるがちゃんと動く。
致命傷は避けられたようだ。
俺達が起き上がる頃には、兵士五人に剣を突きつけられ囲まれていた。
「……」
兵士達の顔は兜を深く被っているせいで確認出来ない。
あいかわらずの無言での行動、そのくせに訓練されたフォーメーションで動いている。
今更だが、この矢はおそらく毒が塗られている。
右肩のあたりがジンジンと痛いだけだったが、ついに痺れ始めてきていた。
しかも、意識が朦朧とし始めてきている。
おそらく矢に痺れ薬みたいな毒系が塗られていたのだろう。
俺は毒のせいで考えがまとまらないし、まともな戦闘が出来ない。
リサの技量だけでは目の前の兵士達にはかなわないと……状況はさらに悪化している。
『フン。難儀シテイルナ』
突然声がした。
俺は、ぶんぶんと周囲を見渡すが誰も居ない。
この声は誰だ?
『汝ニ、死ナレタラ、困ル』
ああ、もう!!
幻聴まで聞こえるようになっちゃたよ。
「落ち着け。落ち着け。焦っても何も始まんない」
俺は小声で呟いていた。
「ユウ?」
リサは心配そうに、俺を見つめている。
考えがまとまらないうえに、幻聴っていよいよまずいぞ。
幻聴の人、何か手は無いか?
『手トハ何ダ?』
おお、幻聴なのに反応してくれたよ。
手って言うのはこの状況を打開する手だよ。
『騎士五、ゴブリン五、狼六、後方ニ最低四、テントノ中ハ不明、ソノ他不明』
確かにそうだな。
『汝ハ土地勘ガ無ク、毒ヲ受ケタ負傷者、戦闘力ガ劣ル者、ドンナ策ガ有ル?』
例えば、そうだな――
「ソードブレイカーでの突破」
『却下ダ。ソモソモ、コノ傷ノセイデ無理ダ』
『この傷』って妙な言い回しをするな。
「銃で迎撃」
『却下ダ。コレモ傷ノセイデ照準ガ定マラナイ』
そうだな、しかも手持ちの弾では、甲冑に弾かれる。
「煙幕での脱出」
『却下ダ。汝ハ負傷、リサハ体力低下ノ為無理ダ』
「幻覚香での混乱」
『却下ダ。効キ目ガ出マデニ、汝ガ殺ラレル』
「火炎香での混乱」
『却下ダ。炎ガ広ガルマデニ、汝ガ殺ラレル』
「リサの魔法」
『却下ダ。詠唱スル時間ガ無イ』
「……」
『……。他二手ハ?』
あれば苦労しません。……そうだ、あれが有ったよ。
「ヒーロー登場?」
『却下ダ。ソモソモ、現在ノ条件デハ、手ガ無イ』
うっ!! 痛いところをついてきたな。
そうだな、こんな外国の森の中で助けが来るはずもない。
『汝ノ最終目標ハ?』
改めて聞かれると――
「リサと二人で生きて帰ること」
『ソウダ。一番可能性ガ高イ手段ヲ取レバ良イ』
はあ、仕方ないな、俺は両手の武器を兵士達に投げ、降参のポーズで手を挙げる。
リサもそれを見習ってレイピアを投げる。
やっぱりこれが一番生き残る可能性が高そうだ。
「……」
無言の兵士達は、微動だにせずそのまま剣を構えている。
俺の方は、無理に立ち上がった事で、毒が更にまわって来てしまったのかぼんやり具合がピークだ。
視界もぼやけてきた。
囲んで居た兵士の一人が一歩前に出て、俺の目の前で上段の構えを取った。
おいおいおい!!
自分の選択した行動での死だ、それは納得するしかない。
せめてリサはだけは助けないと!!
俺が言葉を出そうとした時――
「待て!!」
どこからか女性の声が聞こえた。
すると兵士達の動きがピタッと止まった。
声のする方を向くと、テントがあった。
どうやら他にも人が居たようだ。
助かったのか?
それと同時に朦朧とする俺の意識は途絶えた。




