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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第2章 少年期 天使で悪魔なお嬢様 編
13/29

多難とお嬢様 1

 リサを探して、滝まで半分くらいの距離まで来た。


 今のところリサを見つけられていない。


 この山は、舗装されているとまで言わないが、一応砂利や木の板で道が出来ている。


 しかし滝まで行くには、途中からほぼ獣道に近い所を通る必要がある。


 土地勘が無ければ容易に入る山ではないのだ。


 その上、空模様も予想通り悪くなってきたし、さらに湿気が強くなって来たので急がなくてはまずいな。

 

 獣道の途中で、生い茂った植物を切った跡があった。

 この跡は、おそらくリサが邪魔な木々にレイピアでつけたものだろう。


 現在、村の人間で滝まで行き来するの俺ぐらいだ。


 そして、なんとか短時間で滝の崖下に到着した。


 目の前の滝は、この前の大雨で水が増え、量もかなり多かった。

 辺りを見渡したがリサの姿は見つからなかった。


 雨もポツポツと降り出してきた。


 念のため、崖の上にある滝小屋付近探したが見つからなかった。


 「リサーーーー!!」


 やまびこが帰ってくるだけだった。

 リサはどこにいる?


 獣道は真っ直ぐの一本道ではあるが、獣道には違いない。

 もしかしたら途中で道を外れたのかもしれない。

 そう思い、リサのレイピアで斬った最後の痕跡付近まで戻ることにした。


 戻る途中、注意深く辺りを探っていると、何回も金属がぶつかる小さな音が聞こえてきた。


 山の中で音が反響してる為か、解りづらかったがなんとか音の方へ向かった。


 向かった先は正解だったようで金属音は大きくなってきた。


 さらに近づくと、赤みがかった金髪をなびかせたリサが、何かと戦闘している姿が見えた。


 あれは……ゴブリンだと!!

 しかも、五、六体に囲まれている。


 俺の初魔物遭遇が今日とはついてないな。


 俺は、駆け足でリサの元まで向かった。

 ちょうどリサの斜め後ろからゴブリンが、リサに剣を突き立て飛びかかろうとしていた。

 俺はゴブリンに対し、眉間へボーガンで仕留めつつ、リサの元に駆けつけた。

 まず一体、あとは……五体か。


 「ユウ!! ……あっ、ありが――」

 「話は後で。まずはここから逃げよう」

 「なぜ? うふふっ、逃げないで倒せばいいのよ!!」


 ああ、悪魔の笑顔になってるよ。


 しかもリサの足元にはゴブリンの死体が三体あった。


 見れば、リサは笑顔と対照的に肩で大きく息をしてた。

 山道と魔物で体力がきついのだろう。


 ゴブリン達は、俺の突然の乱入に驚いたのか一斉に距離を取り叫び合っている。


 確か本で読んだことがあるが、ゴブリンは基本的には集団行動で襲ってくる。

 また、器用な魔物で戦士系や狩人系等いろいろこなせるはずだ。

 見た所ここには、戦士系のゴブリンしか見当たらない。


 場合によってはどこからか狩人系が狙っているかもしれない。

 俺一人ならともかく、今のリサと一緒に戦うのは危険が大きすぎる。


 「リサ、ゴブリンがこれだけとは限らないよ。このまま戦っては俺達の体力が持たないかもしれない」

 「では、どうするの? 逃げるだけでは、追ってこられて、結局戦うしかないわよ」

 「いや、手はある。リサ、口と鼻を布で抑えて。……それじゃいくよ!!」


 俺は、背負っていた鞄から素早く小瓶を一個取り出し、思い切り地面に叩きつける。

 小瓶は砕け、数秒後、中の液体から煙が発生する。


 煙はみるみるうちに辺り一面に広がっていく。


 ゴブリン達が見えなくなるの確認し、素早くリサの腕を掴み脱出する。

 さらに一定の距離ごとに、鞄から別の小瓶を叩きつけながら走る。

 こっちの瓶は試作で作った香水である。

 ゴブリン達に匂いで追われてはたまらないからね。


 なんとかゴブリンを振り切ったようだが、村とも滝小屋とも正反対の方に向かってしまった。


 「リサ、ここでいったん休憩しよう」

 「はぁ、はぁ、わかりましたわ」


 ほぼ全速力で山を駆けていたので、さすがに疲れているな。


 さて、これからどう戻るか。

 直線で村や滝小屋へ向かうと、さっきのゴブリン達にまた遭遇しそうだし……


 「あら、近くに川があるのかしら。水の流れる音がしますわ。ちょっと水を飲んでまいりますわ」


 リサは、ささっと茂みの奥に入っていった。


 「ん? 水って……待って、リサ!!」


 たしか滝から流れて来ている川のはずだが、今は水が増してる。

 そんな所に近づくのは危険だ。


 そう思って呼び止めた時――


 「キャーーー」


 リサの悲鳴が鳴り響いた。


 すぐさま悲鳴の元に向かったが、そこは崖の様に崩れていた。

 おそらく川で地面が緩んでいたのか。


 辺りを探し、川下を見ると流されているリサを見つけた。


 川の流れが速いので、走っても追いつけない。

 ええい、悩んでも仕方ない。

 俺は意を決し川に飛び込んだ。

 

 途中、後ろから流れてくる木に気をつけながら、俺はリサに近づいていく。


 飛び込んで気がついたが、川は上流から木々を合わせて運んで来ているようだ。


 「リサ!! もう少しだから頑張って!! 近くの木に掴まって!!」

 「ええ!!」


 流れている木に何とかしがみつくリサ。

 俺もその木に追いつき、リサの肩を引き寄せる。


 「まず、どこかの岸にたどり着こう」

 「わかりましたわ」


 俺とリサは懸命に水を蹴って岸に向かって泳ぐが、流れが強すぎて岸に辿りつけない。


 「リサ、これじゃ体力を、無駄に、消費するだけだ。岸は、諦めて、流れが緩やかになった時に、全力を、出そう。それまでは、耐えるしかない。とりあえず、流木に、上がって休んで」

 「……申し訳ありませんが、そうさせて頂きますわ」


 体力が落ちてるリサを流木に上げ、俺は水面からしがみつきながら、流木の姿勢を安定させる。

 雨の勢いも強くなっているなかで、上げても意味は無いかもしれないが、水中よりはマシだろうと思う。



 一時間位だろうか。


 どうにも出来ず、流されていると前方に大きな川との合流が見えた。

 どの位流されたか分かっていなかったが、あの大きな川は国境に利用されてる川だ。


 国境の川は、流れが緩やかになっている。

 こんな所まで流れてしまったが、この川下りも終わりが見えてきたな。

 

 国境の川との合流にさしかかった、その時――


 「ユウ、後ろ!!」


 リサが何かに気付いた。

 俺は後ろを振り向き愕然とする。

 俺の体より大きな大木が流れてきた。


 「まずっ、リサ、潜るよ!!」


 リサを抱き寄せ、衝撃を抑える為に水中へと潜る。


 大木の衝撃は大きく、水圧に押し潰され、逆らうことが出来ない水流で、俺は上下左右の感覚が掴めなくなる。

 夜になってるせいもあって、暗闇の水中をさまよう。

 

 「ふうぅ!! はぁ、はぁ、危なかったー」


 何とか水面に出ることが出来た俺は、抱きしめていたリサに顔を向ける。

 あれ、目、開けてないな……


 「リサ!! リサ!! 起きて!!」


 リサの返事がない、さっきの衝撃で完全に気を失ってるようだ。

 速く岸にたどり着かなければまずいぞ。


 俺は必死に泳ぎ、岸に着いた。


 リサを横たわらせ、頬を二、三回と叩く。


 「リサ!! リサ!!」


 リサの胸に耳を当てると、心臓は……動いてる。


 次に息の確認をする為、リサの顔に自分の顔を近づけ間近に迫った時――。


 パチッとリサの目が開いた。


 俺とリサはそのまま数秒静止したままだった。


 「お、おはよう……」


 やっと出てきた言葉はこんなものだった。


 リサの顔はみるみる真っ赤になっていく。


 「ふ、ふ、ふけつよーー!!」


 俺の頬へリサの鉄拳がバチーンとヒットし、俺は後ろへ尻もちをつく。

 すかさずリサが立ち上がり、レイピアを構え始める。


 「わ、わたくしに、キスをしようとしましたわね。な、なんの了承もなく。そ、それはまだ、は、早すぎですわよ、よ、よ!!」


 そんな下心なんてなかったからね。


 「いや、違うよ!! 誤解だよ!! 誤解!!」


 左頬のさすりながら、俺は懸命に弁解する。


 「リサが気を失っちゃったから息してるか確認する為に顔を近づけたんだよ。別にキスしようなんて考えてないよ」

 「で、では、キ、キスもしたくないほど、わたくしに魅力が無いとでも?」

 「そんな事言って無いよ。リサは魅力的だよ。その赤みがかった金色のサラサラの髪も。自信に満ちたその目も。鼻だって、唇だって」


 俺は早口で弁明しているが、話の方向が違ってきているような……


 「……つまり、可愛いし魅力的だよ!!」


 あれ?

 俺、何言ってんだろ?


 「……か、かわ、かわいい? わたくしが、か、わ、い、い…… キュー」


 キュー?

 リサは、そのまま後ろに倒れていった。



 数分後、再度目を覚ましたリサは、「先程のことは忘れて」と言って落ち着きを取り戻していた。


 俺は、そこら辺から比較的濡れていない枝木等を集め焚き火の準備をし始めた。


 「ああ、リサ。炎系の魔法使えるかな? 出来たらこれに軽く放って欲しいんだけど」


 リサは頷き、短い詠唱と共に枝木に炎を飛ばす。

 用意した枝木は順調に燃え出す。


 良し、これで体を温める準備は出来たな。


 俺は、枝木と一緒に採ってきた植物の大きな葉の加工に取り掛かる。


 「さてと、まずはリサ、何で森に入ったのかな? 俺と喧嘩までするほど滝を今日中に見たかったの?」

 「滝が見たかったのでは無いのですわ。花を採りたかったの」


 リサはバツの悪い表情をしつつ答えてくれた。


 「花? 滝の回りに咲く花なんて何に……」

 「ローザ様を。妊娠したローザ様を祝福する為に花束を送りたかったのですわ」

 「あー、母さんの為か…… それについては俺も何も用意してないからなぁ」


 リサはシュンとなっている。


 「それと喧嘩の件はごめんなさい。ユウは森に入る時間帯とか、あと天候の事を考えて反対していたんですわね」

 「俺も最初に理由を言ってれば良かったんだから、こっちこそごめんね」


 今回の喧嘩は、お互い悪い所があったしね。

 行きたい理由も行けない理由も肝心な事を確認してなかったから……


 「わたくし、何かを思い立つと、すぐに行動に移さないと、気が済まなくなってしまうことがありますの。フォーローサイト様にも、度々注意されてますわ。本当にごめんなさい」

 「もう良いよ。今回のリサの理由も分かったし、反省もしてくれたし、この話題はこれで終わり」


 俺とリサは見つめ合い笑顔を返し合う。


 「こほん。そういえばずいぶんと流されましたけど、村にはどれ位で戻れますの?」

 「そうだなー。最低六、七日位かな。ちなみにここはゲブラー王国じゃないよ。ビナー帝国領だよ」

 「ビナー帝国ですって!? それでは、この大きな川は国境の川でしたのね」


 『ビナー帝国』の言葉に勢い良く反応するリサ。


 「あの大木の衝撃が大きかった様でさ、帝国側に流されたんだよ。向こうの岸に着いてれば、山の中を歩くのみだけど、こっちの場合、さらに川渡る方法を考えないとね」

 「近くに帝国の街や村とかは……いえ、わたくし達がゲブラーの者って解ったら捕まりますわよね」


 リサの心配ももっともだけどね。


 「その心配は無いと思うよ。俺達はよそから見たら子供だし。それに、いくら戦争をしてる間柄でも、一般の人までそうでも無いさ。兵士とかに見つからなければ大丈夫だよ」

 「それでも、用心するに越したことはないですわ」


 リサの意見に賛成だよ。


 「まあ、この辺って帝国側も王国側も山と森で埋め尽くされてるから、村とか無いと思うよ。だから、下流に進んで森を抜けて、自力でゲブラーへ渡るしか無いかな」


 しかし、増水の件もあるから、川伝いに戻るのは危険だな。


 となると森の中を進むしかないか。

 土地勘が無いから厳しいが、この鬱蒼と茂った森を下流方向で行くしか無い。


 とりあえず、平地に出ないとな。

 森の中で何日もはさすがに危険過ぎる。


 「ところでユウは何を作ってますの?」

 「ああ、これは……。良し、ちょうど完成だ。はい、リサ、これ着て、濡れた服は脱いで乾かそうか」


 俺はリサに、大きな葉と蔦で作った、首から下を覆う服を渡す。


 「リサの体を覆える様に大きめのポンチョというかマントみたいなのを作ってみたよ」


 濡れきった服を着続けていてはカゼをカゼをひいちゃうからな。


 リサはポンチョを掲げ、隙間が無いか確認している。


 「すごいですわ。葉っぱからこんな服を作れるなんて。ユウは、ホントになんでもできますわね」


 ポンチョの出来を気に入ってくれて良かった。


 リサは、ポンチョを着てくれたが中の服を脱がず、もじもじしている。


 ああ、そっか俺の前で着替えとか恥ずかしいよね。


 「さ、さて、リサが服を乾かしてる間に、俺は辺りを探索してくるよ」


 俺は、そそくさとこの場から離れた。




 その後俺は、周辺の探索と合わせ、食料の確保を行った。


 現状、失った装備は、川流れの時にボーガンだけだった。


 食料確保の狩りとしては、魔導銃で仕留めることも考えたが、発泡音が大きいので、ソードブレイカーでやるしか無いな。


 鞄から動物をおびき寄せる香水を辺りに振りまく。


 そして、木に登り、待機。


 周囲を見回し獲物を探していると、ちょうど鹿が来るのを確認した。


 俺は、真下に鹿が通るタイミングで、そのまま落下する。

 落下の力も加わり一撃で仕留めることができた。


 鹿、うさぎを追加で二羽。

 うむ、十分な結果だな。


 周辺の探索も終わり、一応安全そうなのでリサの所に戻るか。


 「ただいま、リサ。服乾いたかな……」


 それと同時に目に入ったのは、焚き火の側で干されているリサの下着だった。


 視線を遮るように、顔を真赤にしたリサが入ってきた。


 「見ましたわね?」


 黒……黒……光沢がある黒だったな……上下ともに。


 「み、みて、ません……くろいの、なんて……」


 俺の顔も真っ赤になってるのだろう。


 目が泳ぐってこういうことを言うんだな。


 そして本日二回目のビンタをいただくことになった。


 俺は左頬をさすりながら、先程狩った鹿、うさぎを捌く。


 「リサ、もう少し待っててね。食べるもの出来るからさ」


 リサも最初は、「手伝いますわ」と言ってくれたが、うさぎのそのままを姿を見て、気持ち悪くなってしまったようだ。


 まあ、普通は捌いたりなんかしないもんな、しかたないよ。


 調理といっても、食べられる部位を選り分け、鞄の中にあったハーブを使い、獣の臭みを消しつつ、焚き火で焼くだけなんだけどね。


 食べきれない分は一晩使って干し肉にする予定だ。


 食事も終わり、あとは休息を取るだけになる。


 さっき調達した大きな葉を使って寝床を作っていると――


 「わたくし、家を出ると何も出来ないと痛感しましたわ。自分で料理を出来ない。寝床も用意できない……。今回は助けていただい事も含め全部、ユウにしてもらってますわね」


 リサは落ち込んだ顔で、俺を見つめてくる。


 「それは仕方ないよ。俺は知っていて、リサは知らなかっただけの事だよ。今までやったこと無かったんでしょ。今度、覚えればいいだけのことだよ」


 貴族のお嬢様であるリサにとって、生活面のことは使用人さんがやってくれてるだろうし。


 「そうだ、リサは侵入検知みたいな魔法使える?」

 「フォローサイト様から戦闘で使えるとの事で、索敵の魔法を教えていただいてますわ」


 そういうと、リサは早速索敵の魔法を発動する。


 この魔法、自身を中心に決まった範囲で設定出来る罠魔法だ。


 魔法が侵入者を確認すると術者に対して音と共に方向が分かるらしい。


 あと、リサの場合は、発動設置すると五時間位で魔法が消滅するとの事だ。


 「ほら、俺が出来ない事、リサが出来るじゃないか。二人で協力すれば何でも出来るよ、きっと」


 リサは目を見開き驚いた。


 「そんなに悲しそうな顔しないで。リサのいつもの笑顔がみたいな」


 ふふっと口元が笑い、リサの天使の笑顔が戻って来た。


 「……ありがとう……」


 その後、索敵魔法のおかげで見張り番を立てずに済み、俺とリサは床に付いた。


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