観光とお嬢様
自宅に着くと、ちょうど父さんと母さんも帰ってきてたので、リサの紹介から始めた。
「初めまして。わたくし、リサと申します。フォローサイト様の弟子でございます。今回はお師匠様のご厚意で旅の同行をお許し頂きました。短い間ですがよろしくお願い致します」
天使の笑顔と共にリサは、両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて優雅に挨拶をする。
さすが貴族のお嬢様だな、姿勢がほんとに綺麗だ。
父さんと母さんも一瞬見とれてから簡単な挨拶を返す。
その時、父さんの視線がリサのレイピアを凝視していた。
「さっきから気になっていたんだが、体格、指の血豆具合とレイピアから察するに、リサは魔法だけでなく、剣術の修行もしてるのかな? ちなみに剣術の師匠は、カールが担当だろ」
「正解ですわ、シリウス様。よくカールとお分かりになりましたわね。……ああ、このレイピアですわね」
「ああ、そのレイピアは、昔カールが使ってたのと同じだったからね。そうかあいつも弟子を持つようになったか」
カールさんって誰かな、父さんの知り合いのようだけど……
俺が疑問に思っている事が伝わったのか、父さんは俺に顔を向けた。
「そうか、ユウは知らなかったな。カールは、俺が騎士団に居た頃に副団長をしていた奴だ。俺が辞めた際に団長を任せたんだよ」
リサは現騎士団の団長から剣を学んでいるのか。
そりゃあ、あんな突きとかして強いわけだ。
「ちなみにカールからは剣術だけではなく、槍、棒、弓といった武術全般を教えていただいてますわ」
「ほう、そいつはすごいな。魔法に剣か……将来は魔法剣士になるのかい?」
「特に決めておりませんわ。それに家が許すはずがありませんわ……」
「ま、将来なんてどうかなるか分かんないさ。今は興味がある事、全てをやるといいさ。ここにいる間は、気兼ねすること無いよ」
父さんはリサに微笑みつつ話しかける。
「ありがとうございます、シリウス様。改めてこれからよろしくお願いします」
リサは天使の笑顔で返す。
父さんは俺とリサを見比べ、ため息一つ。
「はぁ、今度の子もこんなに可愛い女の子になって欲しいな。可愛がりがいあるんだろうなあ」
そんな!! 父さん、俺の立場は!!
「父さん。息子をさらに可愛がってほしいな!!」
「バカやろう。もっと手のかかる子もほしいんだよ。お前は、俺が言うのもなんだが優秀すぎる。それに娘が彼氏を連れてきた時に相手をボッコボコにしてみたいだろ」
父さん、後半部分は相手の人が可哀想だよ。
ボッコボコって、父さんがやったら生死に関わるよ……
ん? さっきはスルーしてしまったが――
「ちょっと、父さん、さっきの『今度の子』って何?」
父さんはしまったといった顔で母さんを見る。
「もう、迂闊なんだから。みんなに報告があるのよ。ホントは夕食の時にでも言おうと思ってたんだけどね。あなた!!」
「ああ。……おほん。みんな、半年後、俺達に新しい家族が出来ます。ローザが妊娠しました」
父さんは照れたようで頭を書きながら、お腹に手を当ててる母さんを見つめる。
俺も爺ちゃんもリサも揃ってきょとんとしている。
数秒の沈黙後、いち早く我に返ったのは爺ちゃんだった。
「はっはっはっ。おめでとう、シリウスにローザ。新たな孫が楽しみだよ。ローザ丈夫な子を頼んだぞ」
「もちろんです、お義父様。今度も頑張りますよ」
俺が唖然としてるなか、リサが一歩前に出る。
「シリウス様、ローザ様、おめでとうございます。何か贈り物が用意できれば良かったんですが申し訳ありません」
「ありがとうね。それに贈り物なんて気にしなくてもいいわよ」
俺もなんとか復帰し一言。
「父さん、母さん、おめでとう。俺に兄弟が出来るんだね。楽しみだよ」
「ユウもお兄ちゃんになるんだからこれからよろしくね」
俺に兄弟が出来るのか……楽しみだな。
その後、リサと爺ちゃんをそれぞれお客さん用の部屋に案内し、荷物を置き、リビングに戻ってきた。
「さて、わしは旅の疲れを癒やすためにここで寛ぐとするか」
「ユウ、リサをさっそく村や近くを案内してあげたらどうだ?」
「そうだね。リサはそれで構わない?」
「そ、そうですわね。でも出来ればその前に……」
リサは両手を前にもじもじしだす。
「で、出来ればお風呂をお借りしてよろしいでしょうか? 先ほどの手合わせで汗をかいてしまったので……」
「まあ、気が付かなかったわ。ごめんなさいね。女の子だもんね、気にするわよね。さっ、案内するわね」
母さんは両手を合わせリサに微笑みながら風呂場に連れていく。
父さんは、リサが部屋を出たのを確認すると爺ちゃんに話しかける。
「親父、リサの事なんだがあの赤金の髪ってことは、もしかすると……」
「ああ、お前さんのお察しの通りだよ。だが、ここに居る間は普通の子として扱ってくれ」
「分かった。ローザも気付いている様だから後で伝えておくよ。リサとは初めて会ったが、あれは母親の遺伝が濃いな、驚いたぜ」
「わしも成長するにつれ容姿も性格も似てきたから驚いているさ」
俺は父さんと爺ちゃんの会話を邪魔しないよう聞いていた。
父さんもリサの素性をしってるようだな。
リサは貴族の中でも大きな家のお嬢様なんだろうな。
それとなく父さんと爺ちゃんに聞いてみたが、はぐらかされてしまった。
リサのリフレッシュも終わり、俺はリサを村の案内に連れいった。
最初の案内場所は、俺の研究室だった。
まぁ、約束していた事もあるが、リサが家にいる時から工房、工房と連呼していた事が大きい。
今回届いた資料やら機材を図書室、倉庫へそれぞれ運びつつ、リサに簡単に案内した。
「蔵書の数がいっぱいですわね。これ全部読破するのにどれ位かかるのかしら……」
「だいたい毎日読んで二年位かな」
「もしかして全部読み終わってますの? ざっとタイトルを見てもジャンルが様々ですわよ」
「まあね。中には読めない文字の本が二十冊位で、それは飛ばして他は読み終えてるよ」
「そんなに!! ユウは勉強家なのですわね」
「それはどうかと思うよ。学校で習う一般教養は母さんからしか教われないしね。ここは、爺ちゃんの集めた本がベースになってるから偏ってるかもね」
「それでもすごいですわよ。王都の図書館より専門的な本が多すぎますわ」
他と比べたことがなかったけど、さすが元爺ちゃんの研究室だけあったんだな。
そして図書室、倉庫と案内を終わらせ、研究室に向かった。
「ここが工房……おれは研究室とよんでる所だよ」
「思った以上に狭いですわね。ここで『ピクシー』が作られてますの」
リサは、研究室を見渡し狭さに驚いている。
まあ仕方ない。
元は十分の広さがあるはずだった。
『薬師』『調香師』『錬金』『魔導銃』といったスペースを確保していったら、それぞれの機材でいっぱいいっぱいになってしまった。
「やりたいことがいっぱいあるからね。スペースが足らない状態だよ」
「なるほど。錬金学とは複数の学問が合わさり別れると聞いた事がありますがその通りなのですわね。ユウは、どれか専門的にやろうとは考えないのですか?」
「今のところは、覚えた事は全部やりたいんね。どれか一つなんて勿体無いよ」
その時、リサは辺りをキョロキョロ見だした。
「すごい向上心ですわね。わたくしも見習いたいですわ。……ところで、香水のスペースはどこですの」
「ああ、そうだったね。リサのお目当てはそうだったね。こっちだよ」
リサを連れ『調香師』スペースへ向かう。
スペースにはビーカー、フラスコ、植物からエキスを抽出する装置等々が並んでいる。
「こういう機材で香水って作ってますのね」
「気を付けてね。強めのアルコールが入ってる物もあるから……」
何かの拍子に怪我をしたら大変だ。
「そういえば『ピクシー』は何の香料を使用してますの? ……あっ、聞いたらまずいですわよね」
「全然構わないよ。『ピクシー』には、いろんな香りを合わせてるんだけど、メインは特別な花を使ってるんだ」
「特別ともうしますと?」
「真っ白な花びらに爽やかな甘い香りがするんだけど希少な花なんだ。だからこの村では結婚式等の特別なお祝いに送る花の定番なんだよ」
「お祝いの花……」
リサを見ると、ちょっとボーッとしてたけど香りに当てられちゃったかな。
「ん? リサどうしたの?」
「えっ、ああ大丈夫ですわ」
「希少な理由は、基本的に水辺に咲く花だけど、どこでも生息するわけでもないんだ」
しかも現在、この花が蕾を付け咲くための条件が分かっていない。
フランツさんがこの花について研究中である。
「この辺だと近くの山の奥にある滝のそばでしか咲かないんだよ」
「そんな希少な花から作られてましたのね『ピクシー』は……」
「そうだ、もし良かったら、今度好きな香りをリクエストしてよ。新しい香水を、作るための参考にしたいからさ。作ってあげるよ」
「まぁ、嬉しいですわ。『ウィンド』様が作られる香水楽しみですわ。絶対約束ですわよ」
良かった、さっきのボーっとした顔から天使の笑顔が戻って来た。
研究室の案内も終わり、今度こそ村の案内を始めた。
雑貨屋やフランツさんの花屋、ついでその裏にある丘に一面の花畑へ。
リサは花畑には大変喜んでくれた。
あとは……案内出来るところは無いな。
この村は観光地では無いので、ほとんど案内することが無く終わってしまった。
一応今日の予定では、村の外の牧草地とかも案内するはずだった。
しかし昼間に手合わせしてさらに村中を歩きまわっていたので、日はまだ高いが村の外は明日にすることにした。
自宅に戻る途中、リサと喧嘩をしてしまった。
理由はリサが「『ピクシー』の花を見たい」と言ってきた為だった。
「リサ、明後日あたり行こう。女の子だし、山道だし大変だからさ」
「わたくしは、大丈夫ですわ!!」
それに一昨日に大雨が降り、今日は朝から湿気が強かったから、山の天候が変わるかもしれない。
今は晴れていれも山中に付く頃には雨が降る可能性がある。
「ダメなものはダメだよ。リサの体力的にきついしさ、それに――」
「もう!! わかりましたわ、ユウの分からず屋!!」
リサはツンとそっぽを向いてしまった。
天候の話とか聞いて欲しかったんだけど……
自宅に着くとリサは客室へ戻ってしまった。
爺ちゃんに事情を話すとこういう事は慣れてるのか「任せとけ」と、言い客室に向かった。
俺は、爺ちゃんにリサを託し、リビングに戻った。
十数分後、若干げっそりした爺ちゃんが戻ってきた。
「なんとか治まったぞ。すまんなユウ。リサは思い立ったらまっしぐらな所があってな」
なんか猫みたいだな、リサ。
「大丈夫だよ。俺もリサと今後も仲良くしたいしさ。今度は俺自身で何とかしてみせるよ。ところでリサは?」
「少し仮眠をするとさ。やっぱり、疲れが出ているようだな。夕食には起きると思うぞ」
俺は、うなずき自室に戻ることにした。
さて、それじゃ時間も空いてしまったので、届いた先史文明関連の本を読んでおこうかな。
数刻後、読書に集中していると、突然激しくドアを叩く音がした。
「ユウ、休んでいる所すまんが、そこにリサはいるか?」
ドア越しに爺ちゃんが聞いてきた。
もちろんリサは居ないけど……
外に目をやると夕方になっていた。
つまり、家に戻ってから三時間位経っていたのか。
俺は急ぎドアを開け、爺ちゃんに――
「リサは居ないよ。リサがどうしたの?」
「ユウ、リサがいつの間にか居なくなった……あと、持ってきていた軽装の防具一式とレイピアが無い」
リサは装備一式持ってどこへ……
あっ、まさか!!
「もしかしたら、山奥にある滝に行ったんじゃ……」
「滝? そんなとこ行ってどうする?」
「喧嘩の原因が『滝に咲く花を見たい』って、リサが言った事にあるんだよ。今日行く行かないで揉めたんだよ」
「そうか……なら山へ行った可能性が高いな。フランツ達に頼んで村中探してもらってるが、今の所見つかってないしな」
「俺が滝まで先に探しに行くよ。もうすぐ夜だ。時間は早いのに越したことはないよ」
爺ちゃんは、眉間に手をあて考えている。
「……分かった、すまんが頼む。フランツ達、自警団は準備を整えたら順次捜索に向かうようにする」
「あと、下山が難しい場合は滝小屋に留まるから心配しないでよ」
「まあ、ユウの方は心配しとらん。リサをしっかり頼んだぞ」
いつの間にか父さんと母さんも爺ちゃんの後ろに来ていて、うんうんと頷いてる。
みんな少しは息子や孫を心配して欲しんだけどさ……
リサ、武術に自信があっても、初めて入る山なんだから無茶しないでくれよ。
俺は、ソードブレーカーと魔導銃、そしてボウガン等を装備し山奥の滝を目指し家を出た。




